「むかーしむかしのお話をしてあげるよ…そんなにボクの寝物語が聴きたいの?
…ふふ…なぁに、体はおおきいのに まるで 子ども みたいだね …オニイチャン?」
「ねえ、キミはいかないでよ…母さまも父さまも、ボクの大切なものはみんな
『海』が持っていっちゃうじゃない…だから、キミだけはここに…ボクの傍にいてよ」
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◆名前: シルフレア (それぞれ多種族の血をひく 牙虎と海獅子の混血 ♀)
◆所属: 紅玉ノ国
◆役職: 戦士
◆カードポイント:【110】
◆ジョブレベル :【27】
◆所持スキル
【亡国の記憶】自身に連なる先祖(両親・祖父母・曽祖父母など)が亡国出身の場合に
それらの『記憶』や『知識』を継承する賢者のスキル。(対象が生存中の場合は断片的に継承される)
シルフレアの場合は琥珀・蒼玉&もし滅亡した場合は天藍・紅玉国籍の先祖が対象。
(※直系&縦軸の繋がりのみなので兄弟や従兄弟などの記憶・知識は除外)
【浄火の真珠】炎の魔力を宿した真珠を生み出し、珠の内に吸収した穢れを焼き祓う清めのスキル。
【獄炎】一族の誇りとともに継承した、周囲を火の海と化す火炎の魔法スキル。
【炎装強化】武器や体に火炎を纏わすことで属性を付加し、筋力や脚力を高める強化のスキル。
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■父:ソルフレア【illust/45160826】
ジョブ:戦士 / 所属国:紅玉ノ国 / カードポイント:50/ ジョブレベル:9
「どうしてぼくらにはお母さんがいないの?!死んじゃったなら死んじゃったって
ほんとうのことを教えてくれたらいいじゃない…海のむこうになんて、行けっこないんだから」
「行っておいでよ、父さま。蒼玉の海へ消えていった 母さまのことが心配なんでしょう?
…もう駄々をこねていた頃のボクとは違うんだから、父さまがいなくたってボクは大丈夫だよ」
■母:ミラノ・プリーモ【illust/45115690】
ジョブ:僧侶 / 所属国:蒼玉ノ国 / カードポイント:50/ ジョブレベル:9
「ぼくがいいこにしてたら、むかえにきてくれるかな……もし、この海のむこうまでおよいでいけたら…そしたら」
( おかあさん…おかあさん…どうしてぼくをおいていっちゃったの?……さみしいよ……あいたいよ… )
「ボクが“紛い物”だから、母さまは僕を置いて 海のむこうへ行ってしまったんだって ずっと思っていたんだ…。
今のボクは昔とは違う…海獅子の運命も理解しているし、ボクが母さまと同じ場所に行くことができないのも知っている。
だから、ひとりでだって強く 誇りをもって生きるよ……別れの運命を受け入れた 母さまのように」
■兄:シュテファン・プリーモ【illust/45788672】
「ねえ、おにいちゃんのしってるおかあさんはどんなひとだった?あったかくて、やさしくて、きれいだった…?」
( …おにいちゃんもおかあさんといっしょ…?ぼくがいいこじゃないから、きらいだから、いつもおこってるの…?)
