2月14日バレンタインデー
今日は朝からやけに冷える。いつもより厚めのコートを来て出勤する。
学園に行く前にコンビニへと立ち寄る。
500mlのペットボトルの水を手に取り会計へと進む。
「ん?」
陳列棚に目を引く物があった。
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学園に着くといつもと様子が違う。
どことなくチョコの甘い香りに包まれ、すれ違うウマ娘たちの表情もなんだか楽しげだ。
トレーナー室に向かう途中、教室の前を通ると
「キングの手作りチョコよ!一流の作品を存分に堪能なさい!」
威勢の良い元気な声が聞こえてくる。
キングヘイローがいつもの4人にラッピングされたハート型のチョコを渡していた。
皆がそれぞれにチョコを渡し、渡されを行っている中セイウンスカイは
「モグモグ…思ったよりちゃんとチョコだねキング」
「もう食べてる!?それより思ったよりってどういうことスカイさん!」
キングヘイローのチョコだけ食べ始め、その反応を見て楽しんでいる姿を見て相変わらずだなと思っていると予鈴が鳴り始める。
思いの外長居しすぎた。トレーニングの準備をするためトレーナー室に向かう。
「……」
「ちょっとスカイさん聞いているの!?」
「ん~?キングってば怒ってばっかりだね。糖分足りてる?これ上げるよホワイトサンダー」
「そういう問題ではないわ!」
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トレーナー室で今日の準備をしていると急に冷気が入り込み身震いしてしまう。
振り返り外を見てみるとパラパラと雪が降っていた。
バ場は乾いていたためか内ラチ以外のところが白く染まっていて、練習していたウマ娘たちは身体を抱え足踏みして寒そうにしている。
天気予報では雪では無かったため今日のトレーニングメニューは通常通りのものにしていた。
どうしたものかと考えているとスマホが震える。
[セイウンスカイからの着信]とディスプレイに出ている。
すぐに応答の緑ボタンを押す。
「スカイか。丁度良かった。今日のトレーニングなんだけど……」
『トレーナーさん……たすけて……さむいよ……』
スピーカー越しに聴こえるのはいつものはつらつとしたものではなく、今にも消え入りそうなセイウンスカイの声だった。
「どうした?!大丈夫か何があったんだ?今どこにいる?」
予想外の状況だったため矢継ぎ早に質問してしまう。
『……こ、校舎裏……』
その言葉を最後に通話が切れてしまう。
「スカイ?!」
もしかしたら何か事故に巻き込まれたのかもしれない。
それに雪が降り始めた今、外で倒れていたりしたら……
そう考えた瞬間、コートを片手に走り始めていた。
人目も気にせず廊下を走る。途中、教師に「廊下を走るな!」と注意されるが無視する。
すぐに校舎裏についた。
「スカイ!どこだ?!」
見渡してみても彼女の姿が見当たらない。
しかし、雪のつもった部分に足跡が残っている。それは校舎裏の死角へ続くように伸びていた。
それを追いかけ死角になった部分を覗く。
そこには
誰もいなかった。
そこはただ雪が積もっていて、足跡もそこで途切れていた。
「わぁ!!」
「うわあああ!」
突然後ろから叫ばれ、急に振り向いたためバランスを崩し尻もちをつく。
「あははははは!トレーナーさんビックリしすぎ!」
学園指定の紺色のコートを着たセイウンスカイがケラケラと笑いながら立っていた。
すぐに立ち上がり彼女へと近づく。
手に持っていた自分のコートを彼女に羽織らせ両肩を掴む。
「怪我はないんだな」
「と、トレーナーさん?」
「ないんだな?」
「う、うん……」
その言葉を聞き、ため息をつく。
「本当に心配したんだぞ」
彼女のいつものイタズラだったことに気づき緊張が解ける。
「……いや~我ながら迫真の演技だったですね~」
彼女は顔を横に向け視線を合わせようとしない。
自分でもやりすぎたと思っているのだろう。
反省しているならそれで十分だ。
「行くぞ」
校舎へと向かう。
しかし、彼女は動こうとしない。
「どうした?」
彼女は後ろ手に俯き「あーえーと……」と言っている。
本当にどうしたのかまた心配になってきたところで
「あートレーナーさん今日はセイちゃんやる気が出ませーん。寒いし雪降ってますよ?こんな日は部屋で暖かくするべきじゃないですか?そういうことにしましょう。はい決めた」
そう言って彼女は競歩のような速さで自分の横を通り過ぎていく。
彼女にとっては早歩きくらいのつもりなのだが、こちらはジョギングするみたいな感じで追いかける。
今日のスカイは様子がおかしい。
さっきまでは笑っていたが今は少し怒っているようだ。
イタズラをやりすぎたと反省しているのかまたは別の要因か分からないが、今日はトレーニングしても有効的ではないなと感じ取る。
とりあえず機嫌を直してもらわないとだなと考えていると、気が付けばトレーナー室の前まで戻ってきていた。
ドアの前で待っていた彼女が肩にかけていたコートを渡してくる。
返してもらった時にポケットに入っている物を思い出す。
「あ、そうだ。これスカイにあげるよ」
「え?」
コートのポケットから手のひらサイズの箱を渡す。
朝コンビニで見つけた猫の形をしたチョコレートだ。
自分はトレーナー室のドアを開け、コートをソファに置く。
「今日はスカイの言う通りかもしれないな。急な雪だったからメニューも整ってない。さっき調べたら明日も降雪の可能性があるらしい。明日、本格的な雪中のレース練習をしてみたいと思うんだけどどうかな?」
振り返ったらまだ彼女は廊下に立っていた。
しかも何故かこちらを睨んでいる。
さっきよりも不機嫌そうだ。
ますます訳が分からなくなる。
「スカイ、今日は本当にどうしたんだ?」
彼女のことが心配になり、声をかけながら近づくと大きなため息が聞こえた。
「……なんでトレーナーさんが今日サプライズをするんですか?さっきはうまくいったと思ったらうまくいきすぎてうまくいかなかったし、この瞬間ならいけるとおもったのに……」
珍しく彼女が愚痴を言っている。
それに今この瞬間も何か企んでいたようだ。
「今日は練習なしってことですよね?じゃあ帰りますね。それじゃあまた明日」
彼女はこちらの返事も聞かずに去っていく。
廊下をすぐに曲がり彼女の姿は見えなくなった。
今日は色々と大変だったなと思いつつ、トレーナー室の中に入りドアを閉める。
とりあえず明日は来るようだからその準備をしようと考えていると
コンコンコン
ドアがノックされる。
「どうぞー」
声をかけるが入ってくる気配はない。
何事かと思い、ドアを開けると目の前には誰もいなかった。
代わりに足元に何かが置かれている。
ラッピングされたハートの形の箱だった。
走る音が聴こえたので廊下の先を見てみると、銀色の尻尾が一瞬だけ見え音が遠ざかっていった。
箱を開けてみると中にはハート型のチョコが1つ入っていた。
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全文(3305字)は小説で
novel/17000645
2022-02-13 15:00:25 +0000