《彼の者は此処に、敵は此処に在る》
鳴り響く警報を辿った先に邪悪が在った。
蠢く黒い影。紅い目が嘲笑うようにこちらを見ている。その異様さ、“世界を脅かす脅威”と呼ばれるに相応しい威圧感に、思わず一歩後ろに下がってしまった。
だが、多くの生徒が立ち塞がっては為す術なく地に転がされているのが視界に入り、無意識の内に逃げんとする足が止まる。
狂言回しの絶叫が脳裏に蘇った。
“この世界の生徒を助けよ!”
ソカロ様、と小さな呟きが溢れた。
太陽のような、我らが長。己が最も心を寄せる彼の人を思い浮かべ、短く祈る。
「どうか、私に勇気を」
臆病な心が逃げたいと叫ぶのを意志の力でねじ伏せ、前へと向かう。
「なあ!アンタもあのニセモノヤローをぶっ飛ばしてえのか!?」
己の存在に気付いたらしい、勝気そうな赤毛の少女がそう呼び掛けてきた。
「あいつの影みてーなのが厄介なんだよ!ブン殴ろうとするとガードしてくるし、いくら殴っても全然効かねぇ!」
「……そうか、では私が先陣を切り、影を薙ぎ払おう。本体はお前に任せる」
「お前、あの影なんとか出来る自信があんのか?」
「当然だ。我が信仰の刃に斬れぬものはない」
祈りを力に。信仰を刃に。
この身に湧き出ずる激情を形に。
特殊な染料で染められた真紅の織物を依り代に、神の力の欠片を借り受ける。
鮮烈な白の光が迸った。あらゆる武器に適性がなく、戦う術を得られずにいた己に与えられた、唯一無二の力。
世界を断つ刃だ。
幾条もの影が襲い掛かってくるのを、全て紙一重で避ける。一瞬たりとも同じ場所で止まることなく、僅かな動きで微細な調整を繰り返し、回避し続ける。薄氷の上を歩むような、一瞬の油断が命取りとなりかねない攻防。一度でも当たれば命はないだろう。己の死がすぐ側を掠めていく。
己が身を最優先にしているため、考慮されなかった衣服が影に貫かれ散々に引き裂かれる。だが、それは前進の妨げとはならない。ならば何も問題はない。
進む。進む。進む。前へと!
布を依り代にしているというのに、鮮烈な白光の余波で腕の皮膚の表面が分解されつつある。骨が軋み、関節が悲鳴を上げている。剥き出しの肌がちりちりと焦げ付く。
己が唯一の武器は、神域にも踏み込めるかもしれぬ程の強大な力の塊だ。人の手には余る力。それを扱う代償と考えれば相当に安いものであるのだろう。それでも厄介には違いなかった。
今にも己の手綱から離れ、暴発しそうなエネルギーの塊を意地と根性で制御する。歯を食いしばって有りっ丈の精神力を振り絞り、途切れそうな集中力を継続させる。
この力を放てば、一直線上にあるものを広範囲にわたって断つ。硬いものも柔らかいものも呪いも魔術も人も物も獣も霊体も大地も空も、何もかも全てを。
森羅万象全てを等しく二つに分かつ刃だ。
どういう原理なのかは分からない。ただ、そういう物なのだ。
だから前に進まなければならない。敵も味方も分け隔てなく両断してしまう、諸刃の剣。だから誰よりも一番前に位置取らなければならないのだ。
踏み込み、跳び上がる。後少しで味方を巻き込まない、安全な射程距離に辿り着ける。ゼロ距離に至ったその瞬間、身体をひねり眼前の敵目掛けて斬撃を振り下ろした。
「ーーーーーッッ!!!」
己が粉々に消滅した。
そう錯覚するほどの衝撃が襲った。ゼロ距離で放てばこうなるだろうと予測はしていたし、対策も講じていた。
幼なじみから譲り受けたコッカトライスの鈴。鈴に宿る願いを一つだけ叶える力を、守護の力に変え4つ同時に発動し、堅牢な守護の盾とした。
だが、それでもなお防ぎ切れぬ衝撃に、痩身が枯葉のように吹き飛ぶ。
視界が暗転し、意識が刈り取られていく。
「ま……任せ、たぞ……」
炎を纏う少女が視界の端に映る。彼女の振るう拳が敵を打ち砕く事を祈りーーーそれを最後に意識を失った。
▼▼▼
間に合わなかったけど、折角描いたので投稿しました!!!
何か都合が悪ければパラレルスルーお願いします。
▼▼▼
▼ギジョウ の 自爆 攻撃!
▼相手 の ガード を 吹き飛ばした!
▼ギジョウ は 気絶 した!
【取り入れた展開】
私はここに、彼の者はここに【illust/51135441】
リベンジ!【illust/51212235】
嬉々たる再会と泥傀儡の伝令と【illust/51038576】
譲り受けたコッカトライス【illust/50436863】
お借りしました!
アネッサさん【illust/50663455】
ミルシュカさん【illust/50680471】
エレトさん【illust/50671242】
大破したギジョウ【illust/50732758】
斬撃の詳細【illust/49741138】
2015-07-06 07:50:06 +0000