【九十九路】ウミボウズ【第五期】


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九十九路の羅針盤【illust/60865485】 引き続き参加させて頂きます

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▼大海のたびびとウミボウズ 海王 流(ルル)
 (200pt/明星の羅針盤/性別不明/齢不明)

前期:颶風の魔女ヴェハル【illust/62982191
前期絆:淡様【illust/62947117
 「名のままにかき乱す人でした。そのせいで伝った涙の数すら、きっと顧みない。
  ――せめてそちらでは、もう泣かせないでくださいね。どうか、しあわせに」
 「巫瑚竜の言葉を、あの星は知っていたのでしょうか。『生かしてくれ』って……願ったから、私は此処に居るのでしょうか」
河の流れ: 流さん【illust/63457353
 「」
 「濁りなく澄んだ声は誰もを惹きつけて止まない。…私も同じ。
  だから精一杯声を張り上げるの。リウの歌に釣り合う様に。憧れる人の足は引っ張りたくないものでしょう?」
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▼ウミボウズ/海王ルル
海王のなきがらに大海の魔力を注ぎ生み出された骸の潜水艇
――に集っていた者たち。
颶風の魔女とゴーストの目論見でウミボウズは海の底に沈み、再び浮上することはなく。
代わりに白い竜が、深海より浮上した。
ウミボウズを失くしてもなお、人の縁に絆されたのか、渡し船として機能し、
舟の幻影を生み出し人に化け、変わらず陸の者との道を途絶えさせずにいる。
その先頭をウミボウズに似た、しかし随分と小柄な鯨が泳ぐ。



▽絆:折重なる別離の気持ちを、ようやく彼らは知りました。
タオ様【illust/63277215
小波だけのとても静かな夜でした。
夢幻のさかなの一匹が浜に打ち上げられたのを連れ戻しに行った時、私はひとりの少女と出会います。
ひとの足に触れる砂の感触に、少しだけ、終点の島を思い出していました。
陸に上がったのはあの座礁が初めてのことだったと、私の中の「ウミボウズ」が、そう覚えていました。

「あ、あの、“それ”は私の大事なものなんです。返してはもらえませんか。お願いですから……!」

浜辺に打ち寄せた同胞の魔法は解けて、元の宝石に戻っていました。
見つけられた安堵は束の間で、宝石はそれを拾った少女の手に固く握られていました。
「返して」と投げかけても、少女はその手を解いてくれなくて、
私は、困り果てていました。

私と少女の沈黙に、波の声だけが繰り返し、繰り返し。
聞こえて。そして、そして。
私はふと、少女の瞳を、宝石と重ねたのでした。
私と宝石とを見比べてばかりの瞳は、まるで還る場所を探していた宝石と、そっくりに見えたのです。

「……一緒に、“その子”の還る場所を探しませんか?」

手の内で“宝石”が瞬いた気がしました。少女の目も、瞬いていました。


 ◆

タオと名乗った少女は、道をなくした迷子でした。
ひどく気まぐれな羅針盤を握った彼女との「忘れたものを思い出す」旅は、行ったり来たりの道草ばかり。
「ここじゃない」と、次々に道を示す宝石はまるで魂喰らいの魔女のようで――

「むかし旅をご一緒してた人もトランクを持ってました。弟子のアシュテは今も時々お茶を淹れてくれて。
 でも、さっきお店の方にもらったこれは初めて見るお菓子です。えと、キャラメルですっけ?甘くてとってもおいしいです!」
「……? 鳥籠に包みを入れるのですか? どうして? 小鳥の箱なのに」

「海の色、夕焼けの色、花の色……すごい、瓶の中がきらきらしてます!
 タオ、ペンやインクが好きなんですか? タオの目もきらきらしてます。ほら、青のインクみたい!
 私たちも、お手紙は好きです!初めてお会いした人たちに向けて、お土産と一緒に瓶に詰めるんです。
 海流に渡すと遠くに届けてくれて――タオも誰かとお手紙してたのですか?」

「だ、大丈夫です! 噛まれてません!
 ああ、なんでこんなに蛇ばかり寄って来るんでしょう、なにもおいしくないのに……
 ――っタオ! 蝶がいます、森の出口は向こうのはずです! 大丈夫、蝶は案内上手ですから」

けれどその道中で、私たちはいくつも落とし物を拾いました。
寄り道も悪くない、なんて語った魔女に苦笑しながら“彼”が頷いたのが蘇ります。
懐かしい人々、別れを告げたいつかの日。
それらを記憶の貴賓箱に詰め直して、休憩をはさみながら、私たちは歩くのでした。

‐‐‐

やがて、やがて。
思い出を拾う旅路の末に、タオは忘れた“役目”に、私はある“気持ち”に辿り着きます。
求めていたそれは、宝石と共に握られた――青い小さな瓶の中でずっと眠っていたのでした。

「哀しみは、記憶に、心に。深く刻むための見えない針なんだと思います。
 いつかは抜け落ちて傷が塞がるから、また前に進める。傷跡が残るから、会えなくなっても忘れられない。
 私たちが、返事がこないって知ってても瓶を流し続けてたのは、やめられなかったのは。
 ……覚えておきたかったから。忘れたくないって思っていたからだって、わかった気がします」
「きっと。泳げないくらい針が深く刺さった時、抜いてくれていたのがタオたちだったんじゃないでしょうか」

「タオ。どうしても捨てられないその瓶には、きっと大事なものが詰まってます。
 忘れたくないって、記憶が叫んでるから、割れないんだと思います。
 大切な『かなしみ』は受け止めないと。これからも思い出せるように」

「涙は哀しみを封じてくれる宝石だって、教えてくれた人がいました。
 とても小さな器だから一粒じゃ収まらなくて、何度も零さなきゃいけないのが困りものだけど。
 ――だから、ちゃんと泣いてください。
 タオ、これまで泣いたことありましたか? 自分の『哀しい』とちゃんと向き合いましたか?
 哀しいって思うのは、愛しい気持ちがそこにあるから。だからね、何も悪いことじゃありません」

「泣いて。目が晴れたら、きっと視界が変わるから」


‐‐‐

そうして。
私たちは初めて出会ったあの浜で、青い小瓶を開けたのでした。
少女の瞳に、もう迷いはありませんでした。眩しいくらいの笑顔は、見違えるようでした。

「その子、『ここがいい』って、言ってます。……タオに、持っていてほしいみたい」

宝石が、瞬きました。

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2017-06-15 13:07:25 +0000