「兄さまはいいよね、ボクがもってないものをみんな持ってる……力が強くて、身体も大きくて、母さまとの思い出だってある。
同じ兄妹だって、こんなにも違うんだ。全部もってる兄さまには、ボクの気持ちなんて一生わからないよ…」
( …本当はもう気づいてるんだ…あの日、初めて記憶の断片を拾い上げた時から ずっと …兄さまが本当は優しいってことも
…でも、それを認めても『運命』は変わらない…ボクは兄さまや母さまとは違うから……どうしたって、同じ場所へは行けないから
それなら、ねえ……いっそ何も知らないままの方が、ボクたちは幸せなのかもしれないって思うんだよ 兄さま…)
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▼【シルフレアの種族】
曾祖父母の代から3代に亘り『琥珀ノ国』に仕えていた獣の一族の少女です。
(詳しい来歴などは父子のステータスシートをご参照ください)
牙は一定の期間ごとに生え変わる為、抜けた牙を加工して作った首飾りや装飾品などを御守りとして
我が子や伴侶に贈る者もいます。(…が、当代のシルフレアは持っていません)
体を包むオレンジと蒼色の毛は、普段はただの飾り毛で触っても熱くはありませんが
スキル発動時には全身をメラメラと包む炎となって周囲の物を焼き尽くします。
彼女自身は牙飾りを受け継がなかった代わりに、後述の理由にて
父と父方の祖母から『羽飾り』のイヤリングを受け継いでいます。(左右で違う羽飾りです)
▼『琥珀ノ国』と『フレア家系』について
【歴代の歩み】
★ネルフレア(曾祖母)
・害獣として忌まれていた一匹の獣が、命の恩人と無二の伴侶との出逢いを経て
『琥珀ノ国』を生涯唯一の居場所と定めた。
・琥珀滅亡の折、最期まで国を守り夫とともに戦死する。
★ミルフレア(祖母)
・同国婚の両親や母の恩人、父の知人・友人らに囲まれて 祖国への愛国心いっぱいに育つ。
・母や兄とともに戦士として王家へ仕え、悩み多くも民と共に歩まんとする姿勢の当代王へ格別に慕わしい感情を抱く。
・琥珀滅亡の折、王位継承の祝いに遅れる形で 夫側の故郷より帰還するも
そこで変わり果てた祖国の惨状を目の当たりにする。以後、子らと共に紅玉へ身を寄せる。
・息子が海へ旅立った際、父の額の宝石と羽でつくった形見の『羽飾り』を孫のシルフレアへ託す。
★ソルフレア(父)
・親戚や懇意な家系の者たちに囲まれ、従兄弟らとともに琥珀にて穏やかな少年時代を過ごす。
・琥珀滅亡の折、母と共に戻って来た祖国の森で、魔物に蹂躙されている祖父母の遺体と対面する。
・以後、母と共に父の国である紅玉に身を寄せるが、精神的なショックにより『琥珀ノ国』に関する一切の記憶を失う。
・成長後、戦士として紅玉へと仕官。その後、敵地であるはずの蒼玉で 成長した初恋の君との再会を果たすが
互いの母の祖国である琥珀に関しての記憶を失っている為、彼女への執着の理由がわからず戸惑う。
・その後、従兄や伴侶らと過ごす日々の中で、失われた琥珀に関する記憶を徐々に取り戻した。
・妻の消息を追って海へ旅立つ際、母から譲り受けた『羽飾り』(illust/45160826)を末子のシルフレアへ託す。
▼『亡国の記憶』とシルフレア
「母さんは海の向こうで、今も君たちのことを見守っている」
幼い末子が「おかあさんは?」と訊くたびに、父はそう言って彼女を宥めすかした。
いっそ 死んでしまったのだと告げられれば 諦めることができたのかもしれない。
けれど、良くも悪くも嘘がつけない性分であった彼女の父は、そう幼い少女に言い聞かせ続けた。
もう逢うことができないわけではないのに、どうして母は自分に逢いにきてはくれないのか。
同じ父と母の子どもなのに、どうして家族の中で自分にだけ母との思い出が何も無いのだろうか。
幼い疑問は憤りとなり、悲しみとなり、やがて一人の少女を突き動かした。
「おかあさんがほんとうに海のむこうにいるなら、ぼくがあいにいけばいいんだ」
母に逢うことができれば、けして納得できない今この状況に答えをくれるかもしれない。
優しく抱きしめて、お前はけしていらない子ではないのだと甘やかしてくれるかもしれない。
本当は自分も逢いたかったのだと、お前が来てくれるのを待っていたのだと笑ってくれるかもしれない。
期待に膨らむ胸を抑え、ひとり飛び込んだ海。
けれど、その波は万人に等しく優しく、万物に等しく残酷なうねりを少女に齎した。
水に呑まれ、波の重さに抗えず、息を継げない苦しさに 下へ下へと沈んでいく小さな体。
薄れていく意識の中で、唐突に けれど驚くほど静かに 彼女は悟った。
― 嗚呼、きっと ボクが正当な後継者ではないから…水はこんなにも“紛い物”の自分を嫌うのだ。
そんな思考が 言葉が 脳裏を過った刹那。
まるでそれを否定するかのように、急激に頭の中が 清く澄み渡る感覚を少女は覚えた。
一瞬で全ての血液を入れ替えたような、未知の能力の発現。
それがどうしてなのか、そんなことはわからない。けれど、わからないままに その答えは突如として彼女を訪れる。
それは、父と兄が母を見送った時の父の『記憶』であり
祖父が、母が、愛しい者たちと経験した別れ…残し 残される運命を受け入れた『記憶』
沈み溺れる体を兄に助けられ、意識が戻るまでの間に彼女が見た 長い長い 『過去』という名の夢物語だった。
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▼【シルフレアの関係者様】
★歳の離れたお目付け役 兼 初恋の人…?
