※R15企画です。【紅い糸―に―illust/54120068】
木下 桃子(きのした ももこ) 13歳 145cm 一人称/二人称:わたくし/あなた
メンヘラお嬢様です。
ご縁を結ばせていただきました!
會澤 和真さん(あなた、カズさん)【illust/55192264】
木下桃真はわたくしの父である。
こうして廃工場の屋上で地上を見下ろしているのも、この男が元凶だと言える。
戦時中に他者を見殺しにしすぎたのだ。家族を守るという名目で。
死んでいった方々は、地獄のようなこの世を抜け出し天国へ行ったのだと思えば、少しは心の慰めになる。
そうしてわたくしも、宗教に縛られ自殺できない身でありながら、こうして死にやすい場所へ足を運ぶのだ。
きっといつか、天使様がわたくしを天国へ連れて行ってくださる。
そう空想していた折、あなたは現れた。
あなたが口にする言葉は美しくて、けれど強い意志を持っていて。
そんな宝物のような言葉で死への旅立ちを止めてくれた。初めて会ったわたくしに。
「詩的なお姉さま。わたくしの神様は自殺を許してくださらないの。
だからどんなに天国に焦がれても、だめなのよ。」
「優しい方なのね。
ねぇ、また会ってくださる?わたくしは桃子よ。木下桃子。
あなたは、天使様かしら?」
死臭が漂うこの地獄で、温かな手を知った。
「あっちにお花畑があるの。とても綺麗な場所よ。」
「あなたに見せたいの。きっとあなたに似合うわ。
待ってて今作るから。花の冠よ。」
「ふふ、やっぱり似合ってる」
「あら花の指輪ね!素敵……ありがとうカズさん。
ねえ、わたくしが死んだらお花をたくさん供えてね。お願いよ。」
わたくしの我儘に、笑顔で付き合ってくれた。
「チョコレート。こっそり持ってきちゃった。」
「カズさん、口元についてるわ。子どもみたいね……あら?
カズさんとわたくし、目の色がとっても似ているわ。
きっと神様が引き会わせてくれたのね!」
「カズさんと一緒にいる時間だけが幸せよ。
あなたがいるだけで、この世も悪くないんじゃないかって思えるの。」
あなたがいるこの場所だけが、この世の楽園なのだと知った。
「わたくしは、この世が地獄だと思っているの。
お父様は戦時中家族が生き残るために、随分色んな方々を貶めて見殺しにしたわ。
けれどきっとあの戦争で亡くなった方は天使様に選ばれて、わたくしたちは選ばれなかったから、
こうして地獄で生きている。そう思うと少しだけ気持ちが楽なの。
けどわたくしも、天使様に選ばれたいと思ってるのよ。厚かましいわよね」
カズさんの笑顔が、美しい言葉が、優しい眼差しが、会う度に胸を締め付ける。
この想いは神様を裏切ることになるのに、わたくしは……。
「わたくしはもう、天国には行けないわ」
「カズさんお願い。あなたの手で終わらせてほしいの。
我儘でごめんなさい。けれどあなたがいい。あなたでなくては意味がないの……」
あなたは何て言ったかしら。今でも信じられないの。
わたくしと共に、命を投げ出してくれるだなんて。
「……本当にあなたが、わたくしの天使様だったのね。
あなたが……嬉しい。ええ、一緒に行きましょう。二人でこの地獄を抜け出すの。」
こんな冷たい湖もあなたと手を繋いでいたら、希望の道に見える。
そしてふと、今まで気づかなかった事が口から零れた。
「ねえ、こんな時に呼ぶ名前さえわたくし知らなかったわ。
教えて。あなたの名前。」
神様は確かにわたくしたちを愛してくださっていた。
「カズさん…いえ、カズマさんとわたくし、本当に紅い糸で結ばれていたのね。
たとえあの男の血だとしても」
運命の祝福が嬉しくて嬉しくて、涙が溢れて止まらない。
「わたくしたちの間にあるのが血の繋がりなら、きっといつかあなたがくれた花の指輪みたいに、
わたくしが捧げた花の冠みたいに、うつくしいものよ。」
気づけばあなたにすがりついていた。こんなにはしたなく泣いて笑って喋って、
あなたに嫌われてしまうかしら?あなたはどんな顔をしていたかしら?
そうして紅い糸を見つけて二人、冷たく優しい死出の旅路へ。
行き行先が地獄でも
「わたくし、幸せよ。」
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2016-01-19 17:01:58 +0000