精霊というものは、かつては当たり前に存在しているものだった。
人間が火をつける力を持たなければ精霊が変わりに火をつけ、水が汚れていればその水を浄化してくれた。
精霊と人間は共に生き、協力しあいお互いの存在を肯定しあっていた。
しかし人間が様々な知恵を得るごとに精霊たちは姿を消し、やがて独自の都市や国を作ってそこに隠れるようになっていった。
それは人間たちの傲慢のせいとも、精霊たちが自分たちの存在を不要と判断したからとも言われているがその理由は定かではない。
精霊たちは人間たちにとってはある種「神」にも近い存在だった。
木々を茂らせ、花を咲かせ、水を溢れさせ、炎を燃やす。
人間にはない元素と等しくある彼らをある宗教家は神と呼び、信仰した。
特に花を咲かせ豊穣をもたらす植物の精霊を、ある宗派は地母神と呼び崇めた。
彼女たちの花を咲かせる力は枯れた大地にも草を生やし花を咲かせ作物を実らせる。
それはその地に生きる人間にとっては、命を与えられるのと同じことだった。
だがやがて人間たちにとって森や畑は当たり前のものになり、植物それぞれにも精霊が居る事は段々と忘れ去られ、やがて地母神信仰もまた消滅してしまったという。
「その、地母神信仰の源流は精霊ということですか?」
「……という、説もある。アラディア院の図書庫で読んだ本にあっただけだが」
「興味深い……つまり今ル・レーブは花の精霊を呼び戻している?」
「奴はその一族だったはずだ。やろうとすれば容易かもしれん」
後から合流してきたバルドの言葉に、シルシウムの兄妹は周囲に魔法陣を展開させている背中を見守る。
杖から迸り大地に吸い込まれていく魔法陣の動きは見覚えのある魔術の動きとはまるで違って、アレゥスは興味深く儀式を見守った。
言われてみれば、精霊という種族をアレゥスは実際には沢山みた事はない。
シルシウム家として馴染みのあるエレメンタルたちとバルドの言う「自然精霊」は違うものであるというのは分かっている。
だからこそ、興味深い。
「大地に精霊を呼び戻すのは、土に魔素が含まれているのとは違うんでしょうか」
地面に吸い込まれていく魔法陣を見ながら、エリスミリアが不思議そうに言う。
確かに、魔法陣が地面に吸い込まれていくのは土に魔力を込めているのと似ているようにも思えた。
が、杖を地面から離したル・レーブはくるりと振り返ると、
「精霊は魔素を好むけどねぇ」
「じゃあブラント家は精霊を多く呼び込めるのか?」
「あそこはダメだねぇ……鉄の匂いが強すぎる。精霊や妖精は鉄を嫌うんだ」
「それじゃあ……装甲騎竜も」
「いや装甲騎竜は生だから」
「生か……」
「生ですか……」
「いや生と言うんじゃない」
装甲騎竜は鉄ではなく生。
また無駄な知識が増えたと一行は思った。
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最後がちょっと不穏な精霊とかそういうのの話を描きたいなーと思ってたら王都が燃えていました。
なので多分なんか、アトラの危機の後の話だと思います。そうかー王都燃えたかー。
そうか……(イスリアド、ふぁい!おー!)
My・・・
ル・レーブ 【illust/102235711】
レシュイール【illust/102157247】※名前だけ
Thanks・・・(敬称略)
シルシウム兄妹【illust/102186187】
バルド 【illust/102333765】
ブラント家 【illust/102162779】
装甲騎竜 【illust/49697309】
pixivファンタジア Scepter of Zeraldia【illust/101965643】
2022-12-13 19:49:37 +0000