【九十九路】ウミボウズ【第二期】


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九十九路の羅針盤【illust/60865485】

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▼幽霊艇ウミボウズ/操舵守:巫瑚竜『シャウ』 (羅針盤:雷霆/25pt/15齢/女性)
前期:操舵守 泡沫のシードラ【illust/61440023
「戻れぬ過去を、豊かな時をワタシたちに語っても澱になるだけと考えたんだ。それが正しい判断かは御覧の通りだよ、泡沫の」
前期絆:刻針の貴賓箱 セルクイユ・アム/セレネ・オルケーテス様【illust/61380951
「“これ”はワタシの守護神だから。帰れない海はない。蝶(セレネ)が私を導いてくれる、必ずや月の映る小波の場所へ」

深潭のはらがら:“巫瑚竜”シンシャ様【illust/61943990
 「飢えのあまり落ちた星を喰らったわが同胞――かもね。シャウは、シンシャとよく似てるらしいから。
  …ワタシはシンシャなのかもしれない。否、シンシャだったらいいのにと、願ってるのかもしれないや」
 「きっと星に好かれてたんだ。飲み込んだ星が『彼を生かせてくれ』って、願ったんだ」
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▼絆:滅びの路の先を知り、ともだちに恵まれました
 開扉国Epigeniea 下天王sedrie様illust/61965100
荒波と渦の先の絶海に座すは、明滅するように見え隠れする蜃気楼の島。
その場所を次の宝さがしに選ぶのは流れるようで。激流に舵を御せず暗礁に乗り上げたのもまた、流れるようでした。

生前、海王様は陸に上がった経験がおありだろうか。
否。無いと断言しよう。水の外に出ることは「死」を意味したからだ。
その巨体は重力に抗えない。自重は内臓を潰し、オールの手では水に這い戻ることも叶わない。

……だからワタシはここに座礁してすぐ、この根城はもう海へ戻れないと途方に暮れた。
未熟な自分を悔いたし、咄嗟に島に降り立ったのも混乱ゆえの軽率な行いだったし、
人に化けるのを忘れたままで漁民らに見つかり、騒ぎになった時は思わず仲間を放って穴に……いや海に潜った。恥ずかしながらね。

――あの失態も僥倖だったと今は思う。

届いた書を握り招かれた場所で。大臣に開かれた扉の先、絢爛の道の上にワタシはいた。
対面するのは錫杖を手に腰かける、うつくしいひと。
恐れの目でワタシを見る人の群れの中ただ一人、静謐に刺すような瞳でこちらを見据えた彼女に、ワタシは進言する。

《 座礁した我らを港の民が救ってくれた この国は戦中だと聞いた 》

《 女王陛下 我らに恩返しをさせて 》

《 滅びの先を ワタシは知りたい 》

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「神の使い」 誰かがワタシをこう呼び
「神の子」 そして女王をこう呼んだ

――シンシャになれた気がして、私はとても気分がよかった。

「ワタシのことはシャウと呼んでほしいな。いい名だろう?」

波が落ち着くまでの間だった島への滞在は「終戦まで」というワタシの号令で大きく延びた。
ここの民は寛容で、ワタシたちに敵意を向けなければ宝を見るような目も向けない。
同胞が民と馴染むのにさえ長くかからなかった。陸と絶縁を続けた眷属に、彼ら人の営みは緩やかに流れ込んだ。
「敵を退け国を勝利へ」――友たる民のためワタシたちは約束した。

海王様が死んだ際も戦があったと泡沫の君に教わった。
だが戦も、滅びも。滅びの航路の舵を握ってもワタシはその実を知らなかった。
この国の行く末を見れば何か掴める気がしてセドの傍らに就いたけれど、今のところの収獲は美味しい茶といい景色、セドとの会話。

窓の外、海と空の境は穏やかで今日も何の影も見えない。

「ーー前回の席で出された紅茶とやらを真似たんだけど。セド、これはワタシ何を間違えてるんだろう?」

ガラス容器に入れた花が塩水に揺れている。

この国は誰と戦っているのだろう。



『かの国に勝利すれば死の呪縛から解放され、また蘇ることが出来ましょう』

それが事実なら我らは食いついた。海王様が蘇れば滅びの路は容易く覆せよう。だがそれは幻想だ。
死したものは蘇らない。きっと彼らもよく、知っていただろうに。

――セドが民に語った言葉をワタシは後に知った。神の子の言葉は真となり国を錯覚させた。
人々は勝利へと湧き、輝かしく活気を満たす。待ち受けるのが虚構とも知らずに。

そうして過去から華々しく返り咲いたのが、ワタシの出会ったEpigeniaという国だった。

「甦る國は、とうに御座いません。――全て嘘で御座いました」

銃声。
弾き落とせなかったそれがセドを貫いて――だが友は立っていた。

神の子の声を皆聞いた。
勝戦の歓喜が悲鳴と怒号に転じて、護った国は新たな混沌に落ちる。
暴かれた嘘は種火となり、瞬く間に飛び火して民の心を駆けめぐった。

《 ねぇ セド 》

巫瑚竜シンシャ。神の使い。
浅ましくもワタシは救国の竜のつもりだった。
けれど違った。ワタシは間違えていた。

《 だれかがキミを愚王だと言ったなら 》

《 キミを“そうした”のは きっと ワタシだ 》

シンシャは、悪しき王を滅ぼす為に献上されるのだ。

敗戦の運命は覆された。けれど死した命は戻らず蜃気楼と消える道は変わらない。
神の子の言葉で国は混乱に荒れ狂う。
この時代が散ろうとしている。

けれど友の目は晴れやかだ。

「祖は争いが嫌いだったんだ。鉄や油のにおいは無自覚に遠ざけてしまうというのに。
 …愚かだなぁ、戦争なんて垣間見るはずなかったんだ。まさか夢を魅せられてたなんて…」

「此処が滅びの先だから邂逅し得た。でも、セドがキミだからよかった」

「キミがワタシをシンシャに――シャウにしてくれた。
 …有難う。本当に驚かされた!
 セド、シャウが友たるキミの代わりになろう。最果てに必ずや。そしてまた此の国の海にーー」



――眼を開けると、黒い木と白い砂浜と白い壁だけの無人島にワタシはいた。

1つ、国が滅ぶのを見た。




セドと同じところが一つあった。滅びの運命を知りながらきょうだいらに隠す「嘘」をワタシも持っていた。
嘘を暴く様をセドは見せた。ワタシも神から降りねばならない。

贈られた杖を掲げる。方角は決まった。

「我らは滅びの路を泳ぐもの。
 滅亡を覆す道と、人の世に生き足掻く道の二つを友より見得たもの。 
 ――同胞よ、分ち合う時だ!終わり方は己で決めよ!此は我の最後の号令だ!」

月が去って星が輝きを増したように。夜明けを望むなら、星が空を降りる番だ。

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2017-03-22 13:45:02 +0000