★翡翠ノ国の戦士・カダルショーアさん【illust/45795560】
「どうせ、お婆さまや ディー伯父さまに頼まれたんでしょ?…はとこなんて、そこまで近い親戚でもないのに
ボクみたいに“厄介な子ども”の面倒を押し付けられるなんて キミも災難だね……『御愁傷様』…とでも言えばいいのかな」
「そんなに何度も言わなくても、ちゃんと聞いてるよ……はいはい……そうだね、次からはそういうことも考えておくよ…」
( …カダルに言われると、なぜか聴かなきゃいけないような気になるんだよね……なんなんだろうこれ……調子狂うな)
父・ソルフレアが海へと旅立った時、彼はまだ幼い末娘を2人の人物に託した。一人は自らの愛しい息子、そしてもう一人は
彼が兄のように信頼を寄せる人物…異国に籍を置く友であり 従兄のディーゲミューツルーエ。
しかし、頑なな少女の心は 相手が祖父母であろうと父の従兄であろうと等しく、彼らを受け入れることはない。
そんな中、一族の中にただ一人の『例外』が現れた。…彼の名はカダルショーア。
曾祖父・クストーデに憧れる快活豪快な青年であり、ディーゲミューツルーエの息子である。
少女は記憶を持っていた。祖国を守り息絶えた曾祖母・ネルフレアの記憶を…そしてその『記憶』は知っていた。
どこか曾祖父・クストーデを想わせるその青年が、心を許すべき『懐かしく愛しい』存在であることを…。
以来数年、青年は少女が唯一まともに応答をする『特別』な存在として、一族から目付け役を任されることとなった。
かたや曾祖父・クストーデを想わせる青年、かたや曾祖母・ネルフレアの記憶を持つ少女。
どこか彼のことを愛おしく、恋しい存在だと感じる…その気持ちを『恋』だと思った頃もある。
けれど、それはあくまでも『記憶』…曾祖母・ネルフレアが夫を想う心であり、自分のものではないのだと理解した時
少女の中には、ただただ 優しいその青年を兄のように慕う『親愛の情』だけが、色鮮やかに残った。
(キミを愛しているこの気持ちが、キミに恋していると思っていたこの気持ちがボクのものじゃなくても
……キミのことを好きなこの気持ちだけは、ずっと昔からボクのものだ …紛い物じゃない、ボクだけの『本物』だ )
★素敵な未来の旦那様から御縁をいただきました…!
♥翡翠ノ国の魔物使い・リディニーク・ニヴルヘイムさん【illust/45723351】
「…あのね、なんの義理があってキミがわざわざボクに構うのかは知らないけど、これだけは言っておくよ。
確かにボクの曾お爺さまとキミの曾お婆さまは仲が良かったかもしれない……でも、ボクとキミとはただの『他人』だ。
それ以上でも以下でもないし、何か思うところがあって『同情』でもしてるんなら、不愉快だから止めてくれない?」
「キミってさ、不機嫌な子どもには甘いお菓子を与えておけば大丈夫…くらいに思ってるでしょ、絶対。
そうじゃなかったら、逢う度にこんな蜂蜜の塊みたいに甘いケーキを持ってくるはずがないよね……まあ、食べるけど」
落ち込んだ時を見計らったように、甘いお菓子を持ってくる不思議な存在。
それが、少女にとっての彼の最初の印象であった。
温かく恵まれた家庭に生まれ、その心根も真っ直ぐに、将来を嘱望されて育った青年・リディニーク。
自分に無い物をことごとく持っている彼に、最初はどこか嫉妬めいた感情を抱いていた少女であったが
目付け役であるカダルショーアの窘めと、不躾な態度にも気を悪くせず、繰り返し自分に話し掛けては
優しい笑顔を見せる青年の態度に、その棘は徐々に抜け落ちていった。
雪解けのように穏やかな日々を重ねながら、やがて時は流れる。
幼かった少女が、日増しに成長し、大人への階段をのぼり始める頃には
青年と少女との心の距離は、顔をあわせる『口実』がいらない程に近づいていた。
「キミの曾お婆さまの話が聴きたいの?……別にいいけど、ボクもボクの曾お爺さまたちが知ってる範囲でしか知らないよ?
