「皇子様も御出陣なさるのね」
眼下に集結するセントラル解放軍を眺め、緑髪の娘が呟いた。
「……従者の私と行動を共にすることで、味方に、故郷の友に謗られることもあろう」
背中合わせに立つ男が言う。
「知っているわ。けれど私がいればあなたは、傷ついた子供に遠くから薬草を投げなくても(illust/8933527)済むと思うの」
二人が佇んでいた鐘楼の鐘が高らかに鳴り響き、大聖堂から聖歌が響く。男の肩に灯る炎が揺らめいた。『樹天使の抱擁』から具現した黄金の音叉と、『翼ある城』に伝わる魔法の竪琴を手にした娘がそんな男を肩越しに見つめ、おもむろに聞いた。
「……ザンクトリアのヴェスト港に、とても料理が美味しい宿があるって聞いたのだけれど。お弁当がすごく評判な……」
張りつめた表情の男が思わず目を瞬かせ、拍子抜けした表情で答える。
「もしかして、ルミカ亭(illust/9433160)のことだろうか」
「ザンクトリアに行ったら絶対に行こうって決めていたのに、行きそびれちゃって」
「……彼の地に行ったことが?」
「あるわ。バシタールで大雨が降って、大変だったけれど」
「あの地で雨が降ろうとは」
「あの時は本当にたっぷり祈ったわ。奇蹟が起きたのも、目の当たりにしたわ」
夜の風に、娘の豊かな緑髪が揺れた。
「けれど、祈っても救えなかったグランミリオンの蝶達(illust/9388277)や、故郷で墓所もなく眠ってる姉様達の為にも、今度は、違う方法で、違う道を歩むことにしたの。……さあ、行きましょ。あなたが一緒にいてくれて、本当に感謝しているわ」
■洗濯詩人【illust/8532882】啼惨の志士【illust/8873764】
★素材お借りしました(http://p.tl/nGod)
2010-03-19 09:48:41 +0000