地球の近くの宇宙空間に謎の物体が現れた。通信を試みても返信は無く、全くの正体不明。
私は、連邦軍の命令で物体を調査に向かった。一人で宇宙船に乗り、物体に近づく。
物体は巨大な円柱型で外壁の所々に太陽光パネルがついている。だが、外からは推進器らしき構造物は見当たらず、まさに宇宙を漂流してきたのだと分かった。外には窓が無く、外から中の様子を伺うことはできない。
私は、覚悟を決め、宇宙服を着て物体の中へ侵入した。中は無重力で真空状態、一本道を抜けると、広い空間に出る。
円柱の内側のように見え、円形の両側に照明がついている。太陽光パネルで作られた電力を使っているのだろう。空間をぐるりと囲む壁には何かをぎっしり置いている。近くの壁に寄ってみると、詰められていたのは子供のころ以来見ていなかった紙の本だった。壁一面に大量の紙の本が引き詰められていることに気づいたのだ。
『いらっしゃいませ。どの本をお探しですか』
突然、スピーカーから女性の声が聞こえた。辺りを見渡すと、自分に対して上の方から頭を下にして降りてくる影が見える。バブルヘルメットと生命維持装置らしき装置を装備しているが、それ以外は地上で着るような礼服を身に着けている。また、ヘルメットの隙間から清らかな黒髪が出ていて、ふわふわとなびいている。
「あなたは?」思わず私は、彼女に問いかけた。
『私は、フミカ。この図書館の司書です』
『はいカット! チェック入ります』
スピーカーからの声に、文香はハアと息を吐く。すると、頭全体を覆うバイザーの口元が白く曇る。文香がいる場所はセットの内部とは言え、マイナス150にもなる。文香がそんな空間で平然としていられるのは、身に着けているスーツとヘルメットによって外気が遮断されているからだ。
文香はある映画に出演が決まった。突然現れた宇宙を漂う図書館を舞台に、調査に来た主人公と図書館を管理人である女性司書との交流を過去に失われた紙の本をとおして描くSF物だ。文香はヒロインの司書の役に選ばれた。346プロには、この作品に対して強みがあった。JAXAなどと協力してアイドルを単独で宇宙へ打ち上げた実績があったからである。文香が今着ているスーツや衣装もその時に開発されたものをもとに作られている。そこで宇宙が舞台なら実際に宇宙で撮影しようとなったのである。
文香が宇宙飛行の訓練を修めると、図書館のセットを載せたロケットを打ち上げ、セットが地球を回る軌道に乗ったのを確認すると、文香が飛行船で宇宙へ行き、セットに乗り移ったのであった。ちなみに、映画は、主人公の主観で描かれる為、ドローンのカメラを地上から操作して撮影している。そのため、セット内には文香しかいない。
『はいOKです。今日の撮影は以上です。お疲れ様でした。』
「はい、お疲れ様でした」
『明日は、午前10時から……って宇宙じゃ日付の概念ないんでしたっけ? すいません』
「いえ、お気になさらず」
監督と明日の予定について確認した後、今度はプロデューサーの声が聞こえてくる。
『お疲れ文香。今のところ体調に問題ない?』
「はい、問題は無いです」
『そうか。あと初めての宇宙はどう?』
「そうですね。何と言いますか……不思議な感じです。常に浮いていて、上も下もなくて。地上では感じたことが無い感覚です」
『無重力を楽しんでいるようで何より。でも、今は一人だから気を付けて。装備にも問題ないよね』
「はい、少々の息苦しさはもう慣れました」
『まあ、それについては数日間の辛抱だね。帰ってこないとヘルメット含め脱げないし。帰ってきたら存分に空気を味わうといいよ』
「ふふ、その時の空気は……今までで一番おいしいものでしょうね」
『そうだろうね。ああ、あと一つだけ、このあと長い時間、間が開くけど図書館の中に何冊か本物の本を紛れさせているから、暇なときに読んで』
「! ありがとうございます」
『でも、読書に集中しすぎて寝不足にならないようにちゃんと休憩とってね。わかった』
「……分かりました」
『じゃあ、そろそろ時間だから。また明日』
「はい、また明日」
声が聞こえなくなると、とたんに静寂が包む。文香は、靴と腰についているスラスターを操作し、壁の本棚を探ると、プロデューサーが言った通り本があった。文香は、一つを手に取り読み始める。いつもなら椅子に座っているのを、今は何も支えがないまま浮いた状態で読んでいる。その感覚は文香に不思議と気持ちよさを与えていた。
ここまでくっそ長いキャプション読んでいただきありがとうございます。
というわけで、アイマス✖自作宇宙スーツシリーズの鷺沢文香編でした。
イラストの説明がてら、ちょっとしたショートストーリーを載せるはずだったのにどうしてこうなった。
あと、自分とは真逆な向きで浮いている構図が描きたかったというのが理由です。
2021-09-16 16:48:07 +0000