【人形日】ゾンネ【第三場面】

コーシロ
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■ゾンネ(男/183cm/予感:9責務/たいせつなもの:3剣/おもいだしたもの:1獣)
理屈っぽく、他者を寄せ付けない雰囲気を持つ気難しい性格のドール。
ココロのカケラによって思い出したのは、獣に襲われ怪我を負っていたこと。
その記憶から、野蛮・野性的と判断した者には辛辣な態度をとるようになる。
また、たいせつなものである剣でなにかを護っていたことを思い出した。

第二場面でのセラータとの出会いによって、
自身が認めた相手に対して敬意を払うようになり、一定の距離を置くようになった。また、以前より少し表情が豊かになった。

■行動方針
着ぐるみに対しては野蛮と判断し、積極的に攻撃を仕掛けて倒そうとする。
基本的には相手を護ろうとするが、相手を野性的と判断した場合も威嚇・攻撃する。
説得できれば指示に従う可能性もあるが、協力は向かない。

■共鳴相手様
第一場面 イブニングさん【illust/55675459
第二場面 セラータさん【illust/56174860


■素敵な共鳴相手と出会いました。
安寿さん【illust/56622414

*****

不愉快だ。
突如として姿を現した着ぐるみを一息に斬りつける。裂けた中身が空中に舞い散った。
辺りの厭な空気が、肌で痛いほど感じられる。

奴らの獣じみた行動が疎ましい。ただ襲ってくるなど、野蛮以外の何者でもない。
着ぐるみどもを遣わす彼は言った。つまらないから襲うのだ、と。
そんな道理があってたまるか。
尚も襲ってくるというのなら、こちらもそれ相応の対応を取らなければ。

一度離れた距離を詰めるため、静かに間合いをとる。
奴が動きだす。同時に、剣を持つ手を何かに掴まれ引き寄せられた。

「邪魔をするな。」

視界に入った彼女は、長い耳を生やし、人とは異なる形の足を持つ――まさに自身が忌むべき獣だった。
その姿を目にするだけでも寒気がするというのに、あろうことか彼女はこちらの身体にベタベタと触れてきた。
耐え難い。全くもって耐え難い。

切先は、自然と彼女を向いていた。
すると彼女は首を傾げながら口端を吊り上げたが、やがて緩慢な動作でこちらへと矛先を向けた。

硬質な音が、部屋じゅうに繰り返し響き渡る。
刃を交える最中にも、彼女はこちらの気を逸らそうとするかのように隙を見つけてはあの手この手で触れてくる。

「ふん……小癪な真似で僕の気を散らそうとしているのだろうが、あいにくそれは経験済みだ。」

こちらの不穏な感情を察知し、それに気を良くしたのか接触は更にエスカレートしていった。
また距離が近づく。長くなびいた髪の残り香が鼻をついた。

この香りを知っている。だとすれば一体何の――?

剣を強く打ち込む。
手が触れる。

――そうだ。

甘くねだるようなこの触れ方。この声。この瞳。

ああ、ようやく思い出した。彼女は――

激しい斬撃。

「……」

やめろ。来るな。

死してなお、ここに姿を見せる彼女は……、違う。彼女じゃない。あれは獣だ。
野蛮な獣は全て殺さなければ。

もし目の前の獣が彼女だったとしても――いや、彼女だからこそ――殺さなければ。

あの時、襲いくる獣から彼女を庇いきれなかった。
死にゆく彼女を腕に抱きながら、猛烈な後悔に苛まれていた。
それからだ。獣への憎悪が目に見えて増したのは。

彼女を殺していいのは、獣でも他の誰でもない、僕だ。
どんなに変わり果てた姿だったとしても僕が、この手で彼女を殺してやらなければ。
そして僕の中で、君は永遠になるんだ。だから――

「やめてくれ」

彼女に嘲笑されようが、そんなことはもはや問題ではなかった。
その姿を強い視線で捉え、剣を握り直す。

再び交わった刃は、ひどく冷たく、鈍い音がした。

「太刀筋までふざけていると思ったが……、どうやら今はそうではないようだな。」

きっと彼女は黙って斃されるつもりなど無いのだろう。
もう、退く訳にはいかない。

「大切なものなど、既にこの世には無い。
 まだどこかにあるとすれば――僕の胸の内だ。」

刃の重なる音が響く。何度も。何度も。

やらなければならない。自分が彼女を殺さなければならない。
それなのに、あと一歩が踏み出せなかった。
何故か。そんなことは、彼女の存在に気付いた時にはもう分かっていた。
分かっていたが、どうしても認めたくなかった。

――彼女との今、この瞬間を、手放したくない。

気の迷いだ、と想いを振り払うように刃を弾き返す。
返した剣先を追うように前方へ視線を捉えると、彼女の背後から――

「!!」

思わずその獣に目を奪われた。刹那、記憶が鮮烈に甦る。
そうだ、貴様だ。あの時自分の目を奪ったのは。
当時の感情が静かに沸々と湧き上がってくる。
奪ったのは目だけではない。彼女を守れたなら、そんなもの幾らでもくれてやっただろう。

奴が再び自分の前へ姿を現すなど、願ってもない好機。

息を吐き、剣を鋭くかざす。
すると、こちらの感情を悟った手によって制止された。その手は、先ほどの褐色とは違う。

「……アナスタシア」

ふいに零れ落ちた名前は、彼女のものだった。

あの時と同じ姿をした彼女が、そこにいた。そしてあの時と同じ獣も。
過去と現在の映像が重なり合い、激しい眩暈に襲われる。

「やめろ……、触るな!」

囁きかける言葉に耳を傾けようとしたが、
彼女が一体何を言っているのか理解できなかった。

「黙れ!!黙ってくれ!!」

ぽつり、ぽつりと語られる声に涙が混ざる。
それすらも、もう誰の涙とも判別がつかなくなっていた。

――苦しい。

そっと、彼女に抱き留められる。
振り払う気力など残っていない。

こんな時に笑え、なんて…君は本当に馬鹿だな……。

口にしたことがあるような台詞は、音に変わることはなく
そのまま彼女の剣に貫かれて消えた。



*****
*****


騒々しい。
目が醒めると、周辺には中身を撒き散らして倒れた着ぐるみが数体と、そして――彼女がいた。

起き上がるなり彼女は凄まじい勢いで責め立ててくるので何かと思えば。

「少し落ち着け。何なんだあなたは……。
 ヨダレ? ああ……確かにあなたのが僕の服に付いているようだが、別に構わない。構わないから離れろ。」

自分でやるからいいと言っても頑として聞き入れない。
彼女は拭うものを探すと言い残すと、そのままどこかへ行ってしまった。

「まったく、面倒見が良いというか面倒そのものというか、変わった奴だな。
 せめて名くらいは名乗るべきだろう?

 名前がなければ、いつか忘れてしまうものだからな。」

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2016-04-30 15:00:04 +0000