『ロアベーア・バオム記す
エルダーグランで暮らす私にとっては、自身の種族が寒い地方に適応した種族である事を考える機会は少ない。しかし今回、ノーザリア侵攻の軍勢について行った先の冷たい空気に、自身の体の対応力を思い出した。元々私の一族は漂泊を好む性質であったらしく、単純に流れ者の多いエルダーグランを拠点にしていたにすぎない。私自身、エルダーグランに"国"という認識はない。実際、ここで帝国と争っているのも同盟……ある意味で寄せ集めの者たちである。もっとも、翅に大きな目の様な模様のある私にしてみれば、地域的に気味悪がられる事が無くて暮らしやすいが。
ふと、自身に近い気配を感じて空を仰ぐ。もちろん見えないが。その気配は光の線となって空を駆けていく様だった。私はその時、自身の一族以外に初めて同族を見た。ただ、向かっていく方向を見るにノーザリアの所属であろう。私はこの戦争の勝敗自体には興味が無い。近い未来死ぬ定めにある自分にとっては正直関係が無いと思っている。しかし、自身と同じ種族の、自分よりも年若い娘が戦場を駆けていく姿を見ると、さすがに思う所はある。私の周りには同族は無く、私自身種族の血を残す事も出来ないが、自分に子がいたらあるいはもっとそういう思いが強かったのだろうか。この戦争が終わっても彼女やそれよりも若い同族が生きていく。私が死んでも、歴史は続いていくのだから』
「コアミューラ、お嬢さん。どうかこの戦いで、君が傷つき、倒れる事がありませんように」
エルダーグランの私にそんな事を祈られていると知ったら、彼女はどんなふうに思うだろう。
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どこかで、時計の針の動く音が聞こえた気がした。
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□お借りしたキャラクター
・セネリさん【illust/72940285】
□お借りしたアイテム
・星灯のカンテラ【illust/73563985】
(製作者:ステラリアさん【id=73007843】)
ありがとうございました。
別の場所で図書館の仲間がピンチなのにふらついていて出遅れた!
【illust/73390671】
2019-03-16 01:36:21 +0000