【人形日】ゾンネ【第四場面】

コーシロ
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■ゾンネ(男/183cm/予感:9責務/たいせつなもの:3剣/おもいだしたもの:1獣/ギフト:4風の祝福)
一人称:私 二人称:貴様、お前
理屈っぽく冷徹で、厳めしい態度のドール。
自身が何者であったかを思い出したことにより、振舞いが尊大になった。
前場面にて大切な者の記憶を失ったことで、怖れの感情が一切無くなる。
野蛮な者が嫌いなのは変わらないが、"獣"への憎悪は消えている。目の傷は「野良犬にやられた」という認識。

"彼女"に関する記憶を消されたため、かつてどういう関係にあり、何があったのか憶えていない。
記憶が消されていること自体に自覚がない。


時折、なにかが乗り移ったかのように相手のことを構い出す。この状態時のみ、背後に光輪が薄く見える。
風の祝福により、相手の意思とは関係なく意識した相手に自分の声を聞かせられるようになった。

†1【illust/55670517】 †2【illust/56116567】 †3【illust/56622343

■行動指針
あるべき場所に戻らなければという思いから、早く館を出たいのでマネキンには構わず目的地へ一直線に進む。
遅れを取る者は基本的に置いていこうとするが、相手次第で協力はしないこともない。
攻撃は全てかわし、自ら仕掛けることはない。

■共鳴相手さま
第一場面 イブニングさん【illust/55675459
第二場面 セラータさん【illust/56174860
第三場面 アンジュさん【illust/56622414


■素敵な共鳴相手と出会いました。
ミナリさん【illust/57579061

*****

思い出したんだ。私が何者であったのか。

廊下の角を曲がると、またしても顔の無い人形が行く手を阻む。
こうも頻繁に遭遇すると煩わしいが、ただ動くだけの下らない人形の相手をしてやる必要もないと感じた。

こんな場所にいつまでも居る訳にはいかない。私は私の在るべき場所に戻らなければならない。
そのために早く、辿り着かなければ。風を切るように館を進む。

彼女が他の人形と違うことは一目で分かった。
現在の状況下における目的が同じであることは、お互いに悟っていた。

彼女は、こちらの話を求めてか意見やら身上やら様々なことを尋ねてきた。
だが今は、無駄話などしている場合ではない。
そう告げて一歩先へ進むと、不服そうな表情でこちらを見上げる彼女。
じっと据わったその目は、強い意志はあるものの危うげで、辛うじて安定を保っているように見えた。
彼女はすぐにツンと顔を逸らし、歩をぐっと早めてこちらよりもさらに前に出た。

仕方がない。せっかく記憶を思い出したのだ、懐古ついでに聞かせてやるのも悪くないだろう。
先をゆく背中へ、静かに語りかける。

私の居た場所は、そうだな……全てが見渡せる場所、と言えばお前にも分かるか。
人々はみな私を信じているし、私も私を信じている。
だから彼らは私を頼るんだ。私が居れば大丈夫だ、と。
私が姿を表さない日などは、祭事を行ってまで私を呼ぼうとしていたな。

全てが思い通り、か。そうではない。
私に心などは必要無く、ただそこに存在していれば良かったんだ。

それなのに――

……いや、それだけだ。違う。なにか――、これは、罰、なのか?そんなはずはない。どうしてそんな言葉が、違う……だが何故?私がこの館にいるのは……なにが――私は一体……間違っていることなど無い、在り得ない、そんな――何か、が……

彷徨う視線の先に、窓。
外は暗く霧に覆われ、光の差し込む隙は無かった。

彼女は、いつの間にかこちらを向いて話を聞いていた。
何かを言いたげにしていたが、目が合うと前を向き直り、無言のまま歩き出した。

繋ぎ合わせた記憶の継ぎ目をなぞるように、ひとつひとつ確かめながら改めて口にする。
間違いは無かった。すべてが正しく繋がっている。

こちらだけが話すのもつまらない。彼女の話も聞いてやるか、と歩を並べる。

すると、彼女の様子が先程までとは異なることに気付いた。
切なげに、何かを思い詰めたような――。
声を掛ければ、鬱陶しいと言わんばかりの険しい表情。涙は流れ続けている。
平気だなどという言葉は、そんな顔をしていれば逆の意味を示すということに気付いていないようだった。

彼女の名前を呼ぶ。反応は無い。
彼女に迫るそれは、時の経過とともに激しさを増しているようだった。
しかしそんな中でも、態度は毅然としたまま取り乱す様子は見せない。

一体、何に憑かれているというのか――

『ミナリ』

驚いたように、はっと顔を上げる彼女。
構わず続ける。

『貴様以外の誰にも、貴様の苦悩を理解することはできない。』

『今も、そしてこの先もそれは変わらないだろう。』

『だが、もし――』

『貴様が未来を願うのなら、』

『私を頼れ。』

『頼ることは、弱さではない。』

『強さだ。』

『私が貴様の代わりになることはない。だが、』

『生きる力を与えることはできる。』

『私はここにいる。』

『貴様が未来に希望を求めるなら……』

『戻ってこい、ミナリ。』

閉じた目が、ゆっくりと開かれる。
最後に落ちた涙の跡を拭うと、彼女は再び歩き出した。

少しだけ緩くなった歩調に合わせる。
彼女は呟くように、自身の記憶を辿りはじめた。
躊躇いがちだった語り口は、言葉を重ねるにつれて徐々に意志を取り戻していった。

目的地は近い。
彼女は尋ねる。お前に帰る場所はあるのか、と。

帰る場所――。
もと居た場所が、在るべき場所だ。そう信じていた。
信念を翳らせたのは、彼女に自身を語ったときに感じた記憶の解れ。
記憶の糸を手繰ったところで、何もない。

私は変わった。変わってしまったのだ。
あの頃の、心を持たない私はもう居ない。

風は静かに囁く。

『――無いのなら、生み出せばいい。』

それは独り言のように、
だが確かな意志を持った言葉だった。

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2016-06-04 20:00:36 +0000