九十九路の羅針盤【illust/60865485】
ラジオをつけると百年青鳥の声が届いている。
追い風のように歩を促し人を鼓舞する、華奢な身に似つかわしくない変わらぬ力強い声が
「まだ」だと自分に告げていた。
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▼幽霊艇ウミボウズ 《白い舵》edward (羅針盤:月光/50pt/男性/投影された姿は18、19歳と見られる)
前期:巫瑚竜『シャウ』【illust/62046192】
前期絆:Epigeniea「下天の王」sedrie様【illust/61965100】
「陛下の御心のもと私の今があるならば、その命に従い進みます。私の国は貴方様の国ただ一つで御座います」
ラジオ越しの彼女:「百年青鳥」rosseti様【illust/62576596】
「貴方の声が聞こえないところまで行きましょう。たとえ海が途切れても、空が果てたとしても、その先まで」
「波のない海が鏡になるのをご存知ですか。
海面に空が映り込んで、まるで機体が海を泳いで見えた。私が感動した景色の一つだ。
――貴方もその時なら、空を飛ぶ鳥にも、海を泳ぐ魚にもなれるはずだから。その時は風を止めて。空へお行き。
海が凪ぐ時、其処に私も在りますよ」
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▼edward
つくも神として石灰の杖に宿った下天王の時代のEpigeniea兵。天才と謳われる操縦技術を持ったパイロット。
享年20歳。戦死。無論史実にその名は残っていない。
◇
▽絆:魂喰らいの魔女 レーオンハルト様【illust/62453630】
「ウミボウズを海に還す方法がある」
海に沈めるか、ウミボウズの胃袋に納めるか――財宝泥棒の処遇を巡る眷属の口論が魔女の一言で止んだのを覚えている。
「それは真か」と誰かが問う。「勿論」と自信に満ちた返答に「けれど」と魔女は付け加えた。
「その為には色んな国を回らないといけない。
楽な移動手段があればすぐ済むかもしれないけど、私は生憎身ひとつだから何十年かかることだか。
――しかもどうやら、海の魔物に喰われようとしてるみたいだし。……ね?」
取り押さえた盗賊は年端も行かぬ少女に見えたが、口ぶりは魔術師を騙るだけの堂々としたもので、
化けの皮を剥いだ海竜らの姿にも怖気づく素振りを見せぬまま、飄々と自らの身と海王を秤に掛けると眷属を揺さぶったのだ。
荒波だった眷属は一変し風が止んだようになると、しかし沈黙の海で互いを探り合うばかり。
財宝泥棒の、ましてや海王のなきがらを得ようとした魔女の言葉を信用するなどというのは、
先の故国で我が王に騙されたばかりだった眷属らにはひどく難しいことだったのだろう。
けれどただひとり、捕縛の力をわずかに緩める巫瑚竜がいたのを“自分”は確かに見ていた。
「海路を使えば諸国を渡るのは容易い。船があればいいのですね? そうすれば貴方は、解呪が成せると」
静観を破り宙より現れた自分を、夜色の瞳が捉える。ほどなく少女然に魔女は頷いた。
眼を疑念に染める眷属を鎮められるのはもはや『星』でないならば、この嵐で進路を決めるのは《白の舵》たる自分のみ。
何より目指す場所はここではないと、まだ遥か遠くだと“彼女”の歌が訴えているならば。
進み続ける理由が、自分には要った。
「目的地を教えてください。舵は私が切ります」
「号令」に巫瑚竜が魔女を解く。蝶がひらりと、魔女から飛び立った。
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[そうして漕ぎ出したものの、依然解呪の術は得られていません。
進展はないですが、ずっと海王様に縛られていた同胞方も世界旅行を楽しみつつあるようです。
シャウが流したネックレスは届いてますか? あれは彼らが見つけてきたものです。
賑やかになって歌は聞き取りづらくなりましたが、ちゃんと届いていますよ。
今は舞台の曲と、いい風が吹いてます。次の場所に着いたらまたご連絡します。では。 ――Ed]
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(編集中)
2017-04-25 13:39:00 +0000