年始の玉

優穂

 今年一番の幻想。とある青年が住む家の玄関扉の取っ手に小さな紙袋がぶら下がっていた。
 宛名書きも手紙もなく、身に覚えもない。
 仕方なく確認しようと中に入っていた小箱の封を開けた拍子に七色の珠が転がり出た。

「どうか助けてくださいまし。」
 突然の声に驚く青年をじっと見詰めるつぶらな瞳が、その珠の中にあった。
「ど、どういう状況?」
「わたくし、妖精のホズミと申します。この度、恩師に感謝を伝えようと珠に気持ちを籠めていたら
うっかり誤ってこの珠に閉じ込められ出られなくなってしまいました。何方か存じませんが助けて
頂けないでしょうか。」

 不安と緊張がせめぎ合う作り笑顔でじっと青年の言葉を待つホズミ。
「何をすればいいの?」
「感謝します。珠を壊す魔法でわたくしを引っ張り出して頂くか、このまま館の迷宮内にある妖精の国へ連れて行って頂けないでしょうか。」
「物理的に壊してもダメ?そうかぁ。なら“館の迷宮”にはどうやって行けばいいの?」
「分かりません。」
「え?どうやってここまで来たの?」
「気づいたら箱入りでここまで運ばれて参りました。平たく言うと遭難です。」
「ふーん。そうな・・・、えっと、助けてあげたいけど、他に何か方法はないの?」
「分かりません。あたしまだ見習いなので世間のことは何も知らないの・・・あっ、です。」

「困ったなぁ。何か良い方法は・・・うん、良し。じゃあこうしよう。
君の似顔絵を1枚、描かせてくれないかな?そしてその絵を添えて、
“今年一番に落とし珠と迷い妖精のホズミを預かっています。何かご存知の方が
いらっしゃいましたらコメント欄へご連絡ください”ってね、Pixivに投稿しよう。
きっとすぐに帰る方法が見つかるよ。」
「ほんとう?そうだとしたらとっても嬉しいわ。貴方にも皆さんにも感謝の気持ちをあげないとだめね。
・・・それで、そのPixivって何ですか?」
「それはね、魔法じゃないけど、魔法みたいな関わりをもたらす美と才能と知恵の宝庫だよ。
そして僕が住む、そして君が今居る世界そのものの名前だね。」
「・・・?」

こうして青年は新年早々、忙しさと同時に新しい吉兆の玉を手に入れた。

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ClipStudioPaint

 明けましておめでとうございます。昨年は本当にありがとうございました。今年も全力で参りますので、少しでもお楽しみいただければ幸いです。

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2022-01-01 10:00:05 +0000