【PFNW】命を託す【原始の高原】

ワタリガラス

炎像通信機での交信を終えたイルオミは、一人、なにがしか物思いにふけっているようだった。その表情には、苦みともどかしさの色と―――大切な者を思う時の憂いの色があった。
「………また例の、ドーザーの坊主か?イルオミ」
背後からの声に、イルオミははっと振り返る。そこには、人を喰ったような飄々とした笑みを浮かべたカルハダルの姿があった。
 イルオミは、ムッと顔をしかめる。
「…『坊主』じゃない。あいつは紛れもない、戦士だ。――――本当の意味で、な。」
カルハダルは、それを聞いて目を細めた。
「一度、会ってみたいもんだな。…あんたがそこまで惚れこんだ男に。」
「ああ。…そうだな。」
イルオミは、ふっと表情を和らげる。
「この旅が一段落したら―――紹介するさ。だが――――――」
言葉を切り、口をつぐんだイルオミの表情には、悲しみの色がある。
「…………ユシェンか」
カルハダルは、低い声で呟いた。
「聞いたぜ。機械の遺跡に寄って、氷雪の大地に向かう…ってな。」
「…ああ。」
イルオミの瞳には、強い意志の光がある。

「あいつが死んだ戦野を、見届けてやりたい」

ざあっ、と風が渡る。
真っ直ぐに前を向くイルオミの明るい炎のような瞳をカルハダルはしばらく見つめていたが、やがてふっと少しだけ寂しげな笑みを浮かべた。
「…そうか。」
「あんたは、どうする。一緒に行かないか?」
イルオミの言葉に、カルハダルは肩をすくめて見せる。
「俺は、そういうのはガラじゃねえよ。」
「じゃあ………」
「ああ。このまま、原始の高原に向かう。」
カルハダルの瞳にもまた、決意の色がある。
「どうしても……確かめておきたいことがあるんでな。」
「そうか。……わかった。じゃあ、しばしの別れ、だな。」
「ああ。」

カルハダルは、懐から何かを取り出し、イルオミに差し出した。

「…これは?」
イルオミは怪訝な顔でカルハダルの手に握られたものを見る。
それは、深い紫紺の色を湛えた、手にすっぽりと収まるほどの大きさの、石だった。
「キランに作ってもらった。…俺の生命力の、石だ。」
イルオミは、はっと息を飲む。カルハダルは、さらに言葉を続ける。
「詳しい効果はまだよくわからんが…少なくとも、持っていればどうやら兵団の兄弟たちの傷の治りが多少早くなるようだ。それ以上の効果はわからんな。割れば、真の力を発揮するだろうが。」
「だが………」
「ああ。……キランによると…生きている生物から作った石は、まじないにも使えるし、割れた時や燃えた時にはなんらかの形で本人に影響が出るんだそうだ。」
イルオミは顔をしかめる。
「そんなもん、どうする気だ?」
カルハダルは、ぐっとイルオミの手を取り、石を握らせる。

「お前に、持っていて欲しい」

イルオミは大きく目を見開いた。
「あんたに、俺の生命を託す」
口を開きかけたイルオミを制し、カルハダルはさらに言う。
「…もちろん、お前自身は必要としないかもしれない。だが――――――もし、兵団の若い連中が命の危険に晒されるようなら」
カルハダルは、ぐっと手に力を込める。
「―――迷わず、使ってくれ。頼む。」
「カルハダル、あんた…………」
カルハダルは、にやっと笑った。
「…別に死ぬ気はねえよ。…ただな。ユシェンの時みたいなのは………」
その視線が、彼方へと向けられる。そのはるか先には、若き術師が命を落とした、機械の遺跡があるはずだった。
「何もできなかった、と後悔するのは、もう…嫌なんだ。」
イルオミは、託された石を見つめ、しばし考えていたが、やがてぎゅっとそれを握りしめた。
「……わかった。預かっておく。」
「おう。」

そして二人の男は、がっしりと手を組む。

「彼方の光る野で会おう、兄弟」
「ああ。必ず。」

どこまでも蒼く、高い空が、二人の上に広がっていた。


原始の高原にログイン…のはずなのですがすみません、まだ出発前の情景です…
次作ではログインを…っ!!^^;
こちらillust/34923263(是光さま「大事な欠片」)でキランさんに作っていただいた「カルハダルの生命石」をイルオミ様に託しました。所持していると、傷の治りを若干促進する働きがあります。ただし氷狼兵団のメンバー限定です。
石を割った時にはなんらかのより大きな効果が発揮できるようです。効果は不明としていますが、ぶっちゃけもし使う機会があれば、その時に自由に(都合よく)決めていただければと思います^^あつかましくてすみません……

なお、冒頭の部分に関しては、こちらillust/34979296(三角比さま「氷雪の大地へ」)の会話の前後あたりかなあと考えています。また、イルオミさまの台詞についてはこちらillust/34963839(八房さま「ドーザー・クラウン」)の中でのイルオミさまの言葉も参考にさせていただいております。
全体的な時系列としては、同作品でイルオミ様と氷雪の大地探索組が機械の遺跡および氷雪の大地に向けて旅立つ直前あたりを想定しておりますが、もしも不都合ありましたら絶賛パラレルでどうかよろしくお願いいたします。

お借りしました!!

イルオミ様➡illust/34180850

非公式ロゴ(是光さん作)illust/34119366
いつもありがとうございます。

カルハダルillust/34137241

氷狼兵団:illust/34119360

企画元様:「Pixiv Fantasia New World」illust/33956297

なにか問題がございましたらお手数ですがご指摘ください!

#Amudamina#pixiv Fantasia: New World#氷狼兵団#原始の高原【黄】

2013-04-13 14:33:07 +0000