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ざっざっざっ、と山と積まれた枯れ葉が掻き分けられる音がします。火バサミを使っておそるおそる引きずり出されたのは、銀のアルミホイルに包まれた大きなサツマイモの様でありました。
今日はお花屋さんの定休日。折角のお休みなので、お店の正面に生えている街路樹の落ち葉や、裏手のお花畑に散っている枯れ葉をまとめて片付けてしまった後の事でした。
「久々に焼いてみたけど、どうかな……?」
「……」
ごくり、と隣で見守る小さなお手伝いさんは、紅葉のような色合いの手編みらしい帽子とセーターを身に纏っておりました。肌寒くなってきたのもあって、お世話になっている手芸屋さんお手製のものだそうです。
そろそろと銀紙が剥がされて出てきた芋は、未だにその中身がどうなっているのかをだんまりしたままでありました。意を決して、ライナさんはまだ熱のある焼き芋を二つに折ってしまいます。
ぽっくり、と湯気が立ち上るその断面は。
「……!」
実に実に、見事な黄金色に輝いていたのです。
「良かった。焦げてもないし、生焼けでもなさそうですね!」
事の発端は、お花屋さんの実家から届いた沢山のお野菜です。秋は収穫の時期なのもあって、それはそれは沢山の種類が送られてきた中に、ひときわ目立つサツマイモが小山となっていたことから、今回の落ち葉清掃の時に焼き芋にしてみよう、という事になったのでした。
味見役はこの日、お手伝いに来ていたスキマさんです。では名誉の一口目を頂きましょう、と小さなティースプーンで差し出された焼き芋の断面へ、えいやっと匙を掬い入れました。
ねっとりとした手ごたえと共に、綺麗な狐色が一掬い。その端っこをつまんで、ぱくりもぐもぐして見せた小さなお手伝いさんは。
「~~っ!」
「ばっちり、ですか?」
にっこり、満面の笑みを浮かべて最高の焼き加減を作り上げたお花屋さんを見上げてこくこくと頷きました。では自分も、と残り半分の方をライナさんも口に入れます。
ほくほくとした優しい甘さと、舌の上でほぐされていく柔らかい触感は何とも言えません。これは我ながらとても良いものが出来たとご満悦の気分です。
「ふふ、休憩したら残りの落ち葉も一気に集めて、また焼いちゃいましょうか?」
「♪」
「でも、まだまだお芋は沢山あるんですよね……。そうだ、後でおすそ分けに行きませんか?」
焼いたお芋でも、焼く前のお芋でも、きっと喜んでもらえるかもしれない。スイートポテト、大学芋、茶巾絞り……譲る相手によって、きっと素敵な料理に変身することだってあるかもしれません。
でも今は、焼き上がったばかりの秋の味覚をゆっくり堪能しましょうか、と。
少しだけ肌寒い秋風すらも美味しい甘さのスパイスになりながら、リデアの街は今日も緩やかな時間が流れているのでありました。
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秋なのでライナさんと一緒に焼き芋をしたスキマさんの小話です。
ゆったり流れて行く日常風景、アフターでものんびりよろしくお願いします。
・お借りしました
火加減はばっちり 佐井戸ライナさん【illust/106792058】
秋のもこもこ仕様 スキマさん【illust/106744204】
※アフターはコインのカウント外です
・問題等ございましたらご連絡ください
2024-10-26 04:11:24 +0000