◇
「なあ、あんた大丈夫か?」
目の前に苦しそうに座り込む女の子がいたから、自然と体が動いて声を掛けてただけ。
俺にとってはいつもと変わらないよくある出来事…のはずだった。
その、三咲渚という子はLO2だった。
そういえばLO2とこうやって接したことは無かったか。
俺は少し迷いながらも、マスクの隙間からプライブの葉を一枚千切り、彼女に渡した。
「礼とか別にいらねぇし。…でも、あんたがどうしてもっつーんなら。ほら、連絡先。あんたのも教えろよ」
頼まれたら断れない、というのはあった。
でも、それ以上に、
目の前にいる女の子が不安を抱えている。怖いと言っている。
それを助けてあげたいと思ったんだ。
◇
三咲の言う『お礼』に付き合うのは、友達らしい友達もいない俺には新鮮だ。
海とか水族館とか、それまで訪れることのなかった場所に行ったり。
ジュース片手にただ駄弁って時間を潰したり。
「俺の…好きな物?何だ…?騒がしくない場所…そうだな、俺も海は好きかも」
「進路かぁ…そろそろ決めねぇとってのは分かってるんだけど…。勉強はメンドウだから就職かな」
「風邪じゃねぇ。…わりぃ、これはまだ外したくねぇ」
「こ、これは、いつもの癖っつーか、なんつーか…。そ、そもそも、ヒーローってガラじゃねぇだろ、俺は」
いつからか『お礼』という口実も忘れて、俺たちはただ一緒に過ごす時間を楽しんでいた。
放課後も、休日も。チンピラ相手に喧嘩するよりも、独りでいるよりも。
彼女といる時間の方が、俺には心地よかった。
三咲の隣にいると、マスクが邪魔だと感じる時がある。
俺も少し、息がしやすくなる。
◇
最近、三咲のことばかり考えて、目で追っている気がする。
一緒にいると、頬に生えた葉の辺りがムズムズする。
いつもの距離感に緊張してしまう時がある。
それが何であるかを自覚するのに、人付き合いの苦手な俺でもさほど時間はかからなかった。
(俺、三咲のこと好きなんだな)
初めての感覚、初めての感情を、俺は持て余した。
だって三咲は友達だ。
ただ一緒にいて楽しい男友達、と彼女は思っているに違いない。
でなきゃ普通、女子があんな距離感で男と接するか?どう考えても脈ナシだ。
だから、友情を優先しよう。今の関係で十分じゃないか。
そう思っていたのに…。
◇
花を見られてしまった。逃げ出してしまった。
友達のままでいようという決心とは裏腹に、俺の心は文字通り顔に出てしまった。
…三咲も困惑した顔してたな。
きっと俺の気持ちはバレてしまったんだろう。
今度からなんて声を掛けたらいいんだ。
いいや。こんなくよくよ悩んでんのは情けねぇ。
これ以上ないくらい恥を晒したんだ。
(ちゃんと、三咲に伝えよう)
◇
「…は?今なんつった?…す、好きって?」
彼女の口からは予想だにしない言葉が次々と出てきた。
悲しげな表情に互いの誤解を悟り、俺は慌てて彼女の言葉を遮る。
「これは、その…あんたのことを考えてたら、なんか急に咲いて……だから、俺が好きなのは三咲なんだ」
「三咲は俺のこと友達としか見てないんだと思ってた。だから花を見られて、俺の本音がバレたと思って、すげー恥ずかしくて、すげー焦って。そしたらお互い全然違う勘違いしてたとか…バカだな、俺ら」
そう、本当にバカだった。
自分の気持ちに正直になれば良かっただけなのに、お互い不器用に回り道してしまった。
だから改めて、俺の気持ちを伝えるよ。
上手い告白の言葉なんて知らないけれど、ただ真っ直ぐに。
忌々しくて隠していた葉を、白い小さな花を、あんたに見てほしい。
俺の隣で笑っていてほしい。
「これ、あんたの花だ。俺と…一緒に居てくれないか」
◇
あんたに出会って、俺は初めてプライブの自分を好きになれたよ。
マスクはまだ完全には手放せないけど、あんたの前では邪魔だから外すよ。
「俺は渚の目標ならなんだって応援するし、協力する。…だから、簡単に諦めんなよ」
いつか、遠くから眺める海だけじゃなくて、その下の景色も二人で見てみたいと思うんだ。
二人一緒なら、海の中だって息苦しくないと思うから。
◇◇◇
◆改めまして、素敵なご縁をありがとうございました!どうぞ末永くよろしくお願いいたします!
三咲 渚さん【illust/94693887】
大変遅くなりましたが、成立記念としてのイラストと、CSキャプションの続きになります。
まだ海には入れないだろうけど、このシチュエーションが描きたかったので…!失礼しました…!
三葉 白詰【illust/94816230】
◇息をすること【illust/92961569】(企画終了・アフター期間)
2022-03-17 11:42:11 +0000