【九十九路】フェドーシャ【第五期】

佐治
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◇…羽冠の贄器 フェドーシャ
羅針盤:月光 ポイント:150pt(強靭:30 知能:40 器用:30 機敏:20 幸運:30)

絆:満ちゆく幾望の王 ハーシェルさん(illust/63220473)優しい旋律の人

◇前期:アンフィサ(illust/62996246)
 前期絆:ジンさん(illust/63008690)
     ⇒今期:(illust/63371494)
「恨んでる訳じゃない。あんな祠なくてよかったから。たまたま私が次の贄器だった。それだけよ」
「この本のことが真実なら、ハッピーエンドなんていつの話になるのかしらね…」


次の贄器であった女。聖獣の庭の祠がアンフィサの願いを叶えたジンによって破壊されたことで、
贄器になることが出来なかった成り損ない。
中途半端に呪縛を施された状態であった彼女は、開いた羽冠を付けられたまま、声も奪われ、肉体の時は止まった。
故郷に戻されることもなく、強制的に結晶化を起こし泉に沈められるはずであった。
しかし一部の神官により泉に不純物を沈めるべきではないといい論争が続いた結果、
裁決が下るまで旧聖堂の塔に幽閉された。そして彼女は忘れ去られた。

幾年経っただろうか。ある日、老いた神官が塔に訪れた。
手元に届けられた一冊の本。その本は、青と白で飾られた密やかな恋を描いた本であった。
「きっとこれが貴女の助けになる。お逃げなさい」
老いた神官は塔の錠を外した後、身を投げた。

「今更、何処へ行けと言うのか…」

羽冠の影は色濃く落ちる。
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いつ以来だろう、外に出たのは
いつ以来だろう、素足で土を踏みしめたのは
そんなごく普通の喜びと、どうしようもない虚無感を抱えながら数日を過ごしていた

ある日靴を手に人の出ない真夜中に塔を出た
塔が見えるところまで歩いては戻ることを繰り返していたが、月明かりを元に当てもなく彷徨う
振り返ると塔が見えなくなっていて、見覚えのないところに辿り着いてしまった
どこか違う場所へ行く勇気もなく、ただ同じところをぐるぐると巡っていたのに
急に恐ろしさが込み上げ夜と共に纏わりついた
するとどこからかオカリナの音色が聞こえた あの山からだろうか
その音色は不思議と優しく、郷愁をも抱かせるもので、誘われるように山に分け入った
木々が開けた先を見上げると、満天の月を背にした人が奏でていた

(綺麗な人。女神?神様みたいなのは貴方のほうなのに)
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その人はハーシェルと言い、ある小国の王だった そしてなぜか【贄器】について知っているようだった
連れられた谷は小さいながらも美しい国で、自国の見せ掛けだけの美しさよりも遥かに心地よい
無声であることを身振り手振りで伝えたのちに名と状況を少しずつ書き記す
誰かに自分の名を伝ええることも、書き記すことも随分と久しく手は震えていた
その手を優しく握った王は、意思表示の術を与えてくれた 震えは止まっていた
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声無き自分に王は、民は、ライールは、大樹フリイはただただ優しかった
(その優しさが時折憎らしく感じるときがあった ひどく哀れまれている気がしたから)
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自由など元よりなかったようなものだったから、王が私の自由を願ってくれることを嬉しく思うようになった
(解呪されたら何をしようなどとお気楽な考えを抱くことはできなかったけれども)
王と共に解呪の手段を探すのはとても楽しかった 王の膨大な知識の泉に没頭できた
共に何かをできることは楽しい 何かを得ることが嬉しい 孤独ではないことがただ温かい
谷に来てから、自分が失ったものを取り戻してゆくような… そう、人に戻されてゆく感覚だった
そしてあの本の主を辿っているのだと、その時はっきりと確信した
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解呪の方法を探っているとき、王は手を触れることを拒んだ
何か不味いことでもあったのだろうかと不安になってしまったが、どうやら思い違いのようだった
ふわりと谷を包む月光のような、神様のような優しい王が見せた人間的な一面
王が吐露した言葉は、王自身にとっては澱んだものだったのかもしれない
それでもそれはどんな言葉よりもひどく優しく甘い言葉だった
迷うことなく王の、いや彼の手を握った(いつからか王は彼になっていた)

喉が熱を持って一呼吸 今まで見たことない彼の表情に思わず笑ってしまった

「ハーシェル、愛していただけるならなんてずるいわ。ちゃんと言って頂戴」
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谷に祭りの賑わいが近づいていた そこには甘い菓子の香りが漂っている
羽冠も外れスッキリとした目に映る谷はとても美しい 何より彼の表情の機微が見てとれるのがとても楽しい
「あの時拒んでいたら私は谷から追放されてたかしら?冗談よ、貴方はそんなことしないわ。
皆貴方の作るお菓子を目当てにお祭りに来るのよ、きっと。だって王様手作りのお菓子が食べられるなんて滅多にないことよ?
そんな王様特製がいつでも食べられる私は幸せ者ね。ふふっ、胃袋掴まれてるのだから、離れるわけ無いでしょう旦那様?」

あの本のハッピーエンドはまだ迎えていないのかもしれないけれど 私の話はハッピーエンドでめでたしめでたし
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「二人だけの秘密?でもフリイさんにはもうばれてると思うのは私だけかしら。ライールにも知れてるかもしれないわ?」

まだ小さな国なんだもの、きっとすぐばれちゃうわ!


■企画元(illust/60865485)

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2017-06-06 15:33:34 +0000