※自転車の二人乗りを推奨するものではありません。
大正期が舞台の為、自転車の乗り方に関しては現代の法規制に則った描写ではないので、ご理解ください。
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大正●年三月●日
年明けに購入セシ自転車も訓練を重ね、
その腕も少しばかり上達の折、不死川と遠出に及ぶ。
彼の運転技術はまさに堅牢快走ニテ尊敬に値する。
東京市中心部を抜け、郊外へ足を伸ばし、
素朴ナル武蔵野台地に広がる景色を楽しむ。
木々の夕映え美しき帰路の途上ニ火葬場ノ煙を見、
暮色に消へなづむ一筋の煙に、遠からぬ二人の最期を想ふ。
何処の誰とも知れぬ野辺送り故か、
私には殊更な悲愴感も無く、
唯々佳夕(かせき)の中に消へる煙が
此ノ世のしがらみからの解放にも思へて、
何か魂に染み入るやうな心持ちにもなつた。
夜更けても消へぬ火葬場の残映は、
心なしか不死川の顔を
曇らせているやうに思へた。
憂色の色を浮かべた彼の瞳を見るに、
何とも堪らぬ心地を覚へ、彼より先立つことはないと
励ましたものの、下手な慰めにもならず、
未熟な己に恥じ入るばかりとなつた。
2022-05-15 15:20:34 +0000