……どんな人たちが御屋敷に住んでいたとか、彼らがどんな最期を迎えたかとか…そういう、年史的な記憶が多いから
キミの曾お婆さまが、本当は何を考えていたかとか…そういう突っ込んだことはわからないんだ」
(…それを見守っていた、ボクの曾お爺さまの『記憶』なら…当時の考えも込みでわかるんだけど)
「ねぇ、兄さまもカダルも結婚して、それぞれ家庭を持ったんだ…いまだに身を固めてないのなんて、キミくらいだよ?
こんなところで時間を無為にしてないでさ、もっと他にやるべきことがあるんじゃない? ……引く手は数多なんだから」
( …貴族の嫡男である彼が、ボクのお守りで婚期を逃した…なんてことになったら、それこそ顔向けできないよ…)
「んー…うるさいなぁ…もう成人したんだから、ボクだってお酒ぐらい飲むよ……まだ眠ぃ……。
………うん、…ひさしぶりに『懐かしい夢』をみたんだ、…むかしの『記憶』じゃない…ボクの、小さい頃の…夢
あったかい家の中には おとうさんと おかあさんと 子どもたちがいて…みんな、なかよしで…いつもいっしょにいるの…
家に帰ると『おかえり』を言ってくれる誰かがいて…おなじテーブルでごはんを食べながら…笑って 一日のできごとを話すんだ
笑っちゃうくらいささやかで…きみにとってはあたりまえかもしれないけど……それがぼくの…たったひとつの夢だった
………もしも 生まれ変わるなら……ぼくは、…きみみたいなひとに なりたい…な…」
(傍にはいつも大切なひとがいて、それを『守る』ために生きるのだと言えるような…強くて、大きくて、優しいひとに……)
「キミが風邪をひくなんて、明日は雪かな?…いや、皮肉じゃないよ。体には普段から気を付けてるのに、珍しいなって…
はいはい、熱があるんだからゆっくり寝てて。いまさら、ボクに対して おもてなし の類は必要ないし
世の中には『絶対にキミじゃなきゃ出来ない仕事』なんて滅多にないんだから、そんな弱った体で無茶しちゃ駄目だよ。
…ねぇ、わかるでしょう? …具合の悪いキミが無理をすると、周りのみんなが心配するってこと……ボクだってそうさ。
だから、キミのことを大好きなひと達を、誰一人 悲しい気持ちにさせないで?………うん、…それじゃぁ、おやすみ」
( …キミが苦しいときに、キミの手が届く距離にボクは居たいんだ …キミはボクのことなんて 頼らないだろうけどね… )
「ね、約束してよ リディー。……キミは絶対、“ボクより先に死なない”って…
もしも、キミの日常から 突然 『ボク』が消えてしまっても、…キミは〝キミの家族を置いて どこへも行かない”って…
……ふふ、ごめん…冗談だよ。でも、忘れないでね…? …大切なひとに置いて行かれる方はいつでも、とても寂しいんだ。
それをわかって欲しかっただけだよ。……でも、ボクのために困ってくれた その少しの時間が、ほんとうに嬉しかった…」
(…今日、同朋がまた一人旅立った。昨日まではあんなにも元気で、うるさいとすら思っていたのに…呆気ない最期だった。
思い入れる程に仲が良かったわけじゃない、まともに話したこともないような…粗暴で勇敢で『紅玉』らしい戦士の青年。
『明日は我が身だろうか?』…今更ながら、そんなことを思った。『戦士』とは、常に最も死に近い場所へ立つ運命だ。
…もしかしたら、これがボクが彼に逢う最後の日に…今日のこの一言が、彼にかける最期の言葉になるかもしれない…
それでも、…不思議だね……何かの為に死ぬことが、そんなに辛くはないように思えるんだ。
国の為に命を落とせば、こんなボクでも誰かの『本物』になれるかもしれない…称えられる必要のない自己満足だけど
…少なくとも、戦場で同朋に討たれた彼の亡骸を看取るよりは ずっといい。……さみしい想いは、もうたくさんだから…)
+++
ボクという存在の全ては“紛い物”ではないだろうか?
