もういいかい。
それまで、静観していた精霊が不意に、口ずさんだ。
精霊は賊の男にゆきうさぎの友達を踏み躙られ、ひどく絶望していた。
軽快な音がする。背負う樹木が焔ごと凍りついていく音が。
企画元:ポラリスの英雄歌【illust/80979654】
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□青星 (あおぼし) Fyllovolos-フィロヴォロス
[ 運命数:1/総ポイント:125pt/所属国:白雨国 ]
父:雪果【illust/85456412】(50pt)
母:アイデースさん【illust/85160566】
「この前の……持っていてくれたんだ。……あの、ねえ母さん、樹林の手前に白鳥が来てるんだ。あの子らは、実はいらないかもしれないけど……あのあたりの皆に分けてあげて、ちょっと、見ていたいな、鳥。母さんは見たことある?」
兄:雪解さん【illust/86415471】
「俺の代わりに啖呵切ってくれるのはいいんだけど、それで雪解が爆発してたら元も子もないだろ。
……ううん。今更だ。俺たち今までだって、二人で補ってたんだ、気に病んでも始まらない。
雪解のことは俺に任せてくれたらいい。……俺も、雪解みたいにちゃんと怒れれば、よかったんだがな」
「俺が暴れてもいいように、雪解もおいていかないでね。……背中、借りるよ。何をうたおうかな」
過去:白魔の叫号【novel/13713145】
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白雨国の山に棲むといわれる精霊のきょうだい。その弟。
影により陽光遮られた世は雪の種族には息がしやすいようだが、
雪山に実る植物らは果たしてそうでもない。
青星は母に倣い、陽光奪われた山の木々らが立ち続けられるよう、
兄とそのソラノツカイと共に山のあいだを日々飛び回る。
白焔すら気圧す冷気を纏うがゆえに手の届かぬものは多く、
小動物への憧れから蛇を切り、葉を飾り、何羽ものゆきうさぎを連れている。
物静かな様子と語気強い言動は達観したように見えるものの、
それは威厳を保つための殻であり、本質は童子のごとく傷つきやすい。
優しい心根ゆえに怒りを表現することを不得手とし、
厭う出来事があれども身の内に抑え込んでしまう。
激昂によりすべてを灰燼にする危険こそ小さい……が、
負の感情が一線を越えると爆発し、叫号とともに生けるものを氷像へ変貌させる。
□Skill(詳細CS3-4ページ参照)
▽雪隠し/▽白焔/▽金白砂子
▽エスカフラージュ/▽白魔の叫号
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▼婚姻:素敵なご縁を頂きました
鋭心さん【illust/85902236】
誰にも言ってはいけないよ。
じゃあねと見送った足跡は小さくて。
(後程追記します)
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やっぱり雪解がいなきゃ、俺ひとりでは満足にも動けないのだなと思った。
叫び上げそうな口角を引き絞る。此処には、あの子たちがいて、守ってきた木々がいる。今、雪を押し流したらどうなるだろうと考えかけたら、いつのまにかそうしていた。
すまない雪解。俺はそちらには行けない。
雪解のことを想った。父と母のことも、同じ山の子のことも、それから。
鋭心。きみの空気が好かった。楽しかった。
だから。
震える息を呑み込んでみると、躯のなかが雪で埋まるようだった。
ーー寒い。そう思った。
*
堅牢な氷塊より生える樹がひとつ。枝葉に霜を揺らしながら、鋭利で透い氷のように高くへ伸びる。
離れて突き立つ一対の巨角。天泳ぐ龍のなきがら。
雪山にすまう精霊の遊び声が、しんと止んだという。
魔王の寝息が漏れる頃。精霊の弟は、空を跋扈する影についぞ触れてしまった。負の情を掻き乱すという魔王の残滓が、白魔の叫びを呼び覚まさんとした。
だが彼は、爆発の声を抑え、飲み込んだ吐息ごとみずからの核を凍結した。氷像と化す躯、豊穣を抱くそれは宿り木の床と化す。
そして、躯を食らい立つ樹がひとつ。枝葉に霜を揺らしながら、鋭利で透い氷のように高くへ伸びる。
鋭い樹根がそこかしこの地表を裂いていた。入り乱れながら伸びた根は、さながら戦場に刺さり立つ得物のように、その刃の切っ先を天へ向けていた。
一矢を報いんとした形跡が、彼を取り巻きながら其処に凍っていた。冷たく閉ざされた其処に誰が近付けよう。……屹度、誰も。
不穏の風に戦ぐ樹の根元。硬い氷に、罅が入る。
*
ほんとうは。どうするのがいいかわからない。
空には帰れず春にもなれず、命の焔を燃やしきることも叶わない。
自身の力で凍りつくだけの、屈辱。傷つきそうな感覚なのに、いざ吐き出さずにいてみれば思っていたより冷静だった。
……そう、あの子を凍らせたくはなかったから。きっとこうするのがいいんだよ。きっと。
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「……♪……♬……、♪ ♩ ♬ ♬――『もういいかい』、『もう、いいよ』」
2020-12-20 09:05:04 +0000