◇
その色彩を印す
小さな幸運と奇跡を信じて。
◇
-------------------------------------------------------
最初に名前と出自のことを聞かれて少し驚いた。
聞けばそれらの情報が呪文の効き方にも関係してくるのだという。
…特別隠し立てするような過去はない。もう昔のことだ。
ただ少々長くなるので人に話すことはあまりなかったように思う。
少しだけ居住まいを正して呪文屋の青年に向き直る。
さて、どこから話したものか。彼の退屈しのぎくらいにはなればいいのだが。
-------------------------------------------------------
▷最終章で一章のインターバル投稿という大遅刻ですみません。
鯨骨峠の呪文屋さん【illust/88422837】
あまりにも素敵だったのでタイムマシン使いました。
時系列的には火の谷の遺跡に向かう前で…。
対価にありとあらゆる本とあったので唯一手持ちにあった本を出しましたが
不十分でしたら何かしら交渉したということに…。
ご都合悪い点はパラレルスルーでお願いします。
▷お借りしました(敬称略)
写本師ギシと謎のスシ【illust/87846647】
ティーパーティーランタン【illust/88119000】
シーディアン【illust/87777284】
非公式イベント
ゴルドマルの陶置物【illust/88492751】
店の陶器を勝手に割った形になってしまいますが…何か…いい感じに解釈お願いします(?)
ジルフェット【illust/87995219】
呪文は小さな幸運をお願いしました。
普段は帽子で隠れてしまう位置かもしれません。
※何か問題等ありましたらメッセやコメントよりご連絡ください
宜しくお願い致します。
◇pixivファンタジアMOH 【illust/87556705】
以下ちょっと長い身の上話です。
-------------------------------------------------------
◇
「名前はジルフェット・アレン・レーンです。
元の名前は----シルドと言います。
出身はセイダという小さな国です。えぇ、西の……デバイ高山に囲まれているところです。
そこでは同じ鉱山から生まれたはがね人が暮らしていて、ほとんどが生まれてすぐ兵士や騎士として育てられます。
傭兵業が盛んで近隣の戦争で成り立っているような国でした。
シルドだった頃の僕は……とても理想の騎士にはなれなかった。僕は弱くて臆病でしたから。
セイダは僕にとって生きづらい場所でした。
血の匂いも火薬も誰かの叫び声も好きではありませんでした。
そんなある日、遠征のため真冬の雪山を超えなければいけませんでした。
僕も一兵士として参加していました。
しかしその道中で僕は魔物に襲われ負傷し、仲間達とはぐれてしまったんです。
仲間達が自分のために引き返すはずないことは分かっていました。
もしかすると途中からいないことすら気付かれなかったかも。
しかしその日はひどい吹雪で──自分から探す気にもなれず、ただ座って自分を覆っていく雪を眺めていました。
その吹雪のなか一人の男性が私に近づいてきました。
彼は遭難したようで、なんとほとんど埋もれた状態の僕に助けを求めてきました。
──多分、誰かの役に立ちたいと思ったんです。
僕はなんとか起き上がって、彼を背負い下山しました。えぇ、とても大変でしたよ。
人のいる村まで彼を届けたあと、その場で気を失ってしまいましたから。
そのあと目が覚めたのは半年後だったでしょうか。体の修復のため長く眠っていたようです。
その半年の間で、故郷の方では僕はどうやらあの雪山で死んだことになっていたようでした。
国に戻ろうと、国境を越えるため故郷の役所に身分証を照会した時にそれを知りました。
遺体は見つからなかったはずですが、きっと魔物にでも食われたことになったのでしょう。
そう珍しくない話です。実際あの遠征の途中で亡くなった仲間は多かったようですから。
昔の僕は、シルドはあの日雪山で死にました。
そうして途方に暮れていた時、救助した男性が援助を申し出てくれました。
えぇ、それで養子に-・・彼の国で生活するのには戸籍が必要だったんです。
当時剣を捨てたはがね人が後ろ盾もなく生きていくのは難しい時代でしたから。
ジルフェットという新しい名前をもらったのもその時です。
それからは父の小説の仕事を手伝い、自分も小説家として、今もこうしてのうのうと生き延びています。
養父ですか?…他界しました。もう17年くらい前になるでしょうか。
すみません、やはり長くなりましたね。
…フッそうなんです。私はもう十分すぎるほど運が良かった。
きっと一生分の運を使い果たしてしまっています。
ですので今はわずかでも、あなたの力をお借りしたいという訳です。」
はがね人は冗談っぽくそう言っていたが、
その声にはどことなく奇跡を信じたいという切実さが滲み出ていた。
◇
2021-03-29 11:58:46 +0000