それは、この力が目覚めてからずっと、心の奥で自問していることだった。
この想いも、この記憶も、この知識も、なにひとつとして自分のものではないような…そんな感覚。
いつだって、ボクに求められるものは ボク自身の力ではなく、ボクに認められる価値は ボク自身のものではなかった。
…でも、それは当然だ。
宝石だろうと人だろうと、『本物』は常に貴くて、『紛い物』には何の価値も無いのだから。
いつか全てを失うのなら、最初から何も掴まなければいい。
たとえこの手が何を掴んでも、『紛い物』の自分には、独りで底へ沈む未来しかあり得ないのだから。
…けれど、本当はいつだって、ボクは誰かの『本物』になりたかった。
傍にいるだけで価値があり、けして置いては行かれない……誰かにとっての『本物』に 一度でいいからなりたかった。
+++
夢を見ているのだろうかと、そう思った。
「僕が、シル...貴方を幸せにします。だから、だからどうか、僕の隣にいてください。」
ボクに出逢って、一緒にいられたことが幸せだと …彼は言った。
これからもずっと、ボクと一緒にいたいのだと …ボクのよく知る彼が言った。
ボクを守ると、幸せにすると、だから隣にいてくれと
……ボクのよく知るはずの彼が、ボクのまったく知らない顔をして そう言った。
十も歳が離れているのにとか、ボクのことなんて妹くらいにしか思っていないくせにとか
言いたいことは、山ほどあったはずなのに
「冗談はやめて欲しい」と、けしてボクに言わせない 真摯な眼差しが、そこにはあった。
もう何年になるのだろうか? …不意に、彼と出逢ってからの日々を想う。
幸せだったのはボクの方だと、一緒にいたいのはボクの方だと …心からそう伝えたいのに
そのすべてが嗚咽へと変わって、おかしいな……上手く言葉にすることができない。
この力に目覚めてから、誰かの前で涙を流したのは これが初めてだった。
『幸せ』になんてしてくれなくていい。
キミと一緒なら不幸になっても構わないと…そう思えることが、ボクの幸せだから。
『守る』だなんて言ってくれなくていい。
たとえ頼りにならなくても、辛い時にはいつだって、ボクがキミを守りたいのだから。
キミの全部をボクのものにしたくて、ずっと一緒にいたわけじゃない。
そんな贅沢を許される程の対価を、ボクは何も持っていないのだから。
ただ、傍にいてくれるだけでいい。キミが生きているだけでいい。…他にはなにも望まない。
内側で火が燻るようなこの気持ちは、なんだろう?
この気持ちは、けしてボクのものではないはずだった。…だからいままで蓋をして、頑なに見ないフリをした。
ボクのものではないのだから、思い違いをするんじゃないと…必至に言い聞かせてきたはずだった。
でも、それなら一体“これ”は…誰の心だと言うのだろう?
かつて 錯覚したそれのように、これもまた、ボク以外の誰かの心だと言うのだろうか?
これが自分のものだと、認めたくはなかった…認めてしまえば、全てが変わってしまうような気がしたから。
けれど、それが“他の誰かのもの”だなんて認めることは、もう…それ以上にできはしなかった。
顔も知らない誰かのものなんかじゃない
……彼と同じ時を過ごしてきたのは、彼とともに今までを歩んできたのは、間違いなく『ボク』なのだから。
他の誰かになんて、渡せるはずがない。…そう思った時には、既に彼へと縋りついていた。
耳元で囁く言葉は、彼がいままでボクにくれたどんな御菓子よりも甘くて
縋った体のその熱は、彼がいままでボクにくれた『優しさ』と同じ分だけ温かかった。
「 リディー…リディー…リディー…」
肩口で彼の名を呼ぶその声が、自然、糖蜜を含んだように甘くなる。
“それ”を自覚した恥ずかしさに 慌てて口を噤みながら、…ああ、これが恋しいという気持ちだろうか と、唐突に理解した。
ボクの両手にはなにもないけれど、
彼のその両腕は、世界中のどこよりも、ボクを肯定してくれる居場所になる。
…ねぇ、ここでなら 命なんて賭けなくても、ボクは『本物』になれるかな…?
父さまにも兄さまにも、けして言うことができなかった言葉を
今、この時…彼に対してならば、素直に言えるような気がした。
「おねがいリディー…ぼくをおいていかないで
はなれないようにだきしめて ねえ ずっと ぼくのそばにいて…」
永遠にずっと、だなんて言わないよ… ボクの命が尽きるまででいい
…『永遠』よりもずっと、現実的なその時間を、キミと一緒に生きていたい。
寂しい夜が終わりを告げるまで、ずっとずっと ボクはここに居たいんだ。
誰にも言えずに夢見ていた その心を、ありのまま全部ぶつけても…君はまだ笑っていてくれるかな?
抱え切れなくて壊れそうな心まで、あたりまえに分け合えていた 幼いあの頃のように…。
+++
『懐かしい夢』をみた…むかしの『記憶』じゃない、ボクの小さい頃の『夢』だ。
あったかい家の中には、おとうさんと おかあさんと 子どもたちがいて…みんな、なかよしで…いつもいっしょにいる…
家に帰ると『おかえり』を言ってくれる誰かがいて…おなじテーブルでごはんを食べながら…笑って 一日のできごとを話す
そんな風にささやかで、…でもけして叶うことのなかった、幼い頃の…ただひとつの『夢』。
けれど、ほんの少しだけ むかしとは違うことがあった。
夢の中のボクは、もう両親に甘えているちいさな子どものひとりではなくて
その家の中には、母さまはもちろん…父さまも兄さまも もういない。
おとうさんのなまえは リディニーク
おかあさんのなまえは シルフレア
おかあさん似のおとこのこと、おとうさん似のおんなのこが
なかよくごはんをたべながら、しらない国のおはなしを せがむのだ。
+++
目が覚めると、ボクの目の前には よく見知った彼の寝顔があった。
どうしてこんなことになっているんだろう…?
寝惚けた頭を懸命に回しながら、今がどういう状況だったかを考えるにつれ、思い出したように鈍い頭痛が訪れる。
……そういえば、昨夜はずっと彼の腕の中で泣いていたんだった。
困らせるつもりなどなかったのに、一度堰を切った涙は止まることを知らなくて、結局 瞼が腫れるほど泣いてしまった。
可哀想に…服を掴んだままのボクが泣きつかれて眠ってしまったものだから、彼は逃げることもできなかったのだろう…。
けれど、床についてもなお、そんなボクのことを引き剥がさずにおいたのは
『ずっとそばにいて』という、昨夜のボクの言葉に対しての…彼なりの『誠意』なのかもしれない。
「ふふ、あったかいなー………あ、これは添い寝じゃないよ?…キミが約束を破らないように見張ってるだけだからね」
なんて、寝ている彼に意味も無く言いわけしながら、まどろむように幸せを噛みしめた。
久しぶりに見た 懐かしい夢を想いながら、…ふと 他の誰かのものではない、ボク自身の『記憶』について考える。
悲しいことも、苦しいことも、たくさんあったけれど。
そんな日常の端々には、いつからか 彼の存在が溢れていた。
親族が次々に自分の家庭を持っていく中で、彼だけがその後もかわらず傍らにいてくれた。
…そういえば、あれはまだボクが成人する前だっただろうか?
良縁の見合いを尽く蹴っていた彼に「はやく身を固めなくていいのか」とせっついたことがあった気がする。
もしもあの時、本当に彼が 他の誰かのところへ行ってしまっていたら…自分は今頃どうなっていただろうか?
考えても仕方がないことなのに、どうしてか…いまさら胸が騒ぐような感覚を覚える……これは正直、嫉妬なのかな…。
ボクにとってのこの恋は、昨夜音も無く始まった、生まれたばかりのものだと……そう思っていたけれど
…本当はもう、ずっと前から始まっていたのかもしれない。
見ないフリをしていたこの心を、ボクのものだと…彼が気付かせてくれた。
だから きっとこの先は、他の誰でもない、ボク自身の思い出が積み重なってゆくのだ。
いつか、ボクの…ボクたちの子孫が、この記憶を受け継ぐ時がくるのだろうか?
気付いたばかりの恋心を抱いて、彼の寝顔を愛しいなぁと見つめる今を……そう考えると照れくさいけれど…
「あのね、今朝改めて気づいたんだけど……ボクの『記憶』も心の中も、
いつのまにか、キミとの思い出ばかりだったよ?……自分でおもっていたよりも、ずっとね。
………好きだよ、リディー…もうとっくの昔から……ボクのぜんぶは、キミでいっぱいだったみたい…」
来期も素敵なご縁がありますように… どうぞ、宜しくお願いします!(´v`*)
2014-09-02 15:24:14 +0000