豊穣の祭典の最中、数々の露店が並び、溢れ返る人波で賑わう大通り。
人込みに少し疲れたクレスとプロテアは、その雑踏から少し離れた場所で休憩していた。
河川の向こう岸から響いてくる人々の歓喜の喧噪が、この場の静寂をより引き立てている。
再会以来、任務等の都合でゆっくりとした対話の機会が無かった二人は、久しぶりの雑談に花を咲かせていた。
クレス「プロテアは、何で俺を気にかけてくれるの?」
そんな折、前々からの疑問をクレスが投げかけたのが、この話の始まりだった。
プロテア「『何で』とは?」
クレス「それは、…プロテアにそこまでしてもらう理由が、分からないから…」
プロテア「信用が出来ない、ですか?」
クレス「いや、そういう訳では…」
プロテア「冗談です。」
困った様子のクレスを見て、プロテアは静かに笑う。
プロテア「私とハクさんは短いとも言えない付き合いですが、私達はお互いの事をあまり知りませんよね。
…まぁ、余計な詮索はしない事が貧民街の常識でしたから、それも仕方の無い事だったのでしょうが」
クレス「……」
プロテア「それでも、そんな貴方が一歩を踏み出して来てくれたのは、好ましい変化なのかも知れません。」
少しの間、二人の間に沈黙が流れる。
プロテアはクレスの前を歩き、その表情を見せない。
プロテア「…私には昔、一人の友達がいました。」
クレス「…?」
そんな沈黙を破り、徐にプロテアは語り始めた。
プロテア「私達は同じ目的の為に作られて、同じ場所で生まれて、同じ環境で育ちました。」
プロテアの過去、プロテアの友人の存在。それなりに長い付き合いのクレスでも聞いた事の無い話だった。
プロテア「けれど、個性という言葉は多様性の前提の基にあるものです。
同じ流れの川に違う種類の魚が生存するのと同様に、同じ境遇で生まれ育っていても、彼女と私は違ってました。」
プロテア「優しくて一途、穏やかな表情の裏でそれと相反する感情にいつも怯えている。
まるでどこかの誰かみたいです…ね、ハクさん。」
プロテアは振り向き二人は顔を合わせる。見透かしたかのような、挑発的とも取れる言動にクレスは表情に仄暗い影を落としていた。
クレス「…俺とその友達が似てるから、プロテアは俺を手助けしてくれてる…って事?」
プロテア「ええ、そうかも知れませんね。」
ここに来ての曖昧な返答。
彼女の言う言葉が真実の全てでは無いのではないかとクレスは考えた。
クレス「その友達は、今はどうしてるの?」
プロテア「……」
クレスの問い掛けに、プロテアは答えない。
再び流れる沈黙。何故かと、一層不信に思ったクレスだったが、その意味を察してハッとした。
沈黙こそが、彼女なりの返答だったからだ。
クレス「…ごめん、踏み込んだ質問だったかな…」
プロテア「いいえ、すみません。気を使わせて」
彼女は変わらず、淡々とした表情と声色で言う。
だがそれは、その裏側にある感情をひた隠す為のもののようにクレスは感じた。
プロテア「私にとって彼女は大切な…家族のような存在でした。
でも私達は、本当の家族になる事は出来なかった。」
クレス「……」
プロテア「正直な事を言うと、私はハクさんがロアルモンド家の家督を継ぐかどうかについてはあまり興味がありません。
ただ、私の大切な友達に似ている貴方に、友達と同じ道を辿って欲しくない。一人の友人として、貴方と貴方の家族との幸せを願いたいと思う。それだけの話です。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お借りした方
クレスケンスさん(illust/102168683)
うちの子
プロテア(illust/101970949)
2023-01-03 17:56:58 +0000