【IOY】息ができる場所【交流】

ものと


「なあ、あんた大丈夫か?」

目の前に苦しそうに座り込む女の子がいたから、自然と体が動いて声を掛けてただけ。
俺にとってはいつもと変わらないよくある出来事…のはずだった。

その、三咲渚という子はLO2だった。
そういえばLO2とこうやって接したことは無かったか。
俺は少し迷いながらも、マスクの隙間からプライブの葉を一枚千切り、彼女に渡した。

「礼とか別にいらねぇし。…でも、あんたがどうしてもっつーんなら。ほら、連絡先。あんたのも教えろよ」

頼まれたら断れない、というのはあった。
でも、それ以上に、

目の前にいる女の子が不安を抱えている。怖いと言っている。
それを助けてあげたいと思ったんだ。


三咲の言う『お礼』に付き合うのは、友達らしい友達もいない俺には新鮮だ。
海とか水族館とか、それまで訪れることのなかった場所に行ったり。
ジュース片手にただ駄弁って時間を潰したり。

「俺の…好きな物?何だ…?騒がしくない場所…そうだな、俺も海は好きかも」

「進路かぁ…そろそろ決めねぇとってのは分かってるんだけど…。勉強はメンドウだから就職かな」

「風邪じゃねぇ。…わりぃ、これはまだ外したくねぇ」

「こ、これは、いつもの癖っつーか、なんつーか…。そ、そもそも、ヒーローってガラじゃねぇだろ、俺は」

いつからか『お礼』という口実も忘れて、俺たちはただ一緒に過ごす時間を楽しんでいた。
放課後も、休日も。チンピラ相手に喧嘩するよりも、独りでいるよりも。
彼女といる時間の方が、俺には心地よかった。

三咲の隣にいると、マスクが邪魔だと感じる時がある。
俺も少し、息がしやすくなる。


最近、三咲のことばかり考えて、目で追っている気がする。
一緒にいると、頬に生えた葉の辺りがムズムズする。
いつもの距離感に緊張してしまう時がある。
それが何であるかを自覚するのに、人付き合いの苦手な俺でもさほど時間はかからなかった。

(俺、三咲のこと好きなんだな)

初めての感覚、初めての感情を、俺は持て余した。
だって三咲は友達だ。
ただ一緒にいて楽しい男友達、と彼女は思っているに違いない。
でなきゃ普通、女子があんな距離感で男と接するか?どう考えても脈ナシだ。
だから、友情を優先しよう。今の関係で十分じゃないか。

そう思っていたのに…。


花を見られてしまった。逃げ出してしまった。
友達のままでいようという決心とは裏腹に、俺の心は文字通り顔に出てしまった。

…三咲も困惑した顔してたな。
きっと俺の気持ちはバレてしまったんだろう。
今度からなんて声を掛けたらいいんだ。

いいや。こんなくよくよ悩んでんのは情けねぇ。
これ以上ないくらい恥を晒したんだ。

(ちゃんと、三咲に伝えよう)


「…は?今なんつった?…す、好きって?」

彼女の口からは予想だにしない言葉が次々と出てきた。
悲しげな表情に互いの誤解を悟り、俺は慌てて彼女の言葉を遮る。

「これは、その…あんたのことを考えてたら、なんか急に咲いて……だから、俺が好きなのは三咲なんだ」

「三咲は俺のこと友達としか見てないんだと思ってた。だから花を見られて、俺の本音がバレたと思って、すげー恥ずかしくて、すげー焦って。そしたらお互い全然違う勘違いしてたとか…バカだな、俺ら」

そう、本当にバカだった。
自分の気持ちに正直になれば良かっただけなのに、お互い不器用に回り道してしまった。

だから改めて、俺の気持ちを伝えるよ。
上手い告白の言葉なんて知らないけれど、ただ真っ直ぐに。
忌々しくて隠していた葉を、白い小さな花を、あんたに見てほしい。
俺の隣で笑っていてほしい。

「これ、あんたの花だ。俺と…一緒に居てくれないか」


あんたに出会って、俺は初めてプライブの自分を好きになれたよ。
マスクはまだ完全には手放せないけど、あんたの前では邪魔だから外すよ。

「俺は渚の目標ならなんだって応援するし、協力する。…だから、簡単に諦めんなよ」

いつか、遠くから眺める海だけじゃなくて、その下の景色も二人で見てみたいと思うんだ。

二人一緒なら、海の中だって息苦しくないと思うから。

◇◇◇

◆改めまして、素敵なご縁をありがとうございました!どうぞ末永くよろしくお願いいたします!
三咲 渚さん【illust/94693887

大変遅くなりましたが、成立記念としてのイラストと、CSキャプションの続きになります。
まだ海には入れないだろうけど、このシチュエーションが描きたかったので…!失礼しました…!

三葉 白詰【illust/94816230

◇息をすること【illust/92961569】(企画終了・アフター期間)

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2022-03-17 11:42:11 +0000