「おひめさま、泣いてるの……?」
◇◇◇
あらゆる生命を奪う大雪原。視界を埋め尽くす一面の白は、この地で息絶えた者の死装束のようだ。
そんな冷たい死の空気の満ちる雪原に、きらびやかなヴェールが舞った。
「ヌンフト殿」
「ああ、魔物だ。ヴェア、警戒」
「わかった」
眼前を横切る巨大な花嫁の影に、三人は即座に身構えた。
オニキス、ヴェア、ヌンフトの三人は、野営地周辺の安全を確保するため、周囲の哨戒を行っていた。
普段ならばヌンフトが影を伝って周囲に潜む敵影を把握することができるが、雪原は影が少ない。広範囲の索敵は難しかった。
ならば自ら足を延ばすしかないと、ヌンフト(とヴェア)はオニキスとともに周囲を探索していたのだった。
――やはり長年魔物退治を行ってきた聖騎士の勘は鋭い。オニキスを先頭に、かすかな魔物の気配を追って雪原を進んだ先で、現れたのがかの花嫁だった。
「どうする、オニキス。獰猛な魔物には見えないが」
「とはいえ、捨ておいては危険です。ここで仕留めましょう」
「いいだろう、支援する。だが怪我はするなよ、ハーレーに怒られる」
「御心配には及びません、小生にお任せを。ヌンフト殿にもヴェア殿にも傷一つつけさせません」
オニキスとヌンフトが機会をうかがっていると、二人の会話に気づいたように、ぐるりと花嫁がこちらを見た。
「あれ……」
とっさに、ヴェアが耳を澄ます。
「おひめさま……歌ってる……?」
物悲しい歌声が雪原に響き渡る。それは失われた愛を嘆き、求め、彷徨う孤独の歌のように聞こえた。
「―――ウシル」
歌う花嫁の影に、ヌンフトはかつての王の姿を想い出した。
花嫁を負おう深い闇は、王の瞳に似ていた。深く沈んだ、光を通さぬ闇の色。
「愛する人を永遠に――僕はその夢をかなえる、たとえ愚かな男の語るみじめな茶番劇だったとしても」
いつだったか。散りゆく花を愛でながら、王はそんなことをつぶやいていた。
――よくわからない。
そんな王の姿を見るたびに、ヌンフトは静かに首をかしげるばかりだった。神官として語らされている教義が、王と国のために都合よく編まれた物語でしかないことには気づいていた。しかし、なぜ王がそんな物語を必要とするのか、ヌンフトには見当もつかなかったからだ。
しかし、今は違う。
――ああ、あの闇は哀しみの色だったのか
ヌンフトは直感的に理解した。
「僕たちには永遠が必要なんだ」
全てが崩れ去った日、王が最後に放った言葉が脳裏をよぎった。
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めちゃめちゃドツボな花嫁さんがいたので会いに来ました!!!!!
お婿さんに先立たれたのかな!?!?つらいよね!?!?ヌンフトの王様もそんな感じでした!!!シンパシ~~!!!
夢攻撃喰らうかな~?ID判定楽しみ
なお、展開などは不都合あればパラレルスルーでお願いします。
《結果》
→73でした!ギリ回避か……せっかくなので喰らったことにしてもいいですか?いいよ!!!
というわけで捕食される直前まで寝ようと思います。オヤスミ……。
《こぼれ設定》
ヌンフトが仕えていた王・ウシルは死んだ恋人と永遠の愛を成就するために冥婚を行い呪われた身となった。しかし、実際は冥婚の儀は不完全であり、恋人の魂は消滅してしまいただ不滅の骸のみが残る結果となった。
ムカエリ族は不滅の死者となり永遠の愛を実現することを最高目的としているが、ウシル自身にとってはもはや達成不可能や夢物語でしかない。
それでもウシルは恋人の魂が骸の中にまだ存在していると思い込むことで永遠の愛を保った気になっている。ヌンフトを通して永遠の愛を説く教義を国民に広めていたのも自身の妄執を補完するためだった。
ヌンフトはウシルが正気ではないことに薄々気づいていたが、王妃がただの骸であることや愛のなんたるかを知らなかったため、微かな違和感を抱くのみだった。
■お借りしました
虚構と禍福の花嫁(illust/88775670)
オニキスさん(illust/87725972)
リールホース(illust/87959927)
■
ヌンフト(illust/88592484)
ヴェア(illust/87721354)
身長差ありすぎるようにみえるけど遠近法だよ……(目逸らし)
2021-03-31 06:32:19 +0000