七華とキッド 子供と大人

リンネ

キッド「今宵はわたくしのショーにお付き合いいただき、ありがとうございました。それでは、貴女からお預かりした魔法のステッキをお返し致します」
そう言って、ドミかるステッキを目の前の彼女に渡そうとした。
しかし、彼女はステッキをじっと見つめ、受け取ろうとしない。
・・・?
おかしい。先ほどとは雰囲気がまるで違う。

~今から数十分前~
オレは盗んだ宝石を月にかざし、目当ての宝石ではないと分かるとそこに現れた名探偵に宝石を放り投げ、帰る途中で変装を解こうとしようとした瞬間に彼女と出会った。
『はわわ~!』
川に落ちそうになった女の子が目に映った瞬間、反射的にエンジン付きハンググライダーを広げ、正に川に落ちる間一髪の所で、彼女をお姫様抱っこする事に成功した。
ここにいるとまだ現場をうろついているであろう中森警部や小さな名探偵に見つかると思い、彼女を抱えたままそのまま飛び去り、誰もいない建物の屋上に到着した。
初めて空を飛んだであろう彼女は、それはもう『はわわ~!お空を飛んでる~!?』という独特の口調で腕の中で興奮し、ビルの屋上に降ろした後、『はわ~ すごかった~』やら、オレの姿を見ながら『まるでドミ子に出てくる、カレーなとうぞくびしょーじょかいとーみたい~』等、色々と盛り上がっていた。

ドミ子・・・確か10年位前、青子もハマっていた「マジカルドミ子」ってアニメのキャラだったな。
幼い日のあの頃、青子も『まじかるドミかる~』と言って、ステッキを振り回していたっけ。
確か、その時親父がどこからともなくマントを青子にかけて、一瞬にして青子の服装をドミ子の服装に変えて青子も大喜びし、『かいとのお父さんって、ドミ子の魔法みたい!』とはしゃぐ青子の笑顔と、青子の言葉に苦笑いしていた親父の笑顔を思い出す。

・・・もう戻る事のできない、あの日の思い出。

それにしても・・・
『マジカルドミかる~!びしょーじょかいとーにな~れ!』と言いながら、目の前の女の子・・・さっき興奮しながら『わたし、きりさとななか、17さい』と名乗っていた彼女は、いつの間にかステッキをカバンから取り出して、振り回していた。
目の前のオレと同い年の女の子は、子供っぽい幼馴染の青子よりも、もっと幼く見える。
それはまるで、”本物の小さな子ども”のようで・・・
”キッド”と名乗るオレよりも、本当の意味での”子ども”に見えた。

『お嬢さん、そのステッキをしばしわたくしに貸していただけませんか?』
『はやや?』と彼女は手を止めて首をかしげたが、『いいよ~』と笑顔でステッキを差し出した。
『ありがとうございます。今宵は貴女のために、一夜限りのショーを開催いたします。それでは、最後までとくとお楽しみください。』
彼女に向って一礼をし、オレはステッキを振り回しながらマジックを披露した。

ステッキから、色とりどりの光が浮かび、消えていく。
シャボン玉が宙を舞い、月の光に反射して輝く。
昔、青子と一緒に見せられた、マジカルドミ子のアニメに出てきたワンシーンを出来るだけ再現してみた。
目の前の彼女は、目を輝かせながらオレのショーを見つめていた。

やがて手持ちのマジックアイテムが無くなった頃合いを見計らって、オレは一礼をする。
キッド「今宵はわたくしのショーにお付き合いいただき、ありがとうございました。それでは、貴女からお預かりした魔法のステッキをお返し致します」
そして冒頭の状態になった。

彼女は、じっとオレの手元を見つめたまま、髪をかき分ける仕草をした。
左側の髪の毛に結んでいた、髪留めが外れる。
「あなた、何者なの?」
彼女から発せられた落ち着いた声と言葉は、今まではしゃいでいた彼女とはまるで別人の様で・・・
その瞳は、先ほどキラキラ輝きを放っていた丸い瞳から、目を細めてやや鋭い瞳に変化し、オレは若干緊張が走った。
「これはこれは、ご挨拶が遅れました。私は怪盗キッドと申します。以後、以後お見知りおきを」
オレは、内心を悟られまいとポーカーフェイスを貼り付けて、彼女の前で恭しくお辞儀をする。
「怪盗キッド・・・子供・・・?」
彼女は、オレを見つめながらつぶやく。
「私には・・・あなたが大人に見えるわ」

「ほう・・・どうしてそうお思いですか?」
オレは、ポーカーフェイスのまま彼女に尋ねる。
「さっきの華やかな手品といい、ましてはハンググライダーで空を飛んだりなんて・・・子供はもとより大人でもよっぽどの訓練を受けない限り、簡単に出来ない芸当だわ・・・でも」
一呼吸おいて、彼女は続ける。

「あなたの心は、大人と子供が入り混じっているのね」
そうつぶやく彼女は、幼馴染の青子ではなく、黒髪ストレートヘアの、自身を”魔女”と名乗る同級生の瞳によく似ていた。

「・・・いいえ、私は子供ですよ。その名の通り、”キッド”ですからね。 ・・それに、失礼ながら大人と子供が入り混じっているのは、貴女の方では無いでしょうか?」
オレの言葉に、彼女はハッとした表情をする。
「正確には、幼いレディと、背伸びをしている大人になりかけのレディ・・・二つの心があなたの中に共存しているようですね」

「・・・その通りよ」
少しの沈黙の後、彼女はうつむきながら、そう呟いた。

カンカン・・・
階段を駆け上がる音がする。
軽い音から察するに、名探偵が駆けつけてきたのであろう。
「どうやら、幕引きのお時間の様です」
オレの持っていたドミかるステッキが突如発光し、彼女はきょとんとした顔つきになる。
「少々名残惜しいですが、ここでお別れです。またご縁がありましたら、再び月下の元でお会いしましょう」
彼女の手にステッキが握られ、オレはハンググライダーで飛び去った。
何か言いかけていた彼女の元に、名探偵の姿が現れたのはほぼ同時だった。

「この間は、助けてくれてありがとう」
学校の帰り道、江古田高校とは違う制服の、数日前に見た制服の女の子に声をかけられたのは、月下の出逢いから数日後の出来事だった。

END

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2024-09-01 08:55:18 +0000