翌日の昼休み。
午前中、雑談という体で生徒たちへ聞き込みを開始したが、怪異についての証言は一切得られなかった。
そもそも怪異が活動的になっているのであれば、不死原さんたちが気付かない筈はない。
その点が、妙に引っ掛かる。
このまま虱潰しに聞き込みを続けて、成果が上がるかはかなり疑わしい。
考えている内に私は階段を登り終え、自分の教室がある2階の廊下へと辿り着く。
すると。
ガタンと乱暴にドアを開く音と共に、一人の生徒が目の前を横切って行った。
(鈴懸さん?)
急いで走り去るその後ろ姿を追いかけようと思ったが、そこで私は踏みとどまる。
“疑わしい報告”をよこした張本人が一体何をしていたのか、探ってみた方がよさそうだ。
直感でそう判断した私は、鈴懸さんが出てきたであろう女子トイレへと向かった。
入ってすぐ右手には洗面台と鏡が三つ並び、左手には個室が数室並んでいる。
まず個室の方を見渡してみたが、ドアは全て開放されていて、何かが潜んでいる様子もない。
(…特に異常は無いようだけど)
更に詳しく調べようとした、その刹那。
身体が、動かない。
ぞわり、と背中に走る悪寒。
そして背後には、何者かの確かな気配。
水道のセンサーが“それ”に反応したのか、水が流れ始め。
「…シッテ…ドウ…テ…」
そこにか細い女の声と、水道の詰まる音が混じり。
「ドウシ…テ…ドウシッテ…」
柔らかい何かが溢れ出て、悪臭が漂ってくる。
「ドウシッテ…ドウシッテ…」
ごぽごぽ。びちゃびちゃ。
「ドウシッテ?ドウシッテ?ドウシッテ?ドウシッテ?」
ごぽごぽごぽごぽ。びちゃびちゃびちゃびちゃ。
狂ったように反芻される女の問いかけと不快な音に、私の恐怖はとうとう臨界を迎えた。
「…姿を現せっ!!」
叫んだ瞬間に金縛りが解け、私は勢いよく後ろを振り返る。
(……いない?)
あれほど濃密だった気配は、いつの間にか掻き消えていて。
洗面台には酷い悪臭を放つ泥と、それの混じった泥水が残されるのみだった。
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2021-02-09 10:44:18 +0000