1945年1月。
崩壊した地上軍を支援する為、我が部隊(Fw190D‐9=8機)は地上襲撃部隊のFw‐190F‐8型6機の護衛の為に薄曇りの空へと舞い上がった。
敵ソヴェト軍は既に帝都ベルリンの間近に迫っている。
たった6機の襲撃機の支援攻撃など圧倒的戦力を誇る敵の前には焼け石に水だろうが、それでも無いよりはましだ。だが、地獄のような地上戦を戦っている戦友達の為にも攻撃は成功させなければならない。
暫く飛ぶと地上で頻繁に火砲の爆発光が伺えた。
残念ながら我が地上部隊の戦線は敵に破られたようだ。
下を見ると敵の重駆逐戦車群が我が地上陣地を蹂躙しているのが見える。
そして、穿たれた隙間にT34‐85の大軍がなだれ込んていく。
一瞬、体中の血が沸き立つ程の怒りを感じたが、長年の経験が私の思考を冷静にさせる。
空では先に頭に血が昇ったヤツが負けなのだ。
と、襲撃部隊のF‐8部隊が翼をバンクさせ、緩降下態勢に入る。
ほう。ヤツ等、JSU‐122を狙う気だな。
F‐8部隊の機体には250キロ爆弾1発と50キロ爆弾2発が搭載されている。
さあ、当ててくれよ。
狙い違わず6機が投下した250キロ爆弾の内4発は敵重駆逐戦車の車体上部を直撃した。
これで確実に4両は潰した訳だ。
外れた2発と同時に投下した50キロ爆弾もキッチリと敵歩兵を吹き飛ばしている。
と、機体の周囲に爆炎が上がる。
見ると3両程のメーベルワーゲンもどき(ZSU‐37)がこちらに向かってハデに砲火を浴びせてきていた。
さて、ズラカルとするか。
私は部隊の先頭に立ち、僚機を誘導する。
暫く飛ぶと、眼前に単機で飛ぶTu‐2を発見した。
私は機内電話で2番機に部隊の誘導を託すと、単機で敵の爆撃機へと向かっていった。
本来、我が独逸空軍の最低戦闘単位は2機だが、極端に機体配備数が減り、更に稼働率まで低下している現状で私は襲撃機隊の護衛任務を優先させたのだ。
敵機はイワンの爆撃機の中でも高速な機体だが、このD型(ドーラ)なら十分追いつく事が出来た。
私は余裕を持って攻撃位置に付き、まるで機械式時計のような正確さで射撃を始めた。
機首の13ミリと両翼の20ミリが同時に射ち放たれ、敵機の翼に吸い込まれていく。
僅か2斉射で敵機のエンジンに火を吹かせる事に成功した。
敵機は片翼をヤラれ徐々に高度を落としていく。
どうやら敵は胴着を狙っているようだ。
我が軍には更に追討ちをかけ、敵機が爆発するまで射ち続ける者もいるようだが、撃墜確実の相手に追討ちをかけても弾丸の無駄だし、だいいちそれではレッド・バロン以来の空の騎士道に反する。
例えそれがイワンであってもだ。
敵機が私の視線から消え、私が再び周囲を警戒しようとしたその刹那、突如敵機からの襲撃を受けた。敵はLa‐7。
私は瞬間的に機体を射軸からズラしたが今一歩遅かったようだ。
私の機体はエンジンに5〜6発喰らい火を吹き出した。
私はキャノピーを引き、機外へと飛び出した。
パラシュートが開くかどうか不安な高度だったが、どうやら幸運の女神は私を見捨ててはいなかったようだ。
地上に降りた私はパラシュートを切り捨てると味方陣地があるであろう方角へと歩き出した。
2021-01-07 14:35:11 +0000