ライセンスを取得し今年からトレセン学園でトレーナーとして働けることになった。
全国から集まってきたウマ娘が勝利を目指して日々努力しているのを目の当たりにし自分も頑張ろうと決意する。
トレーナーとして動くためにもまず担当とするウマ娘を見つけなければいけない。
先輩にどのように担当を見つけるか聞いてみると
「まずはトレーニングしているのを見て、気になったらその時点で声をかけてみる。それから選抜レースの結果を見て判断といったところかな」
そんなわけでバ場に来てトレーニングしているウマ娘たちを見ている。
芝にダート、それに坂路と様々なところでトレーニングしている。
皆真剣にトレーニングに励んでいる。
とりあえず芝の練習コースを見学してみることにしたが、やはり主戦場のためたくさんのウマ娘がいる。
目移りしてしまうなと考えているとちょうど走り出した娘がいた。
3人で併せをしているようだ。
彼女は逃げで走っている。
両耳付近でツーサイドアップにしていてひし形の髪飾りをつけている。肩にかかるかかからないかという長さの黒髪を揺らしながら一歩一歩力強く走っている。
ラストの直線で後続に捕まりかけるもギリギリ逃げ切っていた。
「やったー!1着だー!」
彼女の元気な声が聞こえてくる。
大粒の汗を垂らしながら併せをした子たちと話している。
彼女のことが気になり調べてみる。
名前はキタサンブラックというらしい。
とてもいい走りをしているなと思った。
彼女のことは覚えておこう。
とりあえず今度はダートにでも行ってみようと考え移動する。
「……」
「キタちゃんどうしたの?」
「ううんなんでもない!それよりもう1本走ろう!」
数日後
選抜レースの日になった。
あれから色々な娘を見て回ったが、皆素晴らしくて決められず頭を悩ませていた。
とりあえず今日のレースを見てから考えることにした。
選抜レースということでウマ娘だけでなく、たくさんのトレーナーが見に来ている。
コースを一望できる観戦席で選抜レースを見ることにした。
出走準備を促すアナウンスがかかり、該当するウマ娘たちがゲートへと集まる。
その中にあの子がいた。キタサンブラックだ。
ゲートが開く。
今回、彼女は逃げではなく先行の作戦のようだ。
序盤は問題なく進んでいたが中盤に差し掛かり、周りが囲まれてしまった。
そのまま最終コーナーになり彼女もラストスパートをかけるが抜け出すことが出来ず、結果は5位入着。
とても悔しそうな表情を浮かべコースを後にするのを見て気になり、気が付けば追いかけていた。
「ちょっといいかな」
校舎に戻ろうとしていた彼女に声をかける。
「…あ、はい何でしょうか?」
急に声をかけられたからか、一瞬目を大きく見開いたがすぐに戻り怪訝そうな顔でこちらを向く。
「選抜レースおつかれさま」
「レース見ていたんですね。いやぁ、良い結果が残せませんでした」
走り自体は悪くなかった。
ポジション取りや仕掛け場所をこれから学んでいけば問題なさそうな感じだった。
その上で気になったことを聞いてみる。
「なんで今日のレースでは逃げじゃなかったんだ?」
また彼女の目が大きく見開かれる。気のせいかもしれないが一瞬『口角』が上がっているようにも見えた。
「練習の時のことも見てくれていたんですね。実は今回のレース、前目で走る子が多いって聞いてたんで、その中でも前を走っていこうと思ってたんですけど、囲まれちゃいました」
えへへと頭をかく彼女。
彼女なりに他の子を分析して対策していたらしい。
しかし、彼女自身がマークされる側だったことは頭にはなかったようだ。
「作戦や仕掛けどころは追々として、君の粘り強さは本当に素晴らしいと思うんだ」
彼女の良いところはたくさんあるようだった。これから磨いていけば更に輝く代物だと感じていた。
「君さえ良ければスカウトさせてくれないか?」
そう言った瞬間両手をギュッと握られた。
「はい!ぜひよろしくお願いします!トレーナーさん!」
こうしてキタサンブラックとのトレーニングが始まった。
トレーニングを始めると彼女は見るからに成長していき、重賞レースも勝つことができた。
「トレーナーさん!今日のトレーニングはなんですか?なんでもやりますよ!」
「トレーナーさん今からお昼ですか?じゃあ一緒に食べましょう!」
「こんにちはトレーナーさん!お買い物ですか?半分持ちますよ!」
「いつも私のために頑張ってくれているトレーナーさんにマッサージしてあげます!」
トレーニング生活も長くなり、休みの日や練習終わりでも彼女と一緒にいる時間が増えた。
気が付けば彼女がいる。
そんな生活だ。
今日もトレーニングが終わり、トレーナー室で明日は休みであることを伝えると
「でしたらお祭りにいきましょう!明日、夏祭りがあるんです!」
彼女はいつもの明るい笑顔で誘ってきてくれる。
特に予定もないし、気分転換には良いなと思い一緒に行くことを伝える。
そこでふと、気になった。
「なあ、誘ってくれるのは嬉しいんだけど、なんでいつも俺なんだ?」
彼女には友達がたくさんいる。
それこそ祭りに行こうと誘われていただろう。
そこで自分を誘ってくれたのはどういう理由からなのか?
すこしだけ気になったのだ。
「何言ってるんですか!トレーナーさん!そんなの簡単な理由です!」
彼女は軽快に笑い、伝えてくる。
「それは『お気に入り』のトレーナーさんだからですよ!」
目を見開き、しっかりとこちらを見つめ『口角』が上がった笑顔をこちらに向ける。
まるで獲物を見つけた動物のような顔で。
この笑顔、どこかで見た覚えがあるなと感じた。
そして、思い出す。
それは彼女をスカウトした時に見せたあの笑顔だった。
2022-04-19 12:23:32 +0000