桜がまだ咲かない春の日、婆ちゃんが亡くなった。
それを聞いたのは俺が5年前不思議な女の子と会った日から経った時期である。
婆ちゃんの家には親族やら友達がたくさん来ていた。
皆婆ちゃんが眠っている棺桶の前に花を添えたり手を合わせて泣いたりしている。
爺ちゃんが先立って広く寂しくなった家が婆ちゃんが亡くなってから
たくさん来るなんて皮肉な事だな、と俺は縁側の柱にもたれかかって眺めていた。
ふと、5年前に会った少女の事を思い出した。
彼女は神棚に備えてあった饅頭を取ろうとした俺を怒り、俺は夢かと思い目を擦ってもう一回見た時には何故か姿はなかった。
その事を婆ちゃんに話すと最近一人の時に遊びにくる少女の事じゃないか、と言う。
彼女は昼過ぎに婆ちゃんが一人でいるとひょいと遊びに来るらしい。
俺の父さん母さんは仕事で忙しくて長期休暇もあまり来れないし、
俺も婆ちゃん家に来れて夏休みとか、そこらへんだけだったし寂しかっただろうから
彼女が遊びに来てくれる事がとても嬉しかったのだろう。
何より彼女の事を話す時婆ちゃんは満面の笑みで語っていた、それだけでその事を示している。
彼女はこの事を知っているのだろうか?
この事を知らずに彼女が遊びに来たら悲しい思いをするのではないか、と俺は心配した。
しかし名前もどこに住んでいるのかも分からないし伝えようもない。どうしたらいいものか……。
その時俺の後ろ、庭の方から草を踏む音が聞こえた。
俺はそっと廊下へと足を向け庭の方を見ると一人の着物を着た女性が申し訳なさそうに立っていた。
……かなり大人っぽくなっているが5年前に見たあの少女だと、核心を持てた。
証拠に頭の飾りは5年前と変わらないからだ。
「えっと……」
俺が何て言おうかと口ごもっていると彼女から口を開いた。
「マサヨ、遠くへ行ったのね」
マサヨとは俺の婆ちゃんの名前。やはりこの子が婆ちゃんの言ってた女の子なのだろう。
「もう、会えないのかあ……残念だなぁもっとお話したかった
マサヨのお話、いつも面白くて一緒に話せる時間が楽しみだったの」
彼女は懐かしそうに、困ったように静かに笑う。そんな彼女を見て俺はふと婆ちゃんが亡くなる前に頼まれた遺言を思い出した。
「ちょっと待ってて」
俺は足早に婆ちゃんの部屋へ急ぎ、鏡台に置かれていた布に包まれたある物を取って彼女のいる庭へと戻った。
「これ……婆ちゃんが、君にって」
「?」
彼女はそれを受け取り丁寧に布をめくる。そこに包まれてたのは綺麗な色をした桜の髪飾りだった。
「婆ちゃんが君に渡してほしいって。話し相手のお礼だってさ」
彼女は桜の髪飾りをじっと見つめて静かに涙を零した。
「……ありがとう」
彼女がそう呟くと弱い風が俺の後ろから吹いてきた。それとともに花弁がひとつ俺の視界に映る。
桜の花びらだった。まだ、つぼみだったはずの庭の桜がいつの間にか満開になっていたのだ。
俺は驚き唖然としてハッと後ろを振り返るともう彼女の姿はなかった。
代わりに彼女の居た場所に近い縁側の場所にいつの間にか饅頭が2つ置いてあった。
――桜の花を傍に添えて。
とうとうマートウが最高位になりました。
今では成人女性程の大きさになり言葉も高位の時よりは大人しめな口調に。
そして最高位になったということで桜の髪飾りをプレゼントしました。
低位【illust/19227984】→中位【illust/19681732】→どうしてこうなった高位【illust/21648180】→最高位←今ココ!
企画元【illust/18916954】
素材お借りしました!【illust/17244940】【illust/11678182】【illust/15234382】【illust/22021215】
なにかありましたら私まで
2012-01-04 16:49:28 +0000