最初、図書館に連日通い詰めていたきみの話を、人づてに噂で聞いた時には『ああまるで童話の物語の始まりみたいなお姫様だなあ』なんて、そんなことを考えたんだ。
今なら、暢気なことを口にしたぼくに、シナノが「それ絶対本人向かって言うんじゃないわよ」と口にした理由がよく分かる。
もしも、ぼくが。
彼女と同じようなことになったなら。
(仲間たちを失い、片割れを奪われて、
ぼくだけは『異物』だからと見ず知らずの場所に放り出されたなら)
あの公開解読が行われてから、しばらくCafeマルメローゼの給仕のバイトにも顔を出していないと聞いていた彼女と、ひょこりと曲がり角で顔を合わせた瞬間に、考えていたことがぶわりと溢れ出して。
──がんばって
(ちがう)
──おうえんしてる
(ちがう)
そんな陳腐な励ましで(同情で)ぼくが語っていい感情じゃない。
ぼたぼたと目から溢れ出した感情の高ぶりに、彼女がギョッとして飛び上がる。
それはそうだ。ほとんど初対面みたいなハーピーが、自分の顔を見た瞬間泣きだしたら驚くだろう。
ぼくのほうが年上なのに、「わたくし、あなたに何かしてしまいましたか!?」と泣き止ませようとしてくれる。
彼女がいい子過ぎて、自分が情けない。
マカロニ姉さんならこんな時、気の利いたことが言えたりするんだろうか。
「ごめんね、ちがうんだ、君は悪くなくて、ぼくが」
ああでもこんなことを謝ってどうするんだ。
そうしてどうする?彼女に謝って?それで?『気にしないで』とでも言ってもらうつもり?
ああ、ああ、そんなの全部ぼくのエゴだ。
結局、ぼくが、とその先を言えないまま。
泣き続けるぼくに、ナイナリアさんも泣きそうになり始めて。
ぼくを探しに来たシナノが、そんなぼくたち二人を見て、ぎょっと目を丸めた後、ぼくの顔を見て、全部の感情を把握したみたいだった。
額に翼を当て、ハァァ…と海より深い溜息を吐いて、ぼくを回収してくれる。
ナイナリアさんに謝って、とにかく彼女は何も悪くないと告げて。
「……ご飯食べてるみたいね」
「へっ?」
「ご飯、大事よ。おなか減ると、考え方も後ろ向きになりがちだし。寝るのも割と大事。寝不足とかマジで何の得にもなんないから。考えることたくさんあるときとか、特に。でも、あなたCafeマルメローゼでお世話になってるんだっけ。ならそこは大丈夫か」
脈絡のないシナノの言葉に、ナイナリアさんが目を白黒させながらうなずいた。
「ホントねー、泣いてる時と怒ってる時はね、まだ大丈夫だから。いっぱい休んだら動けるわ。
──けど、『何もかもどうでもよくなる』瞬間。それだけ気を付けて。そうなりそうになったら、迷わず誰かに相談しなさいよ。大体そういう時に自分で決めたことってあんまろくなことなんないから」
訳が分からないまま、こくこくと頷くナイナリアさんに、ヨシ!と頷いて、シナノがようやく涙が収まってきたぼくを見た。
アンタも何かあんでしょ。言いたかったこと。
シナノの視線に促され、やっと口にできた言葉は。
「……はーぴーじるしのたまごさんど、おいしいよ……」
……だった。
アッハイとなったナイナリアさんに、このバカ、という顔で自分の顔を翼で抑えるシナノ。
ああ、なんでぼくってこうなんだろう……。
■推しには会いに行けるタイミングで会いに行っとけってPFばっちゃが言ってた!!!
展開としては謎場所の謎時間軸なんですが、
こちら:ネクストミッション【illust/103009516】
こちら:おやすみ王女様【illust/103126685】
の後で、二章後に緑竜諸島の方へ皆さんが行かれて帰ってこられてからか、或いは向かう前のタイミングか何かそいう感じのテイでよろしくお願いします……。元気いっぱい水着バカンス楽しんでほしい!!
中の人はナイナリアちゃん「応援してます!!」の気持ちなんですが、同じ世界に生きる人間(ハーピー)からしたらあまりに他人事で無責任な応援じゃね……!?の気持ちが拭えなかったばかりにこんなわけのわからぬ説教(?)と宣伝イラストに(万死)
多分、シナノとカタリよりナイナリアさん(10歳)の方が百倍しっかりしている……。
ご都合悪ければパラレルスルーで……!
(この後は多分シナノがカタリを引きずって帰りました)
■お借りしました
ないないづくしのナイナリアさん【illust/101966660】
◆私もなぜ唐突に宣伝が捻じ込まれたのかよくわかってません(土下座):ハーピー印のタマゴサンド【illust/102225605】
■自キャラ:シナノとカタリ【illust/102664899】
キャプションに名前だけ登場:タマゴ売りのマカロニ【illust/102108160】
正直自分がこんなこと言わなくてもこの子が諦めない限り、きっと誰かが助けてくれるだろうなとぼんやり思っているシナノ。
『偽王女』というよりも『自分だけが周りと違う』に若干心当たりがありすぎて大ダメージを受けたカタリ。童話読んで感情移入するのが好きだったのが裏目に出た。
企画元:【illust/101965643】
2022-11-27 04:20:55 +0000