Rose garden

月魄(つきしろ)

 意外な事に義姉が薔薇園に行きたいと言い出した。

 魔法学園が明日早めに終業するので寄り道したいという。
 園は園でも義姉ならば農園を選ぶと思っていたので少々驚いた。
 花も育ててみたいのかな?
 でも花ならメアリの方が適任な気がする。
「僕、花の知識とかそんなに無いけど本当に僕で良いの?」
「最近2人でお出かけして無いでしょ。週末から連休になるじゃない?お家に戻るついでにたまには一緒にどうかなぁって思って」
 そういえば生徒会の仕事も忙しかったし、それが影響してか放課後から寮までほぼいつものメンバーで行動を共にしてた気がする。
 それにしてもカタリナの方から2人でと言ってくれるなんて思いもしなかったので気持ちが高揚してしまった。

「実はね、薔薇園の中に美味しいお菓子を売ってるお店が出来たって噂があってね、薔薇をモチーフにした焼き菓子とかタルトとか…どうしても食べてみたいのよ〜。お母様にこの事気づかれたらまた買い食いしてって怒られちゃいそうだからタイミングを見計らっていたのよね〜」

 あぁ、そういう事か。
 義姉さんが薔薇に興味があるなんてオカシイと思った。
 いや、そこまでいうのは流石に失礼かもしれないけれど…だって義姉さんだよ?
 でもまぁ、腑に落ちたし折角のお誘いなのだからここは素直に「喜んで」と答える事にした。

 翌日、天気は快晴。
 みんなに気づかれぬ様、平常心を保とうと心掛けているのだが午後からのお出かけが楽しみで仕方がない。
「何やら心ここに在らずの様ですが如何されましたの?」
 流石メアリ、洞察力が鋭い。
「天気がよいので気分が良いなぁと」
 決して嘘は言っていない。あとは、カタリナがポロッと口に出さない事を祈るばかりだ。
「カタリナ様も今日は随分とご機嫌ですね」
 ソフィアもこういう時は、何故か勘が鋭い。お願い、義姉さん…2人だけでなんとか…!
 懇願する様にカタリナを見つめると珍しく察してくれたらしく
「今日はいい夢を見れたので気分が良いのよ〜」
 きっとその事は本当の事なのだろう。2人とも「うふふ、そうだったのですね」と顔を綻ばせいつもの女子トークが始まった。
 あとはジオルド様が問題だなぁ。こういう時は必ずやってきて女子たちを押し退け我を通そうとするのだ。しかしそれは杞憂で終わった。
 後日アラン様から教えてもらったのだが、正確には僕の予想通り途中までやって来ていたらしいが急な公務が入ったらしくその場を後にしたらしい。 

 何事もなく残りの授業も終わりこの連休寮に残る者、家に戻る者で外はあふれている。
「あら、カタリナ様もご実家に戻られますのね」
「家の畑の様子もたまには見てあげたいのよね〜」
「寮の畑の収穫は、この前お済みになられましたものね」
「戻ったらトムじいちゃんに次植えても良さそうな苗を聞いてこなきゃ」
「ふふっ、連休が明けたらまたお手伝いさせてくださいませ」
「私もお手伝いしたいです!」
「2人ともありがとう〜!それじゃぁ、またね!」
 2人に手を振りいつものように馬車に乗り込むとカタリナの心はもうお菓子の事でいっぱいになっている様で指を折りながらお菓子の名前を上げていく。
「いつも言ってるけれどあまり食べ過ぎちゃダメだからね」
「今日は、お昼ちょっとだけにしたから大丈夫!」
 これはきっと大丈夫じゃないパターンだろうな。多分食べきれないほどのお菓子を注文する筈だ。僕はお茶だけで様子を見て義姉が残してしまいそうになったらそれを頂くとしよう。

 程なくしてお目当ての薔薇園に到着した。
 それはそれは見事に咲き誇っており、花にそこまで興味のない僕でも感嘆の声が出た。
 暫く見入っていたら横に居たはずのカタリナが消えて空の上から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「すっごーい!なんて良い眺めなの」
「ちょっと義姉さん!なんで木に登ってるの‼︎」
「いやぁ、久々に登りやすそうな木を見たら思わず」
「思わずじゃ無いよっ。今日は人が少ないから良いものの誰かに見られて義母さんの耳に入っても知らないよ!」
「あわわわわ、それはダメだわ!直ぐ降りるわね!」
 こういう時は、会話に義母さんを出すのが一番効き目がある。
 スルスルっといとも簡単に途中まで降りたカタリナは何故か途中で足を止めた。
「どうしたの義姉さん?」
「これくらいだったら大丈夫そうね」
「うん?」

「キース、受け止めてね!」
「うん?!」

 確かに高さ的には問題ないけれど…全く、本当毎回唐突なんだから。
「…わかった。子供の時みたいに下敷きにはならないからいつでもどうぞ」
「えへへ。じゃぁ、行くわよ〜」

 無邪気に宙を舞った彼女の髪や白い肌が陽の光で透き通りキラキラして眩しく、僕には天から舞い降りた女神に見えた。

 数時間後、やはりカタリナは予想通り食べきれない量を注文し途中で悶絶し涙目で訴えかけてきたので残りを頂いた。

 勿論、口に運んでもらって。

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2021-12-02 01:22:04 +0000