縁は異なもの味なもの【illust/67011335】
都忘れの花が、赤い芍薬の花が咲く頃、
決まって母は泣くように笑った。幸せだ、と。
愛しながら憎く思い、
恨みながら恋い焦がれ、
笑いながら涙を流し、
哀しく在りながら幸せに満たされる。
澄んだ瞳を数多の想いで彩って、
そして、我が子さえ慈しみながら置いて逝く。
つまり、愛とはそういうもので。
だから、己れもいつか誰かに云うだろう。
「ねぇ。殺したいほど、愛してる」
◆ 陽/はる
半妖(人間・霊鬼・化猫)
男│19歳│168cm
「予定調和じゃつまらないから、不吉なくらいが丁度いいでしょう? どうもご愁傷様だね、にゃんにゃん」
「お前のこと、嫌いすぎて大好きなんだよ。当然でしょう?」
「ねぇ、寂しい。優しく殺してあげるから、己れを決してひとりにしないで?」
化猫の父と霊鬼の血を引く母の間に生まれた半妖の男。
家族で暮らした山奥の社を根城に、勝手気儘にふらふらしている。
性格は子供っぽく何も考えていなさそうだが、考えすぎて結論が突飛なことになっているだけ。わりと話が噛み合わない。
彼にとって愛とは、殺すことであり、殺されることであり、恋い焦がれることであり、憎悪することである。
孤独を嫌がりながら愛しいものを殺す矛盾を理解している彼は、今日もふにゃんと笑うのだ。
だって愛ってそういうものでしょう?
◇ 家族
父:未影さん【illust/68255387】
母:はゆ【illust/68034271】
「ちゃんと愛されてたよ。ちゃんと知ってる」
「何度過去を振り返っても、二人の子供でよかったと、そう思うんだよ」
妹:都さん【illust/68499467】
「みやみや、みゃー。何でもしてあげる、己れのがひとつお兄ちゃんだからね」
「かわいい都。お前を殺すのが己れの役目ではないことが、ほんの少しだけ、恨めしいんだよ」
◆ 素敵なご縁をいただきました!
残さず己れを味わって*春夏冬 次実さん【illust/68523737】
街で出会った長い黒髪のお姉さん。
遊んでくれると頷くから、店にお邪魔して一日を過ごした。他愛のない世間話。意味を持たない天気の話。山のような書物に囲まれながら、不思議と退屈はしなかった。
それなりの楽しい時間に、少しご機嫌な帰り際。
彼女は己れに一冊の絵本を差し出した。
お気に入りだと綺麗な顔で微笑むから、夜に一人で頁を捲る。
何度も、何度も、繰り返し。
少し眠い頭で読み始めたその本を、閉じる頃には夜が明けていた。
「こんにちは、おねーさん。本を返しにきたんだよ」
「そうだね、うん、面白かった。己れは好きだな」
「《愛しい男を食べてしまう》なんて、女はさぞ男を欲していたんだろうね」
本を返した別れ際。やはり彼女は綺麗な微笑を浮かべて、一冊の本を差し出した。
ひとつ返せば、またひとつ。再び返せば、更にひとつ。
彼女が己れに貸す本は、愛しさゆえに相手を殺める男女を描いたものばかり。
やはり《愛》とは殺すことなのか。
愛しさゆえに死を選んだ父母を追って生きてきたのに、愛しさゆえに生を選んだ妹が、幸せそうに笑うから。
わからない。わからない。わからない。
「おねーさん。己れ、今日はとっても暇なんだよ。此処に居てもいいでしょう?」
「本は一人でも読めるから、今日はお前の話が聞きたいんだよ」
「ねぇ、今日はお前が読んで聞かせて?」
悲惨な愛の行く末を、紡ぐ声は何処までも優しく穏やかで、自然と瞼が重くなる。
微睡む意識の片隅で、見知らぬ衝動に燃える彼女の綺麗な眼だけが、己れを強く惹き付ける。
「……どうして、お前は、」
そんな眼で己れを見るのだろう。
疑問が声になる前に、彼女の優しい掌が、そっと己れの頭を撫でた。
《美味しそう》だと、彼女は泣いた。
慕っていると甘く囁くその口で、己れを喰いたいと嘆くのだ。
伏せた瞳に隠しきれない強い衝動を滲ませて、震える声を吐きながら、静かに喉を鳴らすのだ。
そんな彼女を前にして、己れはようやく理解する。
────これが《愛》だ。
重ねるのは、初めて彼女が差し出した本。愛しい男を喰らう女の愛の話。
女が男に抱いたような、強い衝動を、深い愛情を、目の前の彼女が己れに抱いている。
その事実がどうしようもなく嬉しくて、幸せで、己れは笑った。
彼女の綺麗な指先を、そっと掬って口を寄せる。
「己れも次実が《美味しそう》だよ」
瞳を揺らした彼女が口を開くよりも早く、指先に口付けるように噛みついた。
殺したいと、殺されたいと、思っていた。
狭い世界に生きながら、それが愛だと願っていたから。
「次実の穏やかな声が、綺麗な笑顔が、優しい眼が、己れは大好き」
「お前の隣で過ごす時間が、ずっと変わらずに続けばいいのに」
「終わりなんて、要らないのに」
それでも、いつの日か。
食べたいと、食べられたいと、望んでいる。
広がる世界に生きながら、それを愛だと信じているから。
「ねぇ、次実」
「美味しく食べてあげるから」
「……己れを美味しく平らげて?」
◇ 不備などありましたら、ご連絡ください。
彼女の綺麗な眼を、飴玉のように口に含めば、仄かに甘い味がする。転がして、味わって、惜しみながらもゆっくり呑み込めば、己れの中へと溶けていくようで。
彼女の頬を伝う鮮血を拭うように口付ければ、くすぐったそうに彼女は笑った。
あと半刻もしないうちに、己れは彼女の中へと溶けるだろう。
それはとてもあたたかく、幸せなことに違いない。
「ねぇ、次実。己れとずっと一緒にいて?」
ひとつになって、白いゆりかごの中で永遠の眠りを。
都忘れの花を、赤い芍薬の花を、
紫苑の花で埋めて、世界に告げよう。
───『さよなら』。
最終更新:18/05/27
2018-04-30 17:05:26 +0000