企画:人形館の安息日【illust/54961214】への投稿です。
■ゾンネ(男/138cm/予感:9責務/たいせつなもの:3剣)
頭の回転が早く内向的で気難しい性格のドール。語気が強いが怒っているわけではない。
場面が変わり、気付くと身体が一回り小さくなっていた。
第一場面の姿【illust/55670517】
第一場面でのイブニングとの出会いにより、協力はしたがらないが他者の意見を受け入れられるようになった。
たいせつなものである剣を手に入れたものの、何故たいせつなのかはまだ思い出していない。護身用の短剣のようす。
時折、無意識のうちに剣に触れていることがある。
舞台の準備では裏方に回るつもりでいたが、作業道具の扱いが不得手なことを悟り渋々バックダンサーへ。
練習をはじめると、舞台で踊るには申し分ないほどの腕前になった。
■第一場面での共鳴相手 イブニングさん【illust/55675459】【illust/56122660】
■素敵な共鳴相手と出会いました。
セラータさん【illust/56174860】
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辺りの人形たちは、みな舞台へ向けてくるくると働き回っていた。
こうして見ていると、突風のように過ぎ去っていった彼女が言ったように、
この舞台を無事に成功させることがやはりいま果たすべきことなのだろうと感じる。
これがいったい何に繋がっていくのかは、まだ分からない。
過去のない現在に不安を覚えながら、未来へ繋げられることがあるのだろうか。
思考に薄くかかった靄を振り払うように、せっせと手を動かし始める。
しかし、その手はみるみるうちに動きを鈍らせていき、ついには作業を止めてしまった。
「ああ、どうしてだ?なぜ僕はこんなに……」
予想外のことが起きていた。
絵の修繕、大道具作り、衣装の準備と、手を付けてみたは良いものの、
作業道具の扱いがどうにも思うようにいかない。
自身の不器用さに衝撃を受け、軽く眩暈がするほどだった。
心を鎮めようと、腰に装備した剣にそっと触れる。
ひどく懐かしく、大切にしていたもののはずだったが、
このような手腕で剣を扱っていたのだろうか、もしや自分のものではないのでは、という疑問さえ浮かんでくる。
絶望に打ちひしがれたように膝をついた時、ふと彼の言葉が頭をよぎった。
”ひとりで出来ることには限界がある”
”もっと頼ってくれ”
そんな意味のことを言っていたような気がする。――定かではないが。
そういえば、と顔を上げると、舞台の袖でダンスの練習をする人形が目に入った。
「誰かを頼ったりしなくとも……ひとりでも出来ることだってあるはずだ。」
そこからのダンスの上達具合は目覚ましく、衝撃の反動とも呼べるような順調ぶりだった。
動きを繰り返しブツブツと呟きながらステップを確かめていると、隅のほうからなにやら視線を感じる。
振り返ると、怯えたような表情をした彼女の肩が大きく跳ねた。
一歩引いてうつむきがちに口ごもりながら、おずおずとメジャーを見せてくる。
「そうか、衣装の準備だな。それなら、そんな遠くに居ないでこっちへ来い。
まったく、あなたがそんなだと僕も困るんだ。しっかりしろ、いいな。」
おそるおそる触れてくる彼女の手は、わずかに震えていた。
こんなに怯えたような状態では、作業の効率に影響するに違いない。
彼女は、何に対してそれほどまでに怯えているのだろうか。声を掛けてみるが、ますます萎縮するばかり。
仕方なく黙って彼女の作業を眺めていることにしたが、
どうやらこちらが話しかけないほうが彼女は落ち着いていられるようだった。
「……器用だな。」
びくりと肩を揺らす彼女。一瞬うつむき、また針を通しはじめる。
ちくちくと、器用で、丁寧で、繊細な作業だった。
それは先ほど自分が挑戦し、見るも無残な出来に終わったものとは全く違う。
純粋に、羨ましいと思った。
自分に出来ないことを出来ることが。
とはいえ、誰にでも向き不向きはある。
自分は単にこういう作業が向いていなかったというだけで――
ふふ、と彼女は小さく笑みをこぼした。
「……聞いていたのか?いまのはただの独り言だから、気にするな。
だが、そうだな……全て本当のことだ。僕もあなたみたいに器用だったら、と思ったんだ。」
完成した衣装は、とても良く出来ていた。こんなものを作るのは、自分には到底不可能だ。
彼女に対しての尊敬の念が、奥底から湧き上がってくるのを感じた。
「もし良ければ、この作り方を教えてくれないか?」
口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。とっさに、出来ることは一つでも多い方が良いから、と付け加える。
彼女もまた驚いた表情をしていたが、ゆっくりとうなずいた後には微笑みを浮かべていた。
「不思議なものだ。あなたには作り方だけではなく、言うなれば――
――頼り方、を教えてもらったような気がする。」
「敬意をもって言わせてもらおう。セラータ……、感謝する。」
懐かしい感覚がした。
それはきっと、彼女が呼び起こした記憶。
これから創る、未来の記憶。
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2016-03-31 15:00:06 +0000