【PFAOS】それは、祈りにも似た【原初の星光石】

ソウスケ@のたのた

「──あの!すいません!そこの、吟遊詩人の方!そ、その歌、私に教えてもらえませんか…!」

「……『銀の海』の事かい?これは、歌詞のない歌だが……」
「それがいいんです!あっすいません、でも、…───きっと、その歌が、一番良いから…」

※※※

 どうしてかつての『私』たちは、この大地を生き残る代償として『声』を選んだのだろう?
 同族と共に生きていたなら、成人としての祝福をすれど、悲しむことなどなかったに違いない。
 私たちには、私たちの言葉がそこにあったから。
 そう考えて、ふと思う。

『私は、声を失うことが悲しいのだろうか』

『声を失うという事は、悲しいことだろうか』

 否、と思う。
 こうして、新大陸に夢を見る身とはいえ足を踏み入れてから、色々な出会いを経て、言葉が違えど、言葉が通じずとも、心で通じ合える者たちもいるのだと知った。
 私が『ノドナシ』だと知っていても、受け入れてくれる家族や仲間もいるのだと知った。
 悲しくはない。つらくはない。
 父も、母も、かつての同族たちも。
 これは、全ての『私』たちが通って来た道。

 ──私が、残せるものは何だろう?

 ヨネズに手渡されたディスクーソゥを見つめて、一番に思ったのはそれだった。
 私が残したいものは何だろう?
 この『声』を、いつかどこかで、『あの人』が思い出してくれたなら、それだけで生きていける気がしていた。
 けれど、最近思うのだ。

 私が、残したいものは。
 私が、届けたかったものは。

 メリッサに贈られたアメジストのネックレス。
 宝石の言葉は、『真実の愛』『誠実』。

 『私』は、両親の愛の形だ。
 ノドナシである両親が、ノドナシとして私を生んだ。
 もう一度問い掛ける。

 ──いずれ声を失う『私』たちは、果たして『不幸』であるか?

 否、否、否。
 悲しくはない。つらくはない。
 『私たち』は、決して不幸な種族ではない。
 たとえ、生まれながらに奴隷商に狙われやすい種族であったとしても、
 『これ』が不幸であったなら、なぜ父と母は私をこの世に生み出したというのか?

 『私』たちは、幸福である。
 否、 『幸福であれる、すべを知っている』 。

 だが、だというのなら、
 この、胸に詰まる塊は何だというのだろう。

 初めは、声を失った後に皆に聞いてもらうボイスレターにしようと思った。
 けれど、聞いた途端に感極まって、聞くたびに泣き崩れる人の顔が数人ほどマアルの頭に浮かび、
 「自分の声を聴くたびに泣かれてしまうのは本意じゃないな」と却下した。
 そうして、悩んで、悩んで、悩みぬいて。
 パンクしそうな頭をマホドアに宥めるように撫でられて、微かに。

 ───…♪

 聞こえた、それに息を呑む。

 嗚呼。

 そうか。わたしは。

 悲しくはない。つらくはない。
 不幸ではない。

 ただ、少しだけ、『寂しい』のだと。

 ──そして、『寂しさ』を感じることが、
 この上なく嬉しくもあるのだ、と。

 音色の先に飛ぶように駆け寄った。
 調べに銀色の海が遠く揺蕩う。
 ──魚よ、月の舟は、まだ浮かんでいるか?
 この感情の名を、思い出させるこの音色は。
 この、歌は──。

 銀の竪琴を持った、吟遊詩人らしき人影が焚火の前で歌詞のない歌を歌っていた。

■関連作品
 これをキミに【illust/80195690
 あなたの未来に灯火を【illust/79982186

 雨にうたえば【illust/80114815
 Inquieto【illust/80208658

 (『あの人』や、『言葉が通じなくても心で分かり合える者たち』についてはこちら:【novel/12464804】)

■ヨネズさんにディスクーソゥを貰って、マアルの声を形として残すならばこれしかないと思った。
 『銀の海』。
 歌詞のない歌。心を奏でる、寂しさを少しだけ抱いた、それはきっと『祈り』のような。
 マアルがノドナシ達とだけで生活していたなら、きっと抱かなかった声を失う事への寂しさ。
 それが、抱けることが少しだけ嬉しい。

 多分、シレーネさんが本格的に原初の大穴に潜る前の時間軸だと思います……。
 不都合問題などありましたら、パラレルスルーでどうぞお願いいたします……!
 どうしても『銀の海』の歌を覚えたかった…。
 (この後、シレーネさんから歌を聞いて、ぽつぽつマホドアと練習するようになる……かもしれない)

 マアルがこれだ!!と思った理由は、『歌詞がない歌』であれば、マホドアのようなマホマホ族やそもそもが言葉の通じないような相手でも、響きと音色だけでその歌を心で聞くことが出来るだろうと思ったからです……。

■お借りしました。

アフターで声が出なくなるシレーネさんとは、マアルはまた全く違う立場ですが、ギルド外からそっと応援してます…!
 シレーネさん【illust/78953424
 ねこさかな【illust/79007497

想いの籠ったプレゼントありがとうございました…!
 ヨネズさん【illust/78960489
 メリッサさん【illust/79203388

 ディスクーソゥ【illust/79181496
 ロゴ【illust/78962445

(3/21追記:今更なのですが、シレーネさんを女性だと認識しているなマアル……?と思って、こそっと『吟遊詩人』のところだけ残して一部修正しました……。※中の人が深く考えていないまま打ち込んだのが原因です)

■自キャラ:
 マアル・パハ【illust/79003395
 曲刀のマホドア【illust/79659099

「マホドア、私、歌あんまり歌ったことないから、一緒に練習してくれる?」
「マホッ!(胸をどんと叩き任せろのポーズ)」

企画元:【illust/78509907

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2020-03-21 10:56:48 +0000