【えんもの】はゆ【二世代目】

魚住@ちぎょ

縁は異なもの味なもの【illust/67011335

愛しい父母は与えてくれた。
優しさを、暖かさを、穏やかな日々を過ごす幸せを、
そして、置いて逝かれる哀しみを。

天(そら)に映える瞬きを見上げ、父母の幸せを願いながら、何度涙を流しただろう。
そんな思いは、もう、したくないから。

「誰もしたりはしないよ」

溺れてしまえば、愚かな自分はきっと願ってしまうだろう。
────私を一人にしないで、と。

◆ 映/はゆ
半妖(人間・霊鬼)
女│16歳│158cm

「おや、こんな山奥にお客さんとは……もしかして、迷子かな? 麓までなら案内するよ」
「もしかして、はゆを覚えていてくれたのかな? ありがとう。……でも、あまり近付いてはいけないよ」
「だめ、駄目だよ。寂しくなってしまうから。お願いだから『傍に居て』なんて言わせないで」

霊鬼の父と人間の母の間に生まれた半妖の娘。
家族で暮らした山奥の社で暮らしているが、数日置きに両親の墓前に備える仏花を買いに町まで降りている。
少し子供っぽい面もあるが聡明であり、自立しており、他人と深く関わり合うことを避ける傾向がある。
それでも町まで降りてしまうのは、根が寂しがりなせい。

置いて逝かれることを怖がりながら両親と同じ選択をすることを躊躇い、周りを拒絶しながら一人になることに怯えている。

◇ 家族
父:空さん【illust/67549340
母:きさ【illust/67617486
「あの世でも、仲睦まじく幸せに過ごしてくれるのならそれでいいんだよ」
「幸せって何だろう……はゆが考えすぎなのかな」
片割れ:天さん【illust/68011057
「いいんだよ。天の幸せと、はゆの幸せは違うのだから」
「かわいい天、はゆの半身。いつか別れる日が来ても、ずっとずっと大好きだよ」

◆ 素敵なご縁をいただきました!
きっとそれは運命と云うような*未影さん【illust/68255387

あたたかい日差しが降り注ぐ、街から山への帰り道。
声を掛けてきたのは、片目を隠した綺麗な黒い猫だった。

「こんにちは、ねこさん」
「褒めて貰えて嬉しいな。家族と同じ色なんだ」

好奇心を滲ませながらも表情は何処か冷めていて、柔らかな濡れ羽色から覗く紅い瞳には、仄かに怯えるような色が混ざる。
寂しそうに揺れる尻尾を見れば放っておくことができなくて、少しだけ、彼の暇潰しに付き合うことにした。

「じゃあ、少しだけお話ししようか。あまり面白い話はできないんだけど」
「こんにちは、奇遇だね。はゆに会いに来てくれたのかな? ……なんて、きみに限ってそんなことないよね」
「亡くなった両親の他に、姉妹がいるよ。……もう会えないだろうから、結局ひとりなんだけど」

踏み込まないように、踏み込まれないように。
ずっと、そう心掛けていたはずなのに。

「誰かのことを考えながら、花を選ぶのは楽しいよ。ほら、この赤い芍薬なんてどうかな? 未影さんの瞳と同じ綺麗な色でしょう?」

時おり何かを呟いて、責めるように私を見る彼の瞳に、安心してしまっていたのだ。
私を嫌っていると、私に好意を持つことはないと、勘違いしていた。

────否、気付かないふりをしていた。

街へ降りれば、視線は無意識に彼の姿を探している。
彼と会えば、別れを惜しんでしまう自分がいる。
隣にいると何故だか心地がよくて、だから、

彼がいないと寂しい、と。

自覚した瞬間、息がとまった。
なんて愚かなのだろう。私の中途半端な優しさは、きっと、今この瞬間さえ彼を傷つけるのに。
はじめから間違えていたのだ。置いていかれる諦念も、連れていく覚悟もないのなら、誰かと関わるべきではなかったのに。

これ以上、彼の存在が大切になる前に。
これ以上、彼の全てが愛しくなる前に。
これ以上、彼の弱さに溺れる前に。

「……………もう、遅いよ」

二度と会わぬと誓ったそばから、彼の声を、姿を、表情を、思い出すだけで苦しくなる。
誰もいない、何も聞こえない静かな社で、声を殺して泣きながら。
それでも、決して、二度と街には降りるまいと。
きっと、これは私ができる精一杯の強がりだった。

────それなのに、どうして。

彼は私を見つけてしまった。何処か不機嫌そうな表情に、安堵の色を滲ませながら。
悲哀、歓喜、絶望、愛慕、わき上がる感情は言葉にならず、ただ涙になって溢れて落ちる。

知っていると頷く彼は、私の選択を否定する。
黙って聞けというくせに、縋るように私に訊くのだ。

綺麗なのは、眩しいのは、彼のほう。

澄んだ瞳に私を映して、この身だけはきみにあげる、なんて。

優しい顔で、笑うから、


◇ 不備などありましたら、ご連絡ください。


これを愛と呼ぶのなら、なんて優しくて残酷で、運命的なものだろう。
きっと何度時間を戻しても、私は彼に恋をして、彼だけに縋って泣いてしまう。

『いいよ、お前なら。僕をひとりにしても』

きみは恐怖に蓋をして、私のことを想ってくれた。
それなのに、傍にいてほしいと願うなんて、我儘すぎるね。

それでも、どうか、

「未影の全てを、はゆにください」

代わりにするにはちっぽけだけれど、はゆの全ては、未影にあげるね。
もう、逃げない。置いていったり、しないから。

「未影がいれば、はゆは何もいらないよ」

だから、ね。黄泉の国に臨んでさえ、

「決して、はゆをひとりにしないで」
(決して、未影をひとりにしないよ)

愛しい綺麗な黒猫の、尊い命をこの手で奪う。
そんな決意を私にさせた、愛しいきみの存在を、

────少しだけ、憎らしいとも思ったんだ。

最終更新:18/04/21

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2018-04-01 16:45:34 +0000