半機人の貴族騎士3[後編]

SILVIA
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前回【illust/99657869

深夜0時、ルロン美術館へ貴婦人の名画を盗みに来た怪盗Mと、ヴェスター達は対峙していた。
「また僕の邪魔をしに来たのかい?懲りないね、君達は。」
怪盗Mはそう言うと魔法を唱えようとしたが、発動しなかった。
魔法はマジェリスの妨害魔法によって打ち消されているのだ。
動揺する怪盗Mの目の前に、自分とうり二つの人影が現れた。

「もう悪事はやめて下さい、我が弟よ!」
怪盗Mは目を見開いた。
「弟?君が僕の兄さんだって言うのかい?バカなことを言うな、僕は君なんか知らない。僕は怪盗として作られた機械人形だ!」
「違います!マジェール、あなたは起動する前に盗まれたのです!そして、我々は離れ離れになった!」
Mは驚愕していた。
「なぜ、僕の本名を・・・まさか君は本当に?」
「私の元へ帰ってきて下さい。これからは私と一緒にマジシャンとして生きるんです。あなたはその為に作られたのですから。魔法だって、人々を楽しませるために与えられたもの。さぁ・・・」
怪盗Mへ歩み寄るマジェリス。
自分の真の名前を知る、自分とうり二つの機械人形。マジェールが抱いた疑惑は確信に変わった。
「兄・・・さん・・・?」
ここでお互いに抱き合い、事件は一件落着かと思われた。しかし。

『そうはさせるか!!』
突然そう叫んだのは怪盗であったが、声の主は違っていた。
『せっかく奪った手駒を逃がしてたまるものか』
そして、窓を突き破って逃走を開始する。
「まさか、遠隔操作されている!?ヴェスター様、早く追いましょう!」
ヴェスターは窓から飛び降りると華麗に着地し、あっという間に怪盗に追いついた。3階建ての建物から飛び降りても無傷でいられるのは、彼が半機人であるが故だ。
「逃がしてたまるかだって?それはこっちの台詞だぜ」
彼は腰に付けていた金属製の鞭を取り出すとそれで怪盗Mを拘束した。いざという時の為に持っていたのである。

『お、おのれ、こうなったら・・・!』
怪盗は巨大化し始めた。それと同時に自分を拘束していた鞭が引きちぎられていく。
「ちっ、ルディ!」
後から追ってきたルディも巨大化すると、ヴェスターを手のひらですくいあげ、胸のコクピットへと格納する。

操縦席へ座ったヴェスターは目を閉じ、もう一度開く。するとその瞳は紫色に輝いた。ルディのカメラアイと同期した彼の目には、ルディの見ている映像がそのまま映し出される。そしてルディの青緑に光っていたカメラアイは、紫色に変わっていた。

上空から有人ドローンが近づいて来る。それは怪盗の真上で止まり、搭乗者が飛び降りると、魔法陣を出現させてその中へ消えた。これは魔法を使える者が行う機械人形への搭乗方法である。

「マジェールを操っていた者か?まさか俺達の前に姿を現すとはな」
『コイツは私のお気に入りでね。こんなところで奪われる訳にはいかんのだよ』
「盗んでおいてよく言うぜ。あんたも一緒に捕まえて、今までに盗んだ美術品もまとめて返してもらうぜ!」
『あんたではない、ドン・フューロ様だ!!』

ヴェスターが左手を前に突き出すとそこに剣が出現した。武器転送システムである。自分の武器倉庫から任意の武器を瞬時に引き出し、手元へ転送することができるのだ。
怪盗は右手に複数枚のトランプカードを出現させると、ヴェスターに向かって投擲したが、それらは全て真っ二つに切り裂かれた。
『やるじゃないか。だが君達はこの機械人形に攻撃できるかな?』
ヴェスターはたじろいだ。マジェールはマジェリスの大切な弟なのだ。傷つける訳にはいかない。ましてや破壊など、もってのほかである。
怪盗は更にカードを飛ばす。ヴェスターはそれを避けるか、防ぐことしかできなかった。

その時、彼の足元へマジェリスが駆け寄ってきた。
「ヴェスターさん、私の魔力を受け取ってください!」
そう言うなりマジェリスは魔法を唱えると、ヴェスターの剣は冷気を帯び始めた。
「その剣には氷属性の魔法をかけたので、一振りで相手を凍らせることができるでしょう。そうすれば彼を傷つけずに動きを封じることができるはずです。ただし、あなたは魔力のない普通の人間なので、この魔法は長くはもちません。」
「普通の人間か。あぁ、半分はな!」
ヴェスターは上空へ跳躍した。あまりの速さに怪盗からはその場から消えたようにしか見えなかった。
『どこへ行った!?』
「ここだよ」
彼がその声を聞いた次の瞬間には既に身動きが取れなくなっていた。月を背に、ヴェスターは氷をまとった斬撃を飛ばし、怪盗を氷漬けにしたのだった。
ドン・フューロは悪態をつきながらVRゴーグルを外し、魔法陣を作って外に出た。そのまま逃げるつもりであったが、地面に足が付く寸前に氷漬けにされてしまった。
「これで怪盗稼業は終わりだな」

翌日、ドン・フューロは逮捕され、彼が怪盗Mに盗み出させた美術品は全てルロン美術館へ返還されたこと、そして双子の機械人形、マジェリスとマジェールが感動の再会を果たしたことがニュースになっていた。記事には抱き合う2人の写真が掲載されている。それを携帯端末で読んでいたヴェスターに、ルディは声をかけた。
「彼ら、これでやっと兄弟として生活をおくれるんですね。」
「あぁ、でもマジェールが逮捕されたりしなくてよかったよ。」
「それはあり得ません。機械人形が罪を犯しても責任は所有者にあります。しかしマジェールは盗難され、別の者がその所有者に成り代わっていました。よって逮捕されるのは彼を盗み、怪盗行為を命令していたフューロになるのです。そもそも機械人形は人間が使う道具・・・所有物として定義されていますから、逮捕することはできないんですよ。」
ルディはここで言葉を切った。

機械人形は道具である。それは意志や心の有無を問わずそうなのだ。どんなに豊かな、人間と同じ感情を持っていようが、扱いは“物”と同じである。
「そうだったのか、でもルディはただの道具じゃないよ。だって、ルディは俺の兄さんじゃないか。そういう風に作られたからって言われたらそうなのかもしれないけど、それでも俺にとっては大切な、たった一人の家族だ。」
ヴェスターは笑顔でそう返したのであった。

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2022-07-17 10:39:42 +0000