ねえお兄ちゃん誓って

+慧+@C105(日)西か-4

「ねえお兄ちゃん。…誓って」
ソファに座るカレンチャンに誘われ、無意識に歩み寄っていた。

ビューティードリームカップ開催日。
ミューズの一人に選ばれたカレンチャンは勝負服に身を包み、他の子たちと手を振っている。

白やピンクの中、黒いドレスが嫌でも目を引く。
黒のフリルに肩と腰には大きなリボン。耳と胸元がシースルーになっていて他のドレスよりアダルティな印象を与える。
しかし、耳飾りのサクランボのチャームが少女らしさを演出している。

なにものにも染まらない黒。

彼女らしさが存分に発揮されているドレスを見て、正直ドキドキしている。

「カワイイカレンチャン!」

彼女の魅力に魅せられた観客から歓声が上がる。

手を振ったりカワイくポーズを取る彼女。

観客を魅了しているのを見て、やはり彼女はすごいなと改めて思う。
負けず嫌いで努力家。

だからこそこんなにファンが付いて来ているんだと確信している。

そんなことを考えて彼女を見ていると、目線が合った気がする。

彼女は右手を顔の横に持ってきて小指だけを立てる。
第一関節だけを動かすように小指をクイクイと動かす。

単純にこちら側全体にポーズを取っていただけかもしれない。
ただ、気のせいでなければ、ずっとこちらを見ていた…ような気がする。

気づけば彼女は違う方向を見てファンサービスをしている。

少し鼓動が早くなったのを感じながらビューティードリームカップは無事終了した。

その日の午後は撮影もあるので、スタジオへと向かうことになった。

ソファに座りながら口元に人差し指を立てウィンクするカレンチャン。
撮られた際どのように映るか分かっているかのような完璧なポーズを連発する。

撮影は無事終了し、スタッフも撤収し始めた時

「ねえお兄ちゃん。ウマスタに上げるための撮影手伝って~」

そう言ってこちらの手を握ってくる。

流石にスタジオに残るのはスタッフの迷惑になるのではないかと思っていたら

「あぁ大丈夫ですよ。次の撮影までこのスタジオ使わないので。存分に撮っちゃってください」

スタッフの一人が機材を片付けながら部屋を出ていった。

許可は得たので安心していると、左手の小指に違和感を覚える。

「じゃあお兄ちゃんはそこで立ってて。あっあんまり引っ張らないでよ?」

ソファに座りスマホで自撮りを始めた彼女を見ると、右手の小指を立てていた。
彼女の小指の第一関節には赤い糸が結ばれている。
その赤い糸の先は地面に垂れ下がるのではなく、こちらの左小指に結ばれていた。

空中に緩い曲線を描く赤い糸を含めるように自撮りをする彼女。
パシャパシャと何枚か撮影をして満足そうに頷く。

「今日はビューティードリームカップ。本気のカレン見てくれた?運命の赤い糸はダイスキなアナタに繋がってるよ。
#ビューティー #運命の人 #カワイイカレン」

小指を立てたまま手際よくスマホを操作しウマスタにアップしている。
こちらは呆気にとられていたのでそのまま立ち尽くしていた。

「ありがとうお兄ちゃん。とっても良い写真撮れたよ」

スマホをソファに置きながらこちらに声を掛けてくる。

「あ、ああ。力になれて何よりだよ」

今日は彼女に声をかけられると、いつにも増してドキドキしてしまう。

「あ~今日はレースして撮影もして、カレン疲れちゃった。癒された~い」
そう言って彼女は右手を揺らす。
未だにお互い外していない赤い糸が宙をプラプラと揺らめく。

「じ、じゃあ何か甘い飲み物でも貰ってこようか?」

この空間にいると何だか理性的ではなくなってしまいそうだと思い、外に出ようとすると

「…ねぇ、お兄ちゃん」

彼女が甘えるような声色でこちらに声を掛けてくる。

「今日、お兄ちゃんにまだ『カワイイ』って言われてない」

小指に繋がる赤い糸はたわんだまま。
少しの力で抜けられるはずだが、何故かそうすることが出来ない。

「か、カワイイよ」
「…やっぱり『カワイイ』だけじゃイヤかも。もっと言って」

お気に召さなかったのか、上目遣いでこちらを見つめながら言われる。

「なんて、言えばいいんだ?」
色々言いたくなってしまっているが、何を求められているのか彼女に確認してみる。

「…ねえお兄ちゃん。黒いウェディングドレスってさ。とってもカワイイよね」

彼女は淡々と喋り始める。

「なにものにも染まらない色。それが黒。そんな色のドレスってとても魅力的でしょ」

こちらをジッと見つめてくる。

「お兄ちゃんはカレンにとって運命の人。『他の人の色に染まる』なんて考えられないもん」

彼女は口元に小指を立てた右手を近づける。

その小指は小さくクイックイッと動いている。
まるでこちらに来いと言わんばかりに。
糸はたわみ、こちらに力が伝わってくるはずもないのに、気が付けば自分は彼女に近づいていた。

「ねえお兄ちゃん。…誓って」

気が付けば眼前には彼女の顔。
無意識のまま自分は何か呟いていた。

自分では認識できていない『それ』を聞いたカレンチャンは、妖艶に微笑んでいた。

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2022-06-04 11:43:22 +0000