幸せ行きの切符

こばひろ
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「...君も、一緒に来ないか」

呆気に取られて、何も言えない。今まで自分の心の中を何度も掠め、その度に振り払い忘れようとしたあれを、目の前にいるこの誰かは「今日はトーストにハムでものっけて食べないか?」くらいの気軽さで差し出してくる。言ってくれやがる。
無理だ、出来る訳がないと言ったらこの誰かは困ったような微笑みを浮かべて、照れ隠しの言い訳っぽい事を口にした。その言葉の大半はよく理解出来なかった。焼け焦げた機械の残骸が散らばる荒地に咲く一輪の花のように、脆く気弱で、なのにどこまでも美しく眩しい微笑みだった。

本気で言っているのか、と自分の瞳は無意識に問い掛けていたのだろう。この誰かは深く頷き、自分が想像していたよりずっと大きな右手を前へ差し出した。
この手を取れというのか、いや、この手に載った何かを受け取れというのか。破壊された秩序が生んだ呪いと憎悪を乗り越えた先に広がる、自分がずっと今まで望んできたあれを、あの未来を。

「馬鹿げているよ」

そう口にした自分の膝はやがてこの線路の上に頽れる。目の前の世界はピントが合わなくなって、だんだん輪郭が見えなくなっていく。自分の顔がくしゃくしゃの泣き笑いに変わっている事に気付くまで、だいぶ時間が掛かった。

//今年最後の投稿です。タイトルは、今は無き国鉄広尾線の名物だった“愛国発-幸福行きの切符”にちなんでおります。
最近とあるアニメを1,2作ほど観る機会があったのですが、どちらも「幸せになってほしいなぁ~」と思うキャラが沢山いたので、そんな気持ちを創作のきっかけに制作しました。

最後になりましたが、イラストをご覧下さったり、温かいコメントを下さった全ての皆様、今年も本当にありがとうございました。
私こばひろは喪中の為、年明けの記念イラストの投稿などは控えさせて頂きますが、来年も何卒よろしくお願い申し上げます。皆様よいお年をお迎えくださいませ。

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2021-12-31 03:50:49 +0000