砂嵐の中を移動中、見え辛い砂塵の中から『とびかかる』をくらいました。
『つばめがえし』で咄嗟に攻撃したため下手人は沈めましたが、壁への激突と技のダメージが割とこたえている模様。
しばらく壁際で身を潜め、痛みが引くのを待っています。
※追記
肋骨折れました。激突時は満遍なく痛かったので現時点では気づいていません。
ちょっと休んだらまた働きに出ます。【illust/115778042】
* * *
引き続き、混乱に巻き込まれたイザヴァン住民たちの避難誘導を続ける。砂煙が落ちる建物から住人や奴隷を急かし、置き去られた奴隷は枷を解いてやり、ひとまずは崩れそうにない頑丈な建物へ。
同族たちの扱いには大分思うところはあるが、今回ばかりに至っては人間たちだって被害者だ。避難という形でも、今までそうやってきた彼らの生活を壊してしまったことに申し訳なさすら感じるほどだ。それでも「命あっての物種」が偵察兵の結論だった。命と領土を争う敵は、彼らではない。
辿り着いた避難所の内部をほんの少し見渡してみる。そこに集った人間たちの間で、できる限りの情報交換が交わされているのが聞こえてくる。王城に他所の軍が入っただの、拾ったタマゴが爆発しただの、怪物が建物を壊しまわっている、など。
――怪物。会話を聞く限り、樹海に出たあの植物群とはまた別物のようだ。赤と白の2種類いるらしく、店を立て直した暁には紅白饅頭代わりに店先へ繋いでやる、と意気込む商人がいた。元気なのはいいがやめといた方がいいと思う。
周囲を警戒しつつ避難所の外へ出る。少し進むと、轟々と唸る砂嵐の奥からわずかに羽音と……何だろう、テンポの速い音が聞こえてくる。
虫タイプだろうか? 草タイプの己とは相性の悪い相手だ、できるかぎり遭遇は避けたい。極力気配を消しながら砂嵐の中を走った。
少し先。この近辺には、避難させるべき住民たちは見つけられなかった。残骸が多い、できれば軒並み逃げ延びたものと思いたい。本来であれば風を遮る壁だったものにぶつかって、砂塵が大きく渦を巻いている。
羽音は聞こえない。嵐の鳴る音と、その向こうからココココ……というあの硬い音がわずかだけ聞こえた。
砂に遮られて姿は見えない。聞こえ辛いが距離はある。音がした方向を警戒しつつ、極力足音を消して進行方向へと歩を進めた。硬い音は近づいたと思えば遠ざかり、静かになって、また遠くで鳴る。音の聞こえてくる場所が妙にコロコロ変わるが――。
「コ」
つい先ほどまで遠かったはずの音がひとつ、一足一刀の間合いで聞こえた。
我が身のすぐ傍へと『つばめがえし』を振り抜いたのと、目を向けた先の視界に白が飛び込んできたのはほぼ同時。
硬質の手応え。衝撃。痛覚。風圧。背中に衝撃。硬く重い何かが背後で派手に砕ける音。
「うぐッ……!」
息が詰まる。壁に叩きつけられたと理解した。派手に揺れる視界の真ん中で、砂風をぶち抜いてきた白い怪物は腕を振りぬいた格好のまま崩れ落ちる。飛行タイプの技がよく効いてくれたらしい。やはり虫タイプなのだろう。
重力のままにずり落ちて、立ち上がろうとするものの身体がうまく動かない。背中へのダメージが思った以上に響いている。『とびかかる』をくらった左あばらも、傷そのものは浅く済んだが、範囲と相性がよろしくなかった。痛い。
種族上、速度にはそこそこ自負があったはずなのにこれだ。あれは馬鹿みたいな瞬発力を有したたった1体だったのだ。
あんなのに囲まれたら今度こそ“終わる”んじゃないの。帰りたくなってきたが、兵士である以上勝手に戦場から退くわけにはいかない。とはいえ引っ込めそうな補給所は周囲に見当たらなかった。……痛みさえ引けば、まだ動ける。幸いでも何でもないが、身体のヒビをこさえた時に比べればまだマシな方だ。
嵐をしのげそうな壁の残骸が目に入った。しばらくはあそこで痛覚が落ち着くのを待つとしよう。壁際に身を潜め、目を開けたまま静かに呼吸を整える。
(まだ居られる。帰れる……帰らなきゃ。約束したもんね)
けど帰ったらお説教だろうなあこれ、と少々頭によぎったが、今は休息に集中するとしよう。
2024-04-21 17:46:51 +0000