半機人の貴族騎士、第3話。今回はヴェスターが怪盗の機械人形と戦う話です。
長くなってしまったので2つに分けました。後編は後程うpします。
“今夜0時、天使の涙をいただきに参上する。怪盗M”
ヴェスターとルディ、そして警備員達はルロン社が経営する美術館の中にいた。部屋の中央には天使の涙と名付けられたネックレスが展示されている。怪盗Mはこの厳重な警備をどう掻い潜ろうというのか。
指定時刻になった瞬間、視界は闇に包まれた。
警備員の何人かが持っていたライトを点灯させ、辺りを照らす。
「おっと、眩しいじゃないか。」
ライトに照らされた怪盗は言った。黒いシルクハットにマント、そして赤い仮面を身に着けた機械人形だった。いつの間に現れたのか。そして、その手にはネックレスが。
「そいつは返してもらうよ」
ヴェスターが怪盗につかみかかろうとしたが、身体は微動だにしない。他の者達も同じ状況だった。
「ど、どうなってるんだ!?」
「フフッ、僕のマジックさ」
怪盗Mは微笑みながらヴェスターの方へやって来ると、彼の頬を撫でて顎をつかみ、自分の目の前まで引き寄せた。
「半機人にも効果はあるようだね。」
そう言うと怪盗はマントを翻し、闇の中へ消えてしまった。
翌朝、怪盗Mの事件は大ニュースとなっていた。
ルロン美術館に怪盗現る!という見出しの記事にはヴェスターの写真が載っており、あろうことか怪盗Mに頬を撫でられている場面であった。それを朝食を取りながら携帯端末で読んでいたヴェスターは不満の声を漏らした。
「なんで、よりによって、このシーンなんだよっ!だいたい皆動けなかったはずなのに、どうして写真が撮れるんだ!?」
「それはきっと記者が撮影型機械人形を同行させていたからでしょう。彼らはカメラアイにとらえた映像を録画できますので、その動画の切り抜きではないかと。」
ルディは淡々と説明していたが、内心では憤りを感じていた。自分の最も大切な主人の顔に他人が気安く触れるなど、許し難い行為である。
「ヴェスター様、先ほど依頼者のルロン美術館館長から連絡があったのですが、怪盗Mはまたしても予告状を送ってきたそうです。今度は貴婦人の名画を狙っているとか。」
「なんだって!?」
目を丸くするヴェスターにルディは続けた。
「それとギルドから、貴方に会いたい方がいらっしゃるので来て欲しいと」
ヴェスター達はギルドが指定した待ち合わせ場所へと向かった。
「そろそろ時間だな。」
ヴェスターが周囲を見渡すと、全身白づくめの男が目に留まった。こちらへやって来るその姿にはどこか見覚えがある。色は違えど昨日対峙した怪盗Mそっくりであった。
「初めまして、ヴェスターさん。」
「き、君は・・・!?」
思わず剣に手をかけるヴェスター。
「待ってください、私はマジェリス。マジシャンをしております。格好は似ているかもしれませんが、あの怪盗ではありませんよ。」
彼はそう言うと行儀よく一礼した。
「ま、待てよ、別人っていっても、なんでこんなにそっくりなんだ?」
「実は・・・あの怪盗は私の、双子の弟、マジェールなんです。」
彼は自らの経緯を話し始めた。彼ら兄弟は、マジシャンの機械人形として作られたが、完成した直後に弟が盗まれてしまった。その後、兄であるマジェリスはマジシャンとして活動しながら弟の行方を捜していたが、今朝のニュースで怪盗Mの事件を知った。本来ならば彼の所有者が探すべきであるが諸事情によりその時間がとれなかったため、彼がヴェスターに弟の奪還を依頼しようとギルドに連絡を取ったという。
「私は弟を悪用している者が許せない。何としてでも取り返し、双子のマジシャンとして活動したいのです。どうか、お願いします。」
「貴方の弟への想い、痛いほどわかります。兄弟とは何よりも大切な存在。えぇ勿論お引き受けいたしますとも。」
そう言いながらマジェリスの手を両手で握りしめるルディ。
「おぉ、ありがとうございます!もしかして、貴方にもご兄弟が?」
「はい。ヴェスター様は私の弟でございます。勿論彼と血がつながっている訳ではありませんし、ヴァングレイ家の長男は彼です。ですが私はヴェスター様の兄として作られました。なので本当の弟だと思って接しているんです。」
「素晴らしい心意気です。兄弟愛は種族すらも超えるのですね。私、感動してしまいました!」
自身とヴェスターの関係について熱く語りだすルディをヴェスターは慌てて止めた。
「おいおい、もうそれくらいでいいだろ!っていうか、勝手に話を進めるな!」
憤慨するヴェスターにすみませんと謝るルディ。
「まぁ、引き受けるのに反対はしないけどさ。ところで、奴の拘束技はどうするんだよ?また使われたら厄介だぜ。」
「それはきっと魔法ですね。私が食い止めましょう。私も弟同様、魔法が使えますので。」
マジェリスはそう言うと指をぱちんと鳴らした。その指には炎が灯っていた。魔法を使えるのは人間や魔物だけではない。製造時に魔力を込められた機械人形は魔法を使うことができるのだ。
「まさか、マジックって・・・本物の魔法だったのか!じゃあ君は手品師っていうか、魔道士!?」
「フフ、手品師の大半はそうですよ。では、次に怪盗と会うときは、私も同行させてもらいますが、よろしいですか?」
「勿論さ。」
強力な仲間を得たヴェスター、果たして怪盗からの挑戦に勝利することができるのであろうか?
2022-07-11 11:25:00 +0000