【PFMOH】灯火に影は濃く

狐火

「…んん?」

ベースキャンプにて一通り仕入れを済ませ、仲間の元へ戻ろうとする商人マクベスの服を不意に引っ張るものがあった。
見れば商人の足元には先程の幼児がぽつんと裾を握って立っている。少し離れたところでこちらを見ている保護者を見るに、再び商人の姿を見付けて寄ってきたのであろう。

「ニエのひ、おれい……」

くるりと背を向け尾の火を揺らしてみせるニエの様子に、マクベスは一瞬キョトンと目を丸くする。しかし合点がいったように手を打つと、毛皮に差し入れた手に持った耐熱硝子の小瓶にその火を少し掬い取った。
広く知見のあるマクベスが種族の尾に灯る火の話を如何ほどまで知っているかは不明であるが、おそらく商人たる彼はその火の有用さをすぐにその頭へ思い描く事ができたのだろう。ありがとう!と機嫌の良さそうな笑みを見せる。

しかし幼児の視線はその顔ではなく、どうやらそれより少し上の狼の毛皮へと興味深げに注がれているようだ。
そこに宿る数多の狼の魂を感じ取ったのかは定かではないが、あるいは何かただならぬ物である気配を感じたのかもしれない。

「やや、これが気になるのかい?お目が高い。でも悪いが売り物じゃないんだ」
「むれのなかま…?しんじゃったの…?」

仔狼にしてみたら自分と同種の生物の毛皮や魂なんてものは、なかなかにショッキングなものであろうことは誰にでも想像はつく。しかしニエの表情を見るに、どうやらそういう訳でもないらしい。じいと見つめたまま再び口を開いた。

「……つぎ、まんげつのよる いつ…?」
「うん?そうだな、このまま順当に登っていけたとすれば……頂上につく頃じゃないかな」

毛皮について尋ねられると思っていたのであろうマクベスは、これまた急な話題の方向転換に軽く首を傾げた後に答えた。種族差はあれど多かれ少なかれ、狼というものはこと月の満ち欠けには敏感なものである。彼に尋ねたのは適任であったと言えるだろう。
その答えにニエの満月のような瞳は俄に曇ってしまったが、そろそろ行くぞと名を呼ばれ、手をふりふり保護者の元へと戻っていった。

幼児のちいさな背に負わされた過ぎたる業を見てか、商人は三日月のように目を細めて見送る。
禍福は満ちて欠ける月のようなもの。しかし今は、穏やかなこの時が長く続けばいい。

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♢アイテム『餽り火狼の種火』
餽り火狼の命尽きるまで消えない尾の種火。
火の強さは分けた狼の生命力に対応しており、死ぬと消えてしまう文字通り命の灯火。
受け取った当人ならびにその仲間には触れても燃え移らず、首に下げて懐に入れておけば寒冷地帯でも十分な温もりを得られる。
【10面ダイスで1か8が出たら『寒冷ダメージ』によるライフ減少を防ぐ】効果がある。

※私達PTの滅びに気付けるポケットカイロです(重………)
他者への譲渡、効果使用の有無や記載のない部分の補完などすべてご自由に!

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♢『業を背負いし影きたる』(illust/88694913)にてマクベスさんに幸運石のおすそわけを頂いたので、ささやかなお土産です…
私のひとつ前の作品(illust/88611589)はキャンプを出発し尾根にいる為、それより前の時系列を想定しています。

《二章の自PT旅路まとめ》(*…描いて/書いていただいた作品)
旅は道連れ世は情け*【illust/88576217】→業を背負いし影きたる*【illust/88694913】→【イマココ】→餽り火狼の贄【illust/88611589

♦二章でお会いした方々(一章の回想含)をお借りしています

『業を背負いし影きたる』(illust/88694913)より
[PT:歩き廻る影]
マクベスさん【illust/87949932

『変わったことと探し物』(illust/88628440)より
[PT:万屋苔玉]
ア・ルルカ・チャクさん【illust/88070300

[自PT]
ベンジャミンさん【illust/87856216
デミ・キョムスターのスス【illust/88576217

商人達のベースキャンプ【illust/88458791
ニエ【illust/87722299

Mountain of Heaven pixivファンタジア外伝【illust/87556705

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『儀式の日から次の満月の晩までに贄を捧げねば、儀式で永遠の命を繋いでいる同胞は皆、尾の業火に焼き尽くされ灰となるだろう』

ほとんど顔も見たことのない同胞の言葉だけが鮮明に残っている。

生まれたばかりの自我は死にたくないと吠えるけれど、それは許されることなのか。
多くの命を奪い自分ひとり生き延びたとして、自分を拾ってくれたこの人は許してくれるだろうか。
……この人ならば、なにが「正しい選択」か知っているだろうか。

儀式の期限――次の満月の夜は、頂上が程近くなった頃だという。
それまでに、自分の答えを見付けなければならない。

揺らぐ心を映すように、灯火は足元に暗い影を落としていた。

#Pixiv fantasia MOH#剣の尾根#【PT:歩き廻る影】#◆万屋苔玉#【PT:流浪の逃亡者】#【楽土へ至る逃避行】

2021-03-26 18:12:55 +0000