第三十話「お客さんでっせー」

なわない

 今日は、僕の子供の頃の口癖の話。

 僕の実家は駄菓子屋だった。
 超、急がしい駄菓子屋だった。 
 だから、僕は幼稚園に入る前から店を手伝った。
 と言っても、まだ、お金を数えたりすることは出来ない。

 おかんはと言えば、夕方から店が忙しくなるので、早めに晩御飯のこしらえをする。
 そのあいだの店番担当だ。
 幼少、5歳のお店番。
 店に人が来たら、こう叫べとインプットされた。

「おか~んー。おきゃくさんでっせー」

 まるでオウムのような僕だが、ITなどない当時では、それでもなかなか重宝な戦力。
 僕の声に「はーい、すんませーん」とおかんが台所からエプロンで手を拭きながら走ってきて接客をする。

 けっこう役に立つので、僕はおかんにほめられる。
 だから、毎日、店に立つ。
 ほら、お客さんが来た!

「おかんー。おきゃくさんでっせー」

「かしこい番頭さんやねえ」
 などと言われて調子に乗る。

「おかんー。おきゃくさんでっせー」
「おかんー。おきゃくさんでっせー」

 これを言えばみんなが笑ってくれる。みんながほめてくれる。
 だから毎日、
「おか~んー。おきゃくさんでっせー」

 …………

 しかし、天地がひっくり返る様な出来事が起こる。

 幼稚園入園。
 
 先生が順番に名前を呼ぶ。

「みんな大きな声でお返事してくださいねー」
「はーい」

「まことくーん」
「はーい」

「みはるちゃーん」
「はーい」

 つぎは僕の番。
「よしひろくーん」

「は」
「はっ」
「はぁ」
「ぐぐぐ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「おかんー。おきゃくさんでっせ~~!!!!!!!!」

 …………

「はーい」のかわりにそう叫んでしまったのでございます。

 その後、おかん、先生から子供さんは日頃どんな生活をしているのか詳しく聞かれたんだそうです。(笑)

 ほんとすり込みってすごいもんです。
 さすがに大人になってもうそんなことはありませんが、今でも朝礼の時、自分の名前を呼ばれると

 『なにニヤニヤ笑っとる!』
 と、上司から(笑)
 

 お客さんでっせー
 …END…

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2022-03-05 08:16:19 +0000