もう君を絶対に離さない

惹音《ジャノン》
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友人卓にて開催されたオリジナルシナリオ「巫女少女は妖精の夢を見るか?」2部より

20年3月ごろのスクショ。
※以下長文注意

小鞠総合病院。当然のごとく割り当てられた1人部屋の扉の前に花乃、彩、フィアら8人が立っていた。
花乃
「…この部屋だ」
花乃が扉に手をかける。その手は小さく震えている。
花乃
「…やっぱ、何回見てもこの光景は辛ぇわ」
ゆっくりと開かれた扉の先には、無機質なベッドの上に眠るかんなの姿があった。
花乃たちは神妙な面持ちのまま、彼女の近くへと歩み寄る。
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かんな
「…………………………」
真っ暗な空間。何もなく、何も見えないその場所でかんなは一人うずくまっていた。
スッ…と扉の開く音がし、複数の足音がこちらに近づいてくる。
「…3日ぶり…だな」
植物状態で身体を動かすことのかなわない彼女が外の情報を得る手段は、耳から入ってくる音のみ。その耳が、聞き慣れた女性の声を拾っていた。
かんな
「…お嬢様…?おじょーさまなの?」
それが自分の最も信頼する存在、花乃の声だと知り、思わず立ち上がる。…だが、同時に蘇る3日前の記憶が、彼女をうなだれさせた

花乃
『いつもこう思うんだ。あの扉を開けたらかんなが起きてて、私の名前を呼んでくれるんじゃないかって
…だけどさ。もう、疲れちまった
意味もない妄想に縋るのも、扉を開けて、現実をつきつけられるのも』
『だからさ。決めたんだ……こんな寂しい病室じゃない……天国に行ってからちゃんと結婚式をあげようって
まずは、ちゃんとこっちで全部終わらせるから……………。
お前をこんな姿にした奴ら全員ぶっ殺して、ちゃんと仇を取ってくるから
待っててくれ』

かんな
「そっか。復讐……もう、終わったんだね…」
血に塗れた花乃の姿を想像し、顔を伏せる。
花乃
「長らく…待たせちまったな」
かんな
「……おかえりなさい、お嬢様……」
聴こえてくる声に返す言葉は暗く重い。
花乃
「すぐに、楽にしてやるからな」
かんな
「…うん。
これで…やっと解放されるんだ……
何もない闇の中で、ただ奇跡を待つだけの、辛いこの時間から……」
ついに、全ては終わる………花乃の手によって意識が絶たれる瞬間を待ち、かんなは身構えた

花乃
「フィア!始めてくれ!」
かんな
「………え?」
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フィア
「…彩さん、真名を」
一方、病室では慌ただしく人が動き始めていた。

「うん!
任せたよ、"ステラ"っ」
"ステラ"……それは彩にフィアと名付けられた妖精の真の名前。
真名を呼ばれた妖精は、普段では出し得ない強力な力を発揮できるようになる。
彩に真名を呼ばれたことで、フィアの体が光り輝く。その輝きはあまりにも強く、彩たちはあまりの眩しさに思わず目を閉じる。

…………目を開けてフィアを見ると、その姿は大きく変化していた。
背中の翅は光り輝き、表面には不思議な紋様が刻まれている。
普段の幼さを感じる小さな少女はそこにはなく、女王と見紛う程の神々しさを放つ美女が、そこにいた

「これが、フィアちゃんの本当の姿…」
その美しさは、普段からフィアの姿を見ていた探索者たちも思わず見惚れてしまうほどであった。

フィア
「…妖精姫ステラの名の下に命じます
異界より我が元にその姿を現しなさい
…接続、ユグドラシル」
そうフィアが命じた直後、部屋には大きな変化が訪れた。
…辺りを母の胎の中にいるような心地よさが包み込んでいく………
フィア
「…はぁ……はぁ…
神樹、ユグドラシルの、顕現を…確認しました。……委ねます」
花乃
「ああ。
…私が、かんなとの約束を破るの、これが初めてだな」
「(私がかんなに向ける想い…護れなかった後悔も、もう一度話したいって願いも次は護るって決意も
…かんなに向ける、愛情も
全部、全部を乗せて、この魔術を届ける
かんな…戻ってこい…っ!)」
「…神樹ユグドラシル
月の雫…っ!」
花乃が強く言葉を放つと、かんなの頭上に、それはそれは美しい一輪の花が咲き誇った。そして……ぴちゃん、とその花から落ちた一滴の雫が、かんなの口へと入っていった…

…………………………………………………………。

ゆっくりと、かんなの目が開く。
その目は、しばし何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回し、やがて花乃と目が合う
花乃
「…かんな…?」
かんなはゆっくりと瞬きをしながら、花乃のことを見つめる。
かんな
「…ぁ………ぁぁ……」
何週間も眠っていたせいか、かろうじて声と呼べるというような、そんな掠れた声だが、それでも懸命にかんなは呼びかけに答えた。
花乃
「…夢みたいだ」
「…いや、夢でもいいかもしれねぇな
かんながいるなら…現実でも、夢でも、なんでもいいや」
本当に帰ってきたんだ………それを確信した花乃が、かんなを思いっきり抱きしめる。
かんな
「………お…しょ……さま…」
それに応え、弱々しい動きながらもかんなも花乃の背中にゆっくりと手を添えた

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2022-02-06 09:00:28 +0000