巨人化したスカーフェイス商会の女たち【illust/80209372】が全員元に戻ったという朗報から、
彼女たちがすぐさま「封じられしもの」との戦闘に加わりこれを討伐したという一報が届くまで、
リリィは祈るような気持ちで待ち続けた。
やがて原初の大穴でのすべてが終息し、船団員たちが続々と帰還の途に就いたことを聞くや否や、
彼女は帰還者たちの中にいるであろう一人の男の姿を探した。
帰還者の群れをくぐり抜け、運び込まれた怪我人の待機所を通りかかった際、
手当にあたる医療スタッフと会話する見慣れた後姿をやっと目にとめ、リリィは走り寄る。
「ツェさん! ツェさんあの…!」
自分の声に振り向いた男に、安堵したリリィは思わず笑顔を向けた。
母を助けてくれた礼を言おうとした瞬間、それは男からの意外な言葉に遮られた。
「──小姑娘(お嬢ちゃん)、どこの子ネ?」
自分を見下ろす男の表情に、初めて遭った者を見るような訝しみを感じる。
(え……?)
違和感の正体は、直ぐに思い当たった。
『黒霧に触れると記憶が消えるんだ』
シキミが協力者を募る際に言っていたこと。
黒霧の巨人と化した母の体内に入った者は、個人差はあるが少しずつ記憶を失う。
男は母の黒霧に触れたのだ。
そして失ったのは…。
リリィは唇を噛んだ。
母を取り戻した代償がこんな形で支払われるなんて。
喉まで出かかった感謝の言葉が体の奥へと沈み込む。
しかし、彼女は思い出した。
はじまりはその一言だった。
そこからだった。
だったら、またそこから。
そこから始めればいいんだ。
いつの間にか伏せていた顔を上げ、彼女はあの時と同じ顔をする男を、再び見上げた。
あの時と同じ、毅然とした態度で。
「リリィです。こちらの法務部の研修生です。ツェ・ユウインさん」
しかしその顔には、あの時にはなかった微笑みが浮かんでいた。
もう一度、またもう一度。
あの時間を積み重ねていこう。
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■最終戦直後、船団で待機していたリリィさんとお会いした時のエピソードになります。
話の流れ:
「巨人討伐依頼」【illust/80209372】→「母は黒霧の彼方に」【illust/80226139】→「裂黒霧砕核」【illust/80274828】→本作→「労働の対価」【novel/12626466】
(時系列では「HELP!」【illust/80710041】からの帰還直後になります)
黒霧の副作用(記憶の喪失)はこのような形になりました。
リリィさんに関する記憶を無くしましたが、その後再びあの時と同じやり取りがあってまた美女(お姉さん)呼びに戻ったのだと思います。
※リリィさんについて僭越な行動と心理の描写をしております。解釈等違いましたら申し訳ありません。
※関係各位の投稿を制限する意図はありません。問題ありましたらご連絡ください。
■お借りしました。
リリィさん【illust/79844875】
黒霧の巨人=ジギーさん(名前のみ)【illust/80209372】【illust/79027500】
シキミさん(名前のみ)【illust/79137443】
謝憂英【illust/78953041】
■企画:pixivファンタジア Age of Starlight【illust/78509907】
2020-04-11 05:43:38 +0000