【PRWS】少女の覚悟、奇跡の条件【防衛】

isen810

|ω・‵)
|´・ω)つ旦ソッ
|ミ 旦

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「ぐ、おおおおおおおお…」

「ふん、相変わらず“れでぃ”に対する接し方がなってないんだから」

鳩尾を抑え蹲るマサヨシを見下ろして、少女は腕を組み口をとがらせる。
少女は明らかに不満をアピールしているが、痛みでのたうち回るマサヨシはそれどころではない。

「て、め…、コレは洒落に…!」

「私を忘れていた罰ですよーっだ!…それに、あのまま勢いに任せて行動してもどうしようもないでしょうに。プランの“ぷ”の字もないんでしょう?マサ兄」

「…ぐ」

マサヨシの抗議は一言で切って捨てられて、そして返し刃で放たれた反論にぐうの音しか出ずに押し黙る。
実際マサヨシはノープランで勢いで突っ走ろうとしていたのは事実だったので反論できなかった。
ぐぬぬと唸っているマサヨシを眺めてため息を一つ吐いた少女は、ピンと人差し指を立てて諭すようにマサヨシに向かって口を開いた。

「そうやって他人の為に動けるのはマサ兄のいい所だけど、それと同時に条件反射で何でも自分一人で行動しようとするのはマサ兄の悪いところだよ?」

「いや、でもだな」

「聞いて」

それでも何か言い返そうとするマサヨシの言葉を少女はまたも切って捨てる。
のたうち回るほどの痛みでさえも引かない感情の熱に浮かされていたマサヨシだったが、目の前で腰に手を当て此方をみやる少女の迫力に負け口の中まで来ていた言い訳を引っ込め押し黙る。

「マサ兄、責任を感じてるんでしょ?マサ兄のお爺ちゃんの事、島の…私達の事、ガイちゃんの事、そして今陥っている状況に。だからマサ兄は一人で事態を解決しようとしてる。…それこそ、自分の命を引き換えにしてでも」

「…」

図星だ。
マサヨシは今陥っている状況を、ゴッツでもガイスデッドではなくマサヨシ自身が悪いと確信している。
ゴッツの豹変は、見方を変えればマサヨシの所為であるとも言える。
島が襲われたのはマサヨシがその島に居たからで、現状に関しては日記を読んで精神的に不安定になっていた状態で無理をして出撃し陥った、謂わば危機管理能力の欠如によって陥った窮地だ。
だからこそマサヨシは二人が助かって且つ現状が丸く収まるのならば自分の命と引き換えでもいいと…否、むしろ此処が死に場所だと考えていた。

もとより、マサヨシは既に死んだ人間が悠々と現世にしがみついているべきではないと思っているのだから。

「バッカじゃないの?マサ兄のお爺ちゃんの事は“unknown”が悪くて、島の事とガイちゃんの事、今の状況だって全部マサ兄のお爺ちゃんが悪いに決まってるじゃん」

まあそんなマサヨシの考えがお見通しだったからこそ少女は誰よりもマサヨシに対して…否、本当は最初から怒っていた。
ああそうだとも、何よりもマサヨシの事を想う少女が、これまでの自己犠牲に満ちたマサヨシの道筋に怒らないはずがなかった。

「何も悪くないのに自分の中に渦巻く感情が辛いからって、何もかもを“自分が悪かった”なんて事にして生きることから逃げないでよ!」

少女は覚えている。
最初はEDUの復興部隊に対して隠しきれない不信感や嫌悪感を滲ませていた島の人々に対してまっすぐぶつかっていくマサヨシの姿を。
アルビノという見た目の所為で島民からさえも気味悪がられていた少女にすら分け隔てなく受け止めてくれたマサヨシの姿を少女は覚えている。

「全く責任なんて感じる必要なんかないのに、変な責任を感じて全てを独りで背負おうとしないでよっ」

少女は覚えている。
島民から邪険にされようとも、部隊の人からも止められようとも、人と繋がろうとする事を決して諦めなかったマサヨシの姿を。
根負けした島民との呆れたように苦笑いする部隊の人々の間で嬉しそうに笑うマサヨシの姿を少女は覚えている。

「…ずっとみんなの幸せを諦めなかった貴方が、貴方の幸せを諦めないでよ…!」

少女は覚えている。
島が襲撃に遭った際、次々と部隊の人々に先立たれ部隊最後の一人になったとしても決して諦める事なく島民を守る為にそれこそ血反吐を吐きながら防衛戦に挑んでいったマサヨシの姿を。
傷付いて、傷付いて、守りきれなくて、流れそうになる涙を必死に堪えて、それでもとボロボロになりながら戦い抜いて行ったマサヨシの姿を少女は覚えている。
死して尚、まるで昨日の出来事かのように少女は鮮明に覚えている。

だって、そんな風に真っ直ぐ走るマサヨシの事を少女は好きだったから。

だからこそ自分たちと別れてからの、まるで自分自身を罰するかのように、痛めつけるかのように、ただひたすらに戦場に臨むマサヨシの姿は、少女にとって本当に見ていて辛いものだった。

故に少女はマサヨシの事を救う事を、そして彼に呪いを掛けることを決意した。

「幸せになってよ、私たちの事を想ってくれているのなら。私たちはね?今生きているマサ兄が幸せそうにしているだけで本当に満たされるんだよ」

私たちの為に幸せになって。
これは少女からマサヨシに送るド級の呪いだ。
この言葉を受け取ってしまえば、マサヨシは自身の行動に大きな制限が課せられる事になる。
だがマサヨシにその言葉を跳ね除ける事は出来ない。
出来る訳ないのだ、先立つ者からの祈りの言葉を跳ね除けることなどマサヨシには決して。

「…俺は」

他の誰でもないマサヨシが救えなかった少女によって、復讐を決意した時から外れていたマサヨシの“たが”が嵌め直される。
自身の命を軽視する意志にストッパーが施される。
幸せになれという呪いによって、迂闊にマサヨシは自身の命をベットする事が出来なくなった。

「それに一人で出来る事なんてたかか知れてるよ。それは色んな人に…ガイちゃんに常に助けられてきたマサ兄が一番分かってる筈だよ」

そして少女は、捨身の選択が出来なくなり戸惑うマサヨシを導いていく。

「誰かを頼って。マサ兄は“いい人”だから、貴方が助けてって声を上げれば必ず誰かが助けに来てくれるよ。あの艦の人とか、自分の正義のままに彼処で戦いに参加している人とか…もちろん、私達もね?」

自分より誰かを優先してしまう優しい彼が他の誰かを頼れるように。
人並みの幸福に怖気付く彼が素直に人並みの幸福を享受出来るように。
だからーーーー

「助けに来たよ、マサ兄! 確実とはいかないまでも、ガイちゃんを救う方法と、あっちのマサ兄のお爺ちゃんの意識を蘇らせる方法を持ってきたよ!」

「っ!?」

「…ガイスデッド君を救う方法はともかく、もう一つの方はボクも初耳だねぇ?」

「今お願いしたら剣が割と雑に教えてくれただけなんだけどね!」

だからこそ少女は

「でも、それでもやってみる価値はある筈だよ!」

迷えるマサヨシに、奇跡の条件を持ってきた。

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2021-05-17 14:10:43 +0000