見てくださいたんぽぽが咲いていますよ

+慧+@C105(日)西か-4

ジリリリリリリリ
けたたましい目覚まし時計の音で目を覚ます。
叩くように時計を掴み時間を確認すると、いつもより1時間ほど早いところに短針が向いている。

今日はグラスワンダーと出かける予定のため、少し早い時間にセットしていたのを思い出す。

URAファイナルズを優勝し、大切な3年間を走り抜けることが出来た。
今は新学期が始まる前の春休み。
取材などが殺到し忙しい日々が続いていたが、月末になり落ち着きを見せた。
そんな多忙の日々でも練習は欠かさなかった彼女を見て少し息抜きをさせてあげようと休息日を設けることにした。

トレーニング終了後、そのことを伝えると
「でしたらトレーナーさん。今度のお休みの日、一緒にお出かけでもいかがですか?」

それが今日だ。
行先は近くの山で軽いピクニックだということ。
有難いことに雲一つない晴天が広がっている。

軽めの朝食を取り、身支度を整えていると約束していた時間になった。

ピンポーン

家のチャイムが響く。
ドアフォンを見るとグラスワンダーが立っていた。

靴を履き、玄関のドアを開ける。
「おはよう。わざわざこっちまできてくれてありがとう」

「おはようございますトレーナーさん。いえ、良いんです。私が来たかっただけですので」

彼女は静かに微笑み挨拶を返してくれる。

「それでは行きましょうか」

山といってもかなり低く、山道もしっかりと整備されているため散歩コースとしても人気のある山だ。
良い天候のため、自分たち以外にも普段着のような軽装で歩いている人たちが見える。
グラスワンダーと二人並んでゆっくりとしたペースで歩を進める。

最近はこんなにゆったりとした時間を過ごしていなかったので、改めて忙しい日々が続いていたのだなと実感する。

「今日は誘ってくれてありがとう」

自然と感謝の言葉が出てきていた。

「こちらこそ、一緒に来ていただきありがとうございます。たまには歩いて景色を眺めるのも良いでしょう」
「確かに今までずっと走り続けてた、そんな感覚だな」

3年間があっという間のような感覚はあった。
自分は実際にレースで走っているわけではないが、彼女の走り抜けた時の吹き抜ける風や芝を蹴る音などをたくさん聴いていたので、自分自身も一緒に走っているような気持ちだった。

「だからこそ、このような時間が大切なのです」

彼女は嬉しそうに景色を眺める。
和の心を大切にしている彼女だからこそ出てくる言葉だなと改めて感じていると

「あら?」

彼女は何かに気づいたように視線を下に向ける。

「見てくださいトレーナーさん。たんぽぽが既に綿毛になっていますよ」

鮮やかな黄色い花を大きく広げるたんぽぽが群生している場所に、一輪だけ綿毛になっているものがあった。
最近は急に暖かくなっていたのでその影響だろうか。
何はともあれ黄色いタンポポの絨毯の中にポツンと存在する綿毛のたんぽぽは、とても目を引くものだった。

彼女はそれに近づき、ゆっくりとかがむ。
自分も近づき、膝に手をつき少しかがんで覗き込む。

「ふふっ…この子も早起きさんですね」
「そうだな。一番になりたかったのかもな」
「なるほど。…私と同じで、結果を残したかったのですね」
「え?」

膝を抱えるように座っている彼女の表情は長い栗毛で遮られている。
彼女のいつもの優しい声色ではなかった。
まるで『自分は結果を残せていない』とでも言いたげな声だった。

「何言ってるんだ?URAファイナルズも優勝してそれ以外にも重賞を勝ってきたじゃないか」

彼女の戦績は歴史に残るほどのものだ。

「君の走りはとても素晴らしい。寝てても君の走りを夢に見るほどだよ」

自分が今思っている本心をそのまま伝えた。
彼女はゆっくりとこちらを向く。

「ありがとうございますトレーナーさん。そう言って頂けるなんて、とても嬉しいです」

彼女のいつもの優しい声色に戻っていてホッとする。

「ではここで一つ、花占いでもいたしましょうか」
そう言うと、綿毛のたんぽぽを静かに手折り、口の高さまで持ってくる。

ふぅーっと優しく息を吹きかける。
それでも綿毛は次々と風にのりフワフワと飛んでいく。

先ほどまで綿毛をたくさん付けていたたんぽぽには2~3個しか付いていない状態だ。
その茎だけになったたんぽぽの姿を見て彼女は静かに微笑む。

「どんな結果だった?」

占い結果が気になり思わず聞いてしまう。
彼女はこちらに目線を合わせる。

「乙女の秘密です」

彼女は手に持っていた茎を丁寧に元の場所に置き、立ち上がる。

「…もう、春休みも終わるのですね」

彼女がポツリと呟く。

「そうだな。また忙しくなるぞ。怪我に気を付けながらトレーニングにレース、頑張っていこうな」

春休みが明けたらこれまで以上に忙しくなるほど、スケジュールが埋まっている状態だ。
これからまた彼女の活躍が見られると思うと楽しみで仕方がない。

「『来年度』もよろしくお願いします。トレーナーさん」

力強い返事をしてくれるグラスワンダーだった。

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2022-04-24 10:14:39 +0000