【PFAOS】いにしえのうた【原初の星光石】

相馬玲之(そうまあきゆき)

「お願いします! 力を借してください! でないとマーレが… マーレが死んでしまう!」

 空から落ちてきた若者が抱えていたのは、ずんぐりとした生き物だった。
 マーレと呼ばれたその生き物の命が今にも消えそうなことは容易に理解できた。
 真摯な眼差しで訴えかける若者。心の底からこのマーレを救いたいのだろう。

 わたくしが彼女を助けたかったように……

 ヴィルナはマーレに手を当て、魔力の流れを解析する。
「イシュカ、わたくしの手を」
 差し出された手を取ると、マーレの状況が流れ込んできた。
 思った以上によくない。魔力はもちろん、生命力も息をしているのがやっとの状態。
 このまま放っておいては―――

 突如、視界が金色に滲んだ。

 ―――??

 まばゆい光、あれは…

「こんにちは、スワスティアストゥ」
 突如目の前に現れたのは、銀の髪と黒い瞳の少女のようにも少年のようにも見えた。その下半身は一枚一枚が銀細工のように輝くうろこに包まれたさかなの尾。その尾でまるで海を泳ぐように、宙を泳いでいた。

 ―――どこかでお会いしたでしょうか?

 不思議なその人に会った記憶はまったくない。このような外見の人ならば、忘れるはずもないが……

「唄は唄えるようになったんだね」

 ―――うた?

「そう。白い竜の唄」

 空が薄紫を帯びる頃、弱く、優しく、あたたかい雨を降らせながら唄う……

 ―――これは……わたくし?

 足元では一頭の人馬が優しい笑顔で見上げていた。むしろそちらの方が自分に似ている。

 ―――ああ、そうか。

 それは夢で見た光景と同じ。祖たる竜とその伴侶。
 今、見ているのは祖たる竜の記憶。
 やがて雨は上がり、金色の朝日を受けて竜はきらきらと煌く。
 それは、遠い、遠い、いにしえの……

「わたくしは白い竜ですから」

 あの日、祖たる白い竜に命を譲られた時から、わたくしは白い竜であり、白い竜はわたくしになっていたのだ。

「そう」

 その人が呟くと、朝日のような金色の光がその人の銀色の髪の上で揺れた―――

「なんとかなりそうですか」
 ヴィルナの言葉に顔を上げる。ぼんやりとしていた意識を戻す。
 もう一度ヴィルナから伝えられた情報を確認する。普通の治癒魔法では到底助けられそうもない。
 先ほど聞こえた、この若者が唄っていたのだろう唄は、子守唄として母から伝えられたものによく似ていた。
 雨に癒しの力をと考えていたが、きっとこの唄ならそれができる。そして雨と唄を同時に紡ぐ癒しなら、きっと……
「―――やってみましょう」

 Ranu beto
 Tira beto
 Ven to ato

 古い古い竜の言葉。
 子守唄を教えられたとき、言葉の意味はまったくわからなかった。後から教えられた歌詞の意味とされたものが、実際にはまったく違っていたということが今ならわかる。命と共に受け継いだ白い竜の記憶と知識が、唄の意味を正しく教えてくれた。
 唄は誰に向けているのかわからない。だが「共に歩こう、共に生きよう」と語りかけるものだった。

「その―――よろしいのですか。俺は、アステラの」

 アステラ……
 故郷を滅ぼした国の名……
 あれほど憎んだはずなのに、その名を聞いても不思議と心が揺らぐことはなかった。どこの国の者か、ということはもう関係ない。
 ただ、救いを、癒しを求める者に応じたいだけ。
 その気持ちは、これからもきっと揺らぐことはない。

 Rene sebi danu ne sun dono runen
 Ruhu rumen naran nomei nu hu donmei

 突然背中にあたたかな力を感じた。
 振り返ると、ヴィルナがいたずらっぽく微笑んでいた。
 あたたかく、優しく、そして深い、彼女の紡ぐ水の本質。それが魔力となって流れ込んでくる。
 流れ込んでくる彼女の魔力と、わたくし自身の魔力を一つに束ね、唄として、雨として紡ぎ出す。

 Ra mund renme mond rene
 Ru mond senne so du
 
 Ma rudamo de syran monste
 Rei mano on na soe zi

 束ねられた魔力で、唄が、癒しが、力を増していく。
 これならきっと、マーレを助けられる。

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北大路某様の「にじ・そら・ほし・せかい【illust/80329966】」とワタリガラス様の「水紡ぎの魔女 #18 4章 第二幕【novel/12593156】」を受けてのもので、ワタリガラス様の作品に挿絵をつけさせていただきました。

唄については、北大路某様の上記作品の【星の唄】の設定をお借りしています(ご快諾いただき、ありがとうございます。白い竜が唄っていたのは、だいぶ歌詞が変わってしまっているものだということで。
キャプション内の歌詞については、モンスターハンター4の「ひとつの唄」を耳コピーしたものです。実際に歌われているものとは違っていると思われますが、日本語歌詞については、実際のものを意識しております。

【3/28追記】
非公式イベント「星の唄・竜の唄【illust/80396789】」へ参加させていただきます!

お借りしました(敬称略)
水紡ぎの魔女ヴィルナ【illust/78988568
翼なし(はねなし)のデオ【illust/79013879

キャプション内のみで申し訳ございません。
金の君【illust/78983751
金の君とはずっと昔、まだ奴隷に落ちる前に会っていたという妄想設定です。それらしい記憶はまったくありません。

自キャラ
イシュカ(”白き慈雨”のアストゥ)【illust/78985769

※お借りした方の行動等を縛るものではありません。
 不都合等ございましたらパラレル扱いでスルーしていただければと思います。
 何か問題等ございましたら、ご一報いただけると幸いです。

【企画元】
PixivFantasia Age of Starlight【illust/78509907

#pixiv Fantasia: Age of Starlight#ルナス#【白蹄団】#白き慈雨#原初の星光石【黄】#【星の唄・竜の唄】

2020-03-27 14:27:21 +0000