Merry Christmas, Prof. Snape
Im 'dormientes et ego(微睡む君と私)
「……ブ、セブ、セブ」
嗚呼、この声は……リリー。
僕をいつも呼ぶ声だ。あの、公園で会っていた入学前の、幼き時代のリリーの声。
「ほら、セブ! クリスマスなのに寝坊して、全く」
でも彼女は亡くなった、大切だったのに。僕が、僕が……
「ほら起きなさい!!」
せめて、夢で逢えれb「やっと起きたわ、どうした? 一緒に今日こそ祝ってくれるのでしょ!」
突然抱き着かれて、暖かく柔らかい感触が額にくっついて。慌てて起きてみると、照れた幼き姿の君がそこにいた。
「わ、私は一体……君はリリーなのか?」
机の下で杖を握りしめる。
リリーは僕のせいで亡くなった。だが、目の前の君は間違いなく……だから、ポリジュースで誰かが化けている可能性が高い。
まさか古巣の……或いは。
「もう! お母さまと私を混合しないでっていっているでしょ!!」
確かに似ているって誰からも言われているけど、ほら、この目を見てよ。
そう嘆く彼女の目をよく見てみると、緑ではなく、黒系だった。そう、自分の目と同じく。
「お母さまが今年はエヴァンス家直伝のクリスマスプティング用意したって言っていたの、だからほら、早く行こうよ!!」
腕をつかみ、最速する娘。どうやら彼女は私とリリーの娘の様だ。
「あ、ああ……」
私は娘の腕を取ると、暗い魔法薬教室を出てホグズミードへと向かっていた。
きっとこれは夢だ。しかも、あんなひどい言葉を投げつけ、いのちさえ奪った私が見ていい類の夢ではない『幸せな夢』。
けど、一時でもいいからリリーに逢いたくて。
「リリー……」
スピナーズエンドの自宅前へ姿映しすると、未だかつてないほど暖かな光が窓辺から漏れているのが見えた。今日はホワイトナイトだけあって空が青白い灰色な分、暖炉色の明かりが鮮明だった。
「ほら、早くいこう! 母さまがローストビーフを今日は用意するって!!」
はしゃぎながら私の手を引く娘。紅い、リリー似の長髪へ雪の結晶が絡んでいた。少しだけ油っぽく光っているのは、私の髪質のせいか。
そっと彼女の頭と肩から雪を撫で落としながら、私も自宅の扉へと向かう。
自宅からドタドタ……と足音が響き、次の瞬間大きく開いた。
「セブ、お帰り!!」
嗚呼、リリー!!!
娘を間に挟むように彼女を腕の中に抱きしめた。嗚呼、リリー……リリー!!
「おかえりなさい、あら、指先が冷えているわ……もう、セブ! 貴方熱心なのはいいけれど、もう少し自分の身体はねぎらってよ! じゃないと、心配するでしょ?」
今日も教室で寝落ちしていたみたいじゃない。
一瞬目を三角にしつつ、心配そうにへにょりと眉を下げるリリー。
「すまない、つい「ついも何も、ちゃんと気を付けていればそうならないでしょ!! もう全く」「まったく!」」
リリーと娘に笑われて、思わず頭を掻いた。
そうしてリリーは冷えた私の指先を握って、「ほら、早く」と部屋へと誘った。
目が覚めると、やはり寝落ちしていた。
ただ、違うのは……ここには君が居ない事。君と、私の娘も。
「……リリー」
当然だろう。
私が、私のせいで君は死んでしまったのだから。
『セブ、もう馬鹿ね。そんな風に自分ばかり責めて……本当に馬鹿よ、馬鹿過ぎるわ! あの時何で私に行ってくれなかったの? 愛してるって、ごめんて。それだけで、私は……』
そうだよな。僕は馬鹿だった。
僕は君を傷つけて、挙句命を奪って。
「でも、僕はリリー……それでも、」
君を愛しているよ。永遠に。言葉にはもう、出来ないけれど。
『ええ本当に馬鹿よ、セブ。セブの馬鹿、阿呆! しかめっ面、意地っ張り……でもね、私も愛しているから、だから……だから、少しだけ、こうして抱き締めさせて。今日くらいは』
リリー……そんな風に、僕へ優しくしたら駄目だよ。
ただでさえ僕は、僕という存在自体が罪だというのに。
だけどね、本当は少し嬉しいんだ。だから苦しいんだけど。
翌日、目が覚めるとやはり教室で寝落ちしていた事が判った。
けれど、あの『リリー』は本物だったのかもしれない。
だって、あの『白い羽』は僕ではなく、君の魔力で出来ていたから。君と、何故か君の娘の魔力で。
これは、ハリー・ジェームズ・ポッター改めハロルド・ヨハン・リンフレットが失踪する1年前の出来事。彼が、リリーの為に彼女の息子『ハリー』を命がけで守ることを決意した夜の事だった。
但し、その決意が守られたかどうかは謎だが(※正史から脱線事故が起こった為)
2021-11-18 15:03:08 +0000