「憎いと思うべきなのに、愛しく思うのは、
きっと私がもうおかしくなってしまっているからだろうか」
🌼 魔王と花嫁 【illust/51208458】
※主催様承認済
🌼 イヴアーク 花嫁 女 18歳
一人称:私 二人称:お前、魔王
「はじめまして、魔王。お前は私から何もかもを奪った、覚えているか?」
「神の元へ行ってしまったあの子たちが見ているんだ、だから、出来ない」
「一度は母に置いていかれた。二度目は家族同然の子供たちとファーザー様たち。
お前が三度目にならないことを心から祈っているよ」
「一人ぼっちになりたくないだけじゃないんだ、お前と、離れたくない」
家でもあった孤児院を奪われた少女。
何かに縋っていないと生きていけないため、今は憎しみと神への祈りで命を繋いでいるようなもの。
祈りを捧げることは、魔王の元へ嫁いでもやめない。
また、右腿のナイフは刃の潰された儀式用の物で、育ての親である神父の持ち物だった。
お前しかいらないんだよ トリスティスさん【illust/52058424】
魔王に嫁ぐと決めてから、少しずつ夢を見るようになった。
ファーザー様や、子供たちが私に魔王を殺すように迫る夢。
あの青い魔王が孤児院とみんなを奪ったから、私はあの魔王を殺さなくてはいけない。
神は復讐なんてものを許さないけれど、みんなが望んでいるなら、そうした方がいいのだろうか。
魔王は私の名前を覚えてくれると言った。
だったら、魔王の名前を覚えてやろうとも思ったけれど、覚えるだけにする。
娶られたからといっても、私は神のもので、この命はみんなの為にあるから。
「私の名前はファーザー様が付けてくれたものだから、そんな言い方しないくれ」
「でも、林檎は好きだ。紅くて、甘酸っぱくて、綺麗だし、お前みたいに青くはない」
魔王がむっとするのがわかる。
私から孤児院を奪ったように、私の命くらい簡単に奪えるというのに。
嫌そうな顔をしながら、魔王が話す。
花嫁は必要なものだから、殺さないし、危害も加えないのだと。
私が死んだら、魔王は困るんだ。
私と言う存在を必要としてくれるのは、この魔王だけだと、いうのか。
だからといって誰とも話せなくなってしまったら、私は孤独になってしまうのに。
孤独になってしまったのはこいつの所為で、なのにこいつしか縋るものがいない。
「私が神に祈っているのが不快だと思うのなら、そう言え」
「神は何もしてくれないさ、ただ、神に祈っていないとみんなのことを忘れてしまいそうなんだ」
(お前がどこか寂しそうだから、手を差し伸べたくなる)
時間を持て余した私は魔王に何でも話した。
独り言でも、すこしずつ相打ちをくれる、穏やかな時間。
それが赦されるものでないのは、分かっていても、今あるものに縋りついていたくて。
「魔王を憎んでいたいのは本当なんだ。だってみんながそれを望んでいるから」
「でもお前自身のことを、トリスのことは嫌いたくないんだ」
(だからといって、愛してはいけない。いけないのに)
魔王には失ったものがあるのだ。
私と一緒だけど、血で血を洗うのは、ひどく哀しい。
それを分かっていても、やめられないのは魔王に力があるからだ。
ただ一人の人間には魔王を殺す力なんてないけれど、今の私には力がある。
でも、この魔王を赦してしまっている私に、そのまじないは残っているのだろうか。
ファーザー様のナイフはきっと私の気持ちを分かっている。
私のことを怒っているに違いない。
(お前をきちんと愛せるなら、私は幸せになれるのに)
「トリスが魔王じゃなければよかったのに、みんなを殺した魔王じゃなければ」
「だからといって、お前が魔王じゃなければ、きっとお前に会えなかったんだろうなって」
復讐なんてもう忘れてしまおう。愛してしまいたい。
「私は、これで良かったんだと思う」
神に祈ることもやめて、ナイフも外して仕舞った。
みんなに怒られてしまうのが怖くて、全部忘れてしまいたかった。
ねえ、トリス。
私はちゃんとお前を愛せるかな。
笑って、ずっとお前の手を握っていたい。
夜は怖いんだ、夢を、見てしまうから。
もう何も考えたくない。トリスの為だけに生きていたい。
2015-08-22 16:14:18 +0000