九十九路の羅針盤 -the compass of “99” Roads- ◆illust/60865485
◇ 羅針盤が指し示すは「雷霆」
<『業欲王』シェハルリヤール>
[100pt]▷[強靭:5/知能:50/器用:5/機敏:5/幸運:35](前期:illust=62498711)
└→//SOEI//:所属「顧問の一角」illust/62879594
「彼なりに頑張っているようだし、私の口出すべき所ではない。それにそんなことしたら『奴』に睨まれるだろうが!」
◆曰く愛弟子:ベドジシュカ[illust/62188012]
「我が同胞ベディ~!なにか困っていることはないかね!ほらほら、なんでも言ってみなさい!」
あの国の王:ベルタ[illust/62808013]
「おや、よろしいので? まあ、遠慮しますけれどもね。貴殿と同じく、私は彼を見守りたいのですよ」
◈絆:歌姫 メルポメーナさま[illust/62963664]
羅針盤は「月光」を指した →:⊿業欲王が次に手に入れたもの:【 】
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『ご機嫌麗しく。心配などないよ、貴女というといつも健やかそのものだ。
今日は可憐なお嬢さんが契約交渉に訪れてね、痛快な一日だった。
「歌姫にしろ」というものだから、少しからかったのだけど、そしたら彼女、なんて言ったと思う?』――
「……っふ、っく、ははっ、ハハハハハ!」
少女の来客とは珍しかった。見目に似合わず鋭い物言いで、怖じず引かぬ彼女は宣う。
「私の価値を上げると、そう言ったのかね? 貴女のようなお嬢さんが、この私の!」
「は~笑った笑った……いやはや失礼、あまりに面白いことを言うものだから」
「けれどお客人。私を選ぶというのはね、百の利と害を共に負うようなものですよ。
貴女のその小さな体で受け止め切れるので?」
「はたして、貴女に私の宝に連なる価値も、その意味も、足り得ていると?」
彼女は語る。まっすぐ相対し続けている。
またも笑みが溢れる、今度はつとめて朗らかに。
「ああ、そこまで言わせちゃ降参だな」
「取引成立としましょう。金だろうが血だろうが好きに使いなさい、ええと? そう、メルポメーナ」
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彼女の実力は確かだ。他に追随を許しはしない。
しかし近頃はすっかり、業欲王が歌姫のパトロンになった話は広まりきっていて…
そこらで大火事をしまくるせいで、とうとう火のない処に煙が立つ始末。自業欲自得王に改称されるべきである。
見やれば彼女はいつも通り、毅然としている――まあ、ああ言ったのは彼女なので折れられては困るが――。
(よく慕ってくれる、娘のようでいい子なのだが)
(惜しく、憤れるよなあ。何か圧倒的な機会があれば)
「鬱陶しければ…本当にうちの娘になるかね? 君と同じくらいの独り身の子が――息子に一人と孫に一人、ひ孫に三人」
「まあ息子の嫁を奪ったことがないわけではないから、慰めにもならんかもしれんが!」
✧
「よし、決めたぞメルポメーナ」
「君に劇場を作る!卒業祝いと思って受け取りなさい。私としては蒐集品のためのショーケースを拵えるようなもの」
「そこで、見る目のない者にも価値をわからせる。私の品ならできるだろう?」
オルゴールのネジを巻き始めた晩夏だ。
羊の絡繰と目が合った気がしたので「貴君の主人のことは任せなさい」とウインクしておいた。
私というと娘の披露宴に人を呼ぶような気持ちだったし、
この私がたった一人の少女のためにとびきりの劇場を建てるとなって、
割合みな、冷やかし程度に一つ見物と、私の招待に応じるのだった。
✧✦✧
その日は澄んだ――きっと彼女の故郷の森のような。そんな冬の頃だった。
幕が上がるが、観客席の喧騒は途絶えぬまま、そのままに。それは三つの星がすっかり昇った夜に現れる。
「さあさ、幕引きと致しましょう。今宵貴方方はどんな神話を目撃するのだろう」
ゆっくりと息を吸い込んだ。
―――《極光》、さんざめいて。けれど真っ直ぐ響いている。遠く、遠くまで。
劇場は、舞台の彼女を置き去りに、静寂を呑んで立ち尽くしている。
歌を聞いている。目新しくはない、ありふれた、けれど懐かしいフレーズ。……いや、恋しい、のだろうか。
殻を破いた歌姫は、冬の夜空を見据えている。
ひとつ、星が滑るのを見送った。
輝かしさに怖気付き、静かに席を立った。背中越しにカーテンコールを聴いている。 もうずっと遠くだが。
✵
「やあ。お疲れ様とおめでとう。好い舞台だったよ」
「もう君は私のものではないな。たった一人にしか価値の見出せぬものなんてなただのガラクタさ。
これは未来についてくるただのわがままだ。 羽ばたく君を私は見送ろう。……娘ってのは大抵そういうものだ」
「幸せだった、久しぶりに、いい夢が見れそうな」
「この劇場(オルゴール)にはまた、子守唄でも聞きに来るよ」
「しかし本当に君も“噂通り”にしてしまえばよかったな。私のものでない女は欲しくなる。……はは、冗談さ」
――✵//星を見送った。夜は目が冴える。
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『いま貴女はあの国の辺りにいるのだろうか。私はこの前、20代ぶりに料理をしたよ。
ナッツのパウンドを焼いてね、娘に味見をしてもらったのだが……なかなかむつかしいものだな。
p.s.チケットを同封した。その娘の公演なのだけど、近くを通りかかることがあれば是非。特等席だよ』
[幕が降りない。アンコールが続いている。道の先まで。
《Happly Ever After》の先のずっと――、その向こうまで。]
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2017-05-25 13:58:42 +0000