■魔女と永遠、恋と執着【illust/97238892】
おれの心臓を、ずっとそばに置いて。
■お借りしました
深来ともりさん【illust/99108590】
ともりさんとエレオノーラさんと出会ってから1年が経ちました。
素敵なご縁に感謝です!これからもよろしくお願いします!
→以下、アサギ【illust/98669201】のキャプションの続きです。
どうして。ともりの押し殺したような声が、おれの言葉を遮った。
――嫌いな人が自分のことを好きなの、面白かった?
――嫌いな人が苦しんでるの見てるのが楽しかった…?
息が止まった。そんなはずがない、嫌いならこんなことはしなかった。最初から出自を明かして、心臓を戻すようにお願いして、それから……。
そこまで考えて、致命的な思い違いに気がついた。
おれがともりに、何も知らずにいてほしいと願ったこと。何も知らずに好きになってほしかったこと。
それがともりのためだなんて、なんて勝手な言い分だろう。
だってともりは、最初から、贖罪の機会を探していた。その相手はずっと目の前にいた、それなのに。
おれは彼女を裏切った。
「……騙していたのは事実だから、ごめん。」
それ以上はともりの前に居られなかった。
通い慣れた道を一人で辿る。
もう戻ってはこない。ともりの信頼も、ともりと過ごした時間もすべて。自分の手で壊したのだ。
それから何日も自宅でぼんやりと過ごした。バイトも行かず、リビングのソファでずっと天井を眺めていても、体は痛くならないしお腹も空かない。こういう時、確かに真っ当な人間ではないのだと思う。
どれくらい時間が経ったかわからない。ずっと黙って放置していたスオウがついに反応を示し、突然ソファから蹴り落とされた。それでも痛くはない。
大して関心はないだろうけど、おれが悩んでいることくらいは気づいてくれる。
どうせ魔女のことだろうと言われたので、これまでのことを話すことにした。スオウがともりに正体をばらしたら困ると思って、ずっと黙っていたこと全て。口にすればするほど、おれが騙し続けた時間の重さを思い知る。
スオウは案外馬鹿にせずに話を聞いてくれて、結局のところどうなんだと聞かれた。何が? おれが聞くと、今度こそ不機嫌を隠さずに繰り返す。
魔女の前世と今、どっちが大事だと。
そんなもの、おれの答えはもう決まっている。
「……なにこれ」
数日ぶりに会ったともりは憔悴していて、長い前髪に隠れて引き結んだ口元しか見えない。
殺されてもいいとおれに告げた。殺しても罪に問われないように、誓約書を書いたのだと。書類を渡そうとする手は痩せ細っていて、手首には不自然な傷跡がある。
死のうとしたのだと直感する。おれに心臓を返すために。
そして今、おれに殺されようとしている。
「……ふざけんな!」
ともりが弾かれたように顔を上げる。怯えた顔。
こんなふうに大声出されるの、嫌いだろうなってわかるのに。
びっくりするくらい悲しくて、悔しくて、怒りが湧いてきて。止まらなくなった。
「おれがこんなことして喜ぶと思った? きみが死ねばいいって、そんなやつだと思った? そんなの思ったこと一度もない!」
不意にあの子の影がよぎった。この子と全く同じ顔をして、おれの心臓を持ち去った。何も言わずに。
「絶対許さない。おれを置いてまた死ぬなんて許さない」
ともりの見開いた目が、絶望に染まるのを見た。ずっと許されたいと願うともりに、最も残酷な言葉を吐いた。それでも。
「きみはあの子じゃない。あの子に似てるだけで、あの子じゃない。
生まれ変わりだと思って近づいたけど、それでも、きみにあの子を見てなんかいない」
最初はあの子の生き写しだと思った。あの子と同じ瞳の色を見てみたいと思った。きみの瞳が見えると、あの子の輪郭が重なった。
だけどきみ自身を知るたびに、魔女の生まれ変わりではなく、きみはきみなんだと思った。当たり前のことなのに、関わるまではわからなかった。その不器用な在り方を、おれたちの因果に巻き込まれた彼女を、守りたいと思った。
魔女の前世と今、どっちが大事だとスオウは言った。
おれはもう、とっくにともりしか見ていないよ。
「おれが好きなのは、ずっとともり。ともりだけ。
だから死んだら、許さない。一生。」
2023-06-17 15:01:11